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0204 木田家本城へ

「きょ、響子さん、ミサは何を怒っているのでしょう?」


俺は小声で横にいる、これまた美しい着物を着た響子さんに聞いて見た。


「うふふ、『綺麗なドレスだなー』では、ドレスだけが綺麗に聞こえます」


「そうか、なるほど。じゃあ、相変わらずでかいおっぱいだなーでは、どうでしょうか?」


「あーそれを言ったら、セクハラです。最低すぎてもはや、激怒される姿しか思い浮かびません」


「えーーっ! ど、ど、ど、どうしたら良いんだー!!」


「プッ! もう良いわ。私が悪かったわ。綺麗な女性と一緒だったから、少し不機嫌になっていました」


「ま、まあ」


綺麗な女性と言われて、響子さんとカノンちゃんが嬉しそうに頬を赤くした。

そ、そうか。目を見開いて、「綺麗だ」って言えば良かったのか。

いや違う、俺みたいな豚は、女性を褒めてはいけなかったのだ。思い出した。


「木田の本城へは、ここにいる全員を運べば良いのですか?」


「はっ! お願いします」


加藤が答えた。

その返事を聞くとミサは全員を連れてテレポートした。



ミサのテレポートで木田産業の新社屋の大広間の前に移動した。

木田家では、この木田産業の四角い大きな新社屋を、城と呼んでいる。

ここには尾張の六人衆とスケさん、カクさん、響子さん、カノンちゃんの四人の計十一人で来た。皆は和服で、めかし込んでいる。

俺はジャージで良いのだけれどなあ。


「じゃあ、入るぞ」


「ちょ、ちょ、ちょっとお待ちを……こ、この奥に大殿がいらっしゃるのですよね。き、ききき、緊張します」


斎藤と、東が緊張している。

そう言えばこの二人、俺が木田家の「木田とう」とは知らないままだ。

加藤に口止めしていたからなー。


俺は、一呼吸おいて扉を開けた。


「尾張大田家の方が到着しました」


扉の横のかわいいメイドさんが声を出した。

って、あずさじゃねえか。

あずさは、俺に近づくと肩をトンとぶつけてきた。

ちゃんと手加減出来ている。


「とうさん、かっこいいです」


――はああーーっ!! そんなこと初めて言われた。


お世辞と分かっていても嬉しいもんだなあ。

なるほど、ここでスーツがかっこいいですと言われたら、こんなに嬉しくなかったかもしれない。


「ミサ、さっきは済まなかった。今日は、ものすごく美しいぜ」


横にいるミサの耳に超小さな声で言った。


「なっ!?」


ミサが、両手で口を押さえ、しゃがみ込んでしまった。

耳まで真っ赤になっている。

そんな、胸の空いたドレスでしゃがんだら、俺の位置からだと胸が丸出しみたいに見えるぞ。

いや、胸がでかいから、素っ裸に見える。

立ち上がって、「安心して下さい着ています」って出来ちゃうよ。


ミサは、何事も無かったように立ち上がった。

でも、口元が緩んでいる。耳はまだ赤いままだ。

やっぱり、こんな豚男に言われて、思わず滑稽で笑ってしまったのだろう。言わない方が良かったのかもしれない。

だが、つい言いたくなったのだからしょうが無い。


「尾張の皆様の席はこちらになります」


あずさが、席を案内してくれた。

広間は、畳敷きですでに俺達以外は全員そろっているようだ。


「ありがとうございます。あずき様」


斎藤があずさに御礼を言った。

あずさは、尾張では、大田あずきという名前だ。


「とうさんは、こっちよ」


俺はあずさに手を引っ張られる。


「と、殿どちらへ」


斎藤が何かを感じたようだ。


「あーすまねー。俺はよう、どうやらあそこの席らしい」


俺は正面の一段高い場所を指さした。


「ま、まさか。殿が、殿が……大殿なのですかー!」


「どへーーっ!!!」


尾張の席から、大声が出た。


「兄弟、また驚かしたのか。悪趣味すぎるぜ」


ゲンの前を通る時、ゲンが言った。

正面の一段高いところの中央に、俺の席があるようだ。


「とうさんはここ。そして私はここ。そして、ヒマリちゃーん、愛美ちゃーん。二人はここ」


俺の両横に、あずさと愛美ちゃんが座り、左隣のあずさの横にヒマリちゃんが座った。愛美ちゃんの横にアドがちょこんと座っている。

俺の後ろに並んで、黒いゴーレム、クザンと赤いゴーレム、シュラが立っている。

舞台の袖は少し、会場から見えなくなっていて、そこにミサと古賀さん坂本さんが座っている。


俺の席から見ると、左側にゲン一家がずらりと整列している。

右側には、勢力の大きさ順だろうか伊達、上杉、今川、北条、真田の順に、それぞれに従う配下を連れて座っている。

真田の横の末席に尾張の大田家が座っている。

俺が尾張大田家を見ていると、横のヒマリちゃんの視線も尾張大田家を見つめていた。


俺が席につくとすぐに料理が運ばれてきた。

席には、宴会用の一人用の机が置いてあり、そこにすでに重箱が置いてある。

それとは別に、もう一つお重が運ばれてきた。


お重は最初に、俺とゲンとあずさに同時に置かれた。

ちゃんと練習したのだろう、タイミングぴったりだ。

おかれた瞬間、重箱の蓋を、ゲンとあずさが開けた。

それに合せて俺も開けた。


料理はうな重とおせち料理だった。

蓋を開けた瞬間から、ゲンとあずさが食べ始める。

これこそが、木田家の食事の開始の合図である。

ゲン一家が次々食べ始めた。

最初は面食らっていた人達も、次々食べ始める。


――よかった。


俺は、ほっとしていた。

テレビで見た事がある時代劇の年始のあいさつは、全員が平伏して殿様がなんだか偉そうにしないといけない、そんなのを想像していたので、すごく嫌だったのだ。

まあ、それを嫌がることを知っているゲンや、柳川、あずさが配慮してくれたのだろう。


「来て良かった。おいしい」


愛美ちゃんはうな重がお気に入りだ。

育ちがいいのか、お上品に食べている。


ふと、あずさの横を見ると、ヒマリちゃんが料理に手を付けていない。

どうしたのだろう。


「ヒマリちゃん、どうしたんだ。おなかでも痛いのか?」


「いいえ、そうではありません」


ヒマリちゃんが、重い表情で俺を真っ直ぐ見つめてきた。


「じゃあ、どうした?」


「少しよろしいですか」


「もちろん」


ヒマリちゃんが、俺の手を握ってきた。


――えーーっ


なっ、なんだ。

ヒマリちゃんは、木田家ではあずさの次の美少女だ。

しかも、今日はうっすら化粧もしている。

きっと、古賀さんが一生懸命、メイクしたのだろう。素材を殺している。ヒマリちゃんにメイクはいらないよ。ピチピチなんだからー。

その横で、あずさが大口を開けてうな重を食べている。ほっぺたがハムスターのように膨らんでいる。やれやれだぜ。


しかし、ヒマリちゃんこんな大勢の前で手を握って、何をしようというのだろうか?

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