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第49話

「絵が描けん?自分で考えて、解決しろ。俺を頼るのは、まだ先だぞ」


騎士団から帰ってきたルイに相談したら、バッサリ切り捨てられた。

ひどい、せっかく相談したのに。


「では、もっと先になったら、ご相談していいんですね?」

「内容による。お前は、騎士団でもそう易々計画を通せないことを知らないだろう」

「参謀がいるんでしょう?」

「ああ、いるが、俺が気に入らない計画は通さんぞ。後は仲間内でも話し合いはするし、担当させた者の意見を優先的にする時もある」


まるで、騎士団って会社じゃないか!

私はそれがちょっと驚いた。

お兄様が所属できた騎士団だから、アニメとか漫画のイメージがあったのだ。

飛び抜けた才能の騎士団長に従う仲間がいる、幹部のような人たち、成長してくる若手、経験豊富な玄人。

そんな人たちばかりだと、勝手に想像していた。


「俺は頭の悪い輩が、騎士団にいてもらっては困るからな。常に周囲には考えさせている。場合によっては俺がいないことだって、あるからな」

「ルイがいない時……」

「そうだ。もちろん、俺は自分がいない時の対策をとっているが、その時が来ることは誰もが考えておかねばならん。もちろん、お前もだぞ」

「その、以前注意されましたので、騎士団長の妻である自覚は持つように……」

「そうだ。お前を守る盾は十分に準備しているが、お前自身がそれをすり抜けてもらっては困る」


私を守る盾を、ルイはすでに準備してくれているのか。

じゃあ、結婚式が終わったら、騎士団の誰かがこの屋敷に来てくれるのかも。

もちろん、そうなるなら心配事は減る。

頭のいい人が考えることって、スケールが違うなぁ、と思った。


「大体、絵が描けんくらいで相談してくるな。お前にはもっとできることがあるだろうに」

「そ、そうでしょうか……」

「子どもにはどう教えている?」

「え、子どもたちですか……?それは、えっと、見せてやらせる、という感じです」

「なら、そっちから先に進めればいいんじゃないのか?」

「あ!習い事!それなら、私が家庭教師でもいいですね!」


私は、今まで凝り固まっていた自分が溶けていくのが分かった。

形にこだわりすぎて、すべきことが見えていなかったのだ。

書籍化は最後の手段!

そういうこと!


「でも、家庭教師だとちょっとお月謝が……」

「何の為に、お前に部屋をやったんだ?」

「そっか、集まってもらったら、安い会費で!」


私は色々なことを考えた。

毎週、毎月、決まった時間を料理教室や裁縫教室として開放するのだ。

そこに一定の金額を出してもらい、通ってもらう。

それなら、準備もしやすいし、分からないこともお互い確認ができる。

異世界転生版ママ友会みたいにできるじゃないか!


「いい顔になってきたな」

「このやり方を流行らせたら、私がオーナーになって、権利を主張してお金をもらえばいいですね!」

「お前のそういう守銭奴的なところは、考えものだな……商売人の娘と言えば、それだけだが」

「フランチャイズ展開かぁ、夢があるなぁ!」


私がそんなことを口走っていたら、ルイが不思議そうな顔でこちらを見てきた。

何だろう?


「フランチャイズとは誰だ?どこの男だ!」

「あ……」


しまったー!!

ついつい、転生前の知識を口走ってしまったのだ!


「いえ、それは人の名前でありません!自分で作ったルールを、別の人にやり方を教えて、教えた人が利益の何割かを定期的にもらうやり方のことです」

「それをフランチャイズと言うのか?」

「はい!名前とやり方の貸し賃をもらう、という感じでしょうか。経営の責任的なものは相手がしますので、相手は私に支払う分も計算に入れて商売しなければいけません。上手くやれば、安い支払いで多くを稼げる可能性もあるんです」

「面白いやり方だな」

「はい、でも例えば私が何かしら供給をしなければ成り立たないものだと、私が商売をやめた時に、フランチャイズ先はどうするか難しい問題になります。ほとんどの場合は独立するでしょうけれど、最悪は廃業も。そうならない為には、私が供給するものは、物資ではない方がいいと思っています」

「つまり、知識や技術か……いいんじゃないのか?しかし、お前にそんな知識があったとはな」


感心したように、ルイは私を見つめてきた。

確かに、私は今まで黙っていることが多く、今回のユーマとお父様の取引が会ったから、少しやってみる気になったのだ。


フランチャイズの話は、転生前に私の実家に何度も打診があった。

大きなリゾート開発を考えてる会社が、ぜひうちにフランチャイズに入ってもらえないか、というのだ。

正直な話、持っていない会社ならフランチャイズがいい。

でもうちは老舗旅館という大きな看板があった。

だから、その看板を下ろしてまでフランチャイズに入ることは、お祖母ちゃんが許すはずもなく……。

相手の会社も、老舗旅館を傘下に入れると面倒だと思っていたから、定期的に一定額を回収できるフランチャイズと言ってきていたのである。

お祖母ちゃんはそれをすぐに見抜いていたし、父も猛反対していた。


そんな経験があったから、私はよく覚えていたのである。

でもこの世界なら、フランチャイズ展開の方が安心かもしれない。

私はお金が必要だと言っても、庶民から巻き上げる悪代官になりたいわけじゃない。

この人たちがや、子どもたちの未来が、大きく開くようなことをしたいのだ。


「そ、その、学園時代に、色々な本を読みまして……」

「そうか」

「あ、お義母様の書物を幾つかお借りしています!ハンスから!」


そう言うと、ルイは優しく笑って、そうか、と言った。

言葉はきついし、大して多くない。

おしゃべりでもなければ、優しくもない。

急に怒るし、睨んでくる。

そんなルイだけれど、少しずつ距離が縮まってきているのを感じる。


ルイと顔を合わせながら夕食を食べる。

今日は私が作ったシチューだと言ったら、おかわりしてくれた。

もともとよく食べる人だけれど、その食べっぷりにはビックリすることばかりだ。

どこに入っているの?と聞きたくなってしまう。


騎士団ならよく食べるんだろう、と自分を納得させているけれど、お兄様はそんなに食べなかった。

役職によるのかな、それともお兄様が現役ではないから?


「セシリア、結婚式の話だが」

「は、はい!」

「国王が教会の予定を決めてくださった。それに合わせるつもりだ。その後は、身内と知人だけ食事会をする。それは屋敷でするつもりだが、異論はあるか?」

「ご意見していいなら」

「なんだ?」

「立食パーティーのメニューを知りたいです」

「また食い物の話か」


悪いか!

でも自分の初めての結婚式だ。

どんな料理が出されるのか、とても気になる。

妹にも食べさせてあげたいし!


「ハンスにメニューは決めさせている。基本的なものばかりだが、お前が何か欲しいならハンスに聞け」

「ルイは食べたいものはないのですか?」

「結婚式だぞ、そんなに食ってばかりいられるか」

「いや、絶対食べるでしょ、あなたなら!」


む、とルイは小さくつぶやき、顔を逸らして「そうかもな…」とだけ言った。

食べない、という保証はできないのだろう。

そういうところは可愛いな、と思ってしまう。


「それも考えて、食べやすいものが多いといいなって思っているんです。お腹にたまって、旦那様の身動きが取れなくなると、私が忙しくなってしまいます」

「お前……言うようになったな?」

「まだまだ序の口だと言ったら、どうします?」

「はぁ、とにかくメニューに関してはハンスに聞け。材料の仕入れは業者に頼むが、心配があるならマリアにも頼んでくことだ」


ちょっと言い方はきついけれど、これが本来のルイなのだろう。

私は、結婚式のメニューを考えると、とても楽しくなってくる!

ウェディングケーキは、どうなっているんだろう……。


お姉ちゃん、心はまだまだ乙女のようです!



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