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0203 初夢

「まずは、その四人について教えていただけますかな」


名古屋城天守閣には、今は主人のいない机が三つある。

あずさとヒマリと愛美ちゃんの勉強用の机だ。

はぁーっ、三人がいないと寂しい。

窓の外は、すでに暗闇になっている。


風呂から出て来た俺の正面に、北尾張を任せている加藤が座り、その左右に、美濃の斎藤と南尾張の東が座り、その左右に北伊勢の本多と南伊勢の藤堂が座っている。北伊勢の本多はもともと浜松の城主だったが、桑名に移動してもらい北伊勢を守ってもらっている。

加藤の後ろに尾野上隊長が座っている。

これが尾張の六人の最高幹部という事になる。


俺の正面にいる、加藤が俺の横にいる四人を見て質問してきたのだ。


「この四人は、俺の左隣が響子さん、その左横がスケさん、右隣がカノンちゃんその右横にカクさんだ」


紹介の順に、全員が頭を下げてくれた。

尾野上隊長は四人の顔を知っているようで少し驚いている。

そう言えば、尾野上隊長は今川家の主力部隊の隊長だった人だ。


「この四人は、元今川家、家中の者だったのだが、今は俺に命を預けてくれている」


「それならば、我らも同じにございます」


加藤が言うと、六人全員がうなずいた。


「そうだね。そうだろう。だが、お前達の命は、俺の守るべき命だ。そうだなー、どういったらいいかなー。もし、お前達がなにものかに捕まり人質になったら、俺はどんな手段を使っても助ける。だが、この四人なら、俺は見捨てることが出来る。そういう使い捨てに出来る命の持ち主なのさ」


まあ、そうは言ってもすでに情が入ってしまっているので、見捨てるようなことは無いけどね。


ここで、食事が運ばれてきた。

陶器の器だったので、信楽の事を思い出した。


「信楽って知っているか?」


「タヌキの焼き物ですな」


加藤でも知っているようだ。

有名なのだろう。


「うむ、陶器が手に入る」


「はっ!?」


加藤が、すごく驚いた顔をした。

何をそんなに驚いているのだろう。


「いや、だから、焼き物が手に入る。まだ、誰も手を出していないようだ。老人が多いのだろうが、人も結構生活しているようだ」


「殿、尾張には瀬戸があります。日本中に知れ渡る瀬戸物の産地です。陶器ならここで手に入ります。まあ、人が大勢いるのなら、そちらは喜ばしいことですが」


「なっ、なにぃーー!! 瀬戸物って瀬戸内海で出来た陶器のことじゃないのか」


「違います。尾張の瀬戸市で作られた陶器です」


「そうだったのか。じゃあ、瀬戸の花嫁って、尾張の歌だったのか!」


「いえ、そちらは瀬戸内海の歌だと思います」


「えーーっ」


「しかし、信楽に人が大勢いるという事がわかっただけでも、殿が遊びに行った価値がありましたなあ」


斎藤が言った。

この斎藤は、元は榎本と言う名だったのだが、美濃の岐阜城の城主なので斎藤と、名前を改めてもらった。


「何を言われます!! 遊びに行ったなどと!! 伊勢では、藤堂様を毛むくじゃらの化け物から守り、藤堂家を傘下に加えました。大和の地では新政府軍の支配から大和の人を解放し、解放軍まで組織しました。その上、新政府軍に入り込み織田軍から大勢の新政府軍の命を救いました」


響子さんが、俺の代わりに怒ってくれました。目に一杯涙が溜まっています。


「響子さん、俺の代わりに怒ってくれて、ありがとうございます。でも、まあ、それほどたいしたことはしていません」


「はぁーーっ!!」


全員が驚いて俺の顔をみた。


「響子殿、済みませんでした。殿のお供はさぞかし大変だったでしょう。その苦労も考えずに浅はかな言い方をしてしまいました。申し訳ありません」


「い、いいえ、私が言いたかったのは、シュウ様が決して遊んでいた訳ではないと言いたかったのです」


すでに、斎藤は理解しているようだ。

この後、大阪で見てきたことを詳細に伝え、結論としては新政府軍の兵士もまた、木田家が救うべき日本人であるという認識を共有した。

また、取り残された人が大勢いるようなので、本多と藤堂で、山の中の街を広く保護するように指示した。


話しが終る頃には深夜になってしまい、そのままこの部屋で眠ることにした。




「とうさん……とうさん……」


「あずさか?」


「うん、アドちゃんも一緒。来ちゃった」


「もう、怒っていないのか」


「うん、アドちゃんから全部聞きました」


「そうか」


「お疲れ様でした」


「うん、行ってみて感じたのだが、あずさが一緒でも良かったかなと思ったよ」


「でしょうー」


「でも、あずさは、お勉強があるのか。残念だ」


「ぶーっ!」


「ふふふ」


「アド! アドもお疲れさん。今日はもう寝よう。明日は、はやいしな」


俺は、久しぶりに眠った。

そして、幼い頃のあずさとお安い外食をする夢を見た。

夢の中の世界は、まだ隕石が近づいている事が分かっていない、貧乏だけど幸せな世界だった。


翌朝、目を覚ますとあずさとアドの姿はもう無かった。


「殿、支度をお願いします」


加藤が、服を持って来た。どこで用意したのか、スーツだった

俺は、もう一度風呂に入った。そして、風呂に入って綺麗になった体で用意されたスーツを着た。

こんなの、会社の面接の時以来だ。


「お迎えにまいりました」


「おお、ミサ!! 綺麗なドレスだなー!!」


「はあーーっ!!」


久しぶりに会ったのに、いきなり怒らせてしまった。

一体、俺は何をしてしまったんだーー。

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