「おぉ」
さっきの、落ち着いた雰囲気のカフェから一転――何かの実験室を彷彿させるような場所に辿り着いた。
全面がタイルのようなものが設置してあって、無機質ながらも、しっかりと天井の至る所に証明が埋め込まれていて明るい雰囲気になっている。
地上だというのに――そう、まるで人口のダンジョンに居るみたいだ。
「ようやく来たみたいだな」
「え! あ!」
「なんていうか、俺が想像していたような少年じゃない感じだな?」
「あ、あの! 孤高の要塞と呼ばれている
「おいおい、
「んー、あー。まあ、そうと言われたら否定はできないけど」
「はぁ……調子が崩れるぜ」
声の方に振り返ると、まさかのまさか――壁に寄りかかっている
「ていうかさ、その孤高の要塞っていう別称みたいなのってどうにかならないんか」
「何を言っているだ翔。かなり気に入っていたと記憶していたんだけど、急に気が変わったのかい?」
「ちょ、リーダーそれはないぜ。少年の前でバラさないでくれよ」
「ああ、これは悪かった」
「まあ、そこまでいろいろと知っているんだら自己紹介は要らなそうだな」
「
急に雰囲気がシュッとしたのに俺もハッと我に返り、深々と頭を下げる。
「なんだって礼儀はちゃんとできるんだな。調子が悪くなりそうだ」
「ご、ごめんなさい」
顔を上げると、紅城さんは頭をポリポリとかいていた。
それにしても、噂ぐらいしか聞いたことがなかったけど……目の前に居るだけで身長差からくる迫力が凄い。
左手に持つ大盾、背中にも中盾、両手にはガントレットシールドを装備。
そこに噂話を追加すると、変形式の防具を身にまとっていて盾に様変わりするらしい。
普通だったら信じられない話だけど、身にまとっている深紅のフルプレートのような防具を見てしまっては信じる他ない。
いや、もはや装備や防具というよりは装甲と言った方が伝わりやすいのかも?
「それにしても、
「え……?」
「だってよ、人生に一度きりしか回すことしかできないスキルガチャを、そんな序盤で回そうなんて普通の人間だったら絶対に躊躇うだろ」
「ええ、それはまあ……」
「詳しくは聞かないようにしたが、何かしらの事情があったんだろう。だがな、俺はちゃんと鍛誠のような例外を知っているからな」
と、紅城さんは義道さんの方へ視線を向けた。
「まあ、ね」
「ってのも、別に説明しなくてもわかるんだろ?」
「は、はい!」
「にしても、俺が出番ってのは俄かに信じられないが。お前でもさばき切ることはできるんじゃないのか」
「あー、最初はそう思ったんだけどね。でも、限界値を探ろうとしたら――私じゃ、死んじゃうかも」
「ほほう、それは面白い。まさかのお前口からそんな言葉が発せられるとは」
「いやいや、無理なものは無理でーす。私、すっごく正直なだけだから~」
「よく言う。初めて出会ったとき、『こんな人の防御なんて簡単に突破できる』って噛みついてきただけじゃなく斬りかかってきただろ」
「懐かし~、そんなこともあったね」
え、ちょっと待ってください。
随分と物騒な話をされてらっしゃいますね?
俺の攻撃が人を殺せる、という話でも開いた口が塞がらないというのに、仲間同士で決闘をしてたんですか? というか、あんなにやさしく接してくれた
そんなこんなしていると、『パンッ』と手を叩いた音が響いて全員が
「さあ、始めよう」
全員で義道さんの後を追い、部屋の中央へ移動。
「じゃあまずはスキルを見せてくれるかな。俺たちは離れなくても大丈夫かな」
「はい、大丈夫です。では――
「ほほう。見た感じは結界……この綺麗な輝きを表現に加えるなら聖域と言ったところか」
「はい。浮かび上がったのは『聖域』という漢字で、読み方が『ワークショップ』でした」
「なるほど。ワークショップ……作業場、ということは何かしらの作業ができそうだけど、そんな感じかな」
す、凄い、凄すぎる。
まるで俺が手に入れたスキルを知っているような……いや、分析して次々と紐解かれていく。
「把握している情報としては、『空間から武器を取り出す』のと『武器を強化することができる』ということだけです」
「結界、作業場、武器庫、強化――まとめて聖域……ほほお、なるほど。鍛冶師である特性を存分に活かせるスキルとなっているわけだ。まさに、鍛冶師にとっての聖域だね」
ちぐはぐに散らばってメモをしていた内容が、次々に本になっていくような、そんな不思議な感覚に陥っていしまう。
「しかし、今――直面している課題は、1撃で壊れてしまう結界と1撃で壊れてしまう武器、というわけだね」
「はい、その通りです。それで、これが武器になります」
「随分と綺麗な剣だね。ちなみに、このまま外に出ても大丈夫そうかな?」
「はい」
「――なるほど。些細な攻撃でも壊れてしまうのか。しかし、強力な攻撃も相殺してしまう、かな」
結界の外に出た義道さんは、クルッと振り返って結界をコンッと叩いて――光の破片となって粉々に砕け散った。
「結界の方は詳しく調べられていないですけど、大体はそんな感じです」
「よし
「個人的には、最初から気合を入れていきたいところなんだが」
「ああ、それで構わない。どうなってしまうかわからなさそうだ」
「この期に及んで脅すのはやめてほしいんですが」
「【
元々紅い大盾をさらに覆うかたちで、六角形のシールドが展開した。
何がどうなっているかはわからないけど、あれが紅城さんのスキルなんだろう。
「さあ、鍛誠くん。可能な限りの強化、というものをやって攻撃してみてくれ」
「わ、わかりました!」
まさかこんなタイミングで、こんな場所であのときの再現をすることになるなんて。
こんなことだったら、
「――」
腰のベルトから小槌を取り出して……ダメだ、立ったままだとできそうにないから片膝を立てて座ろう。
そのまま右手にある剣を水平に前へ出して――打つ。
――カン――カンッ――カンッ――。
前回はこれぐらいだったかな。
でも、今回は時間の猶予がある。
だったら、10回ぐらいはやってみよう。
――カンッ――カンッ――カンッ――カンッ。
大丈夫だよな、鍛錬の最中に壊れないでれよ。
カンッ――カンッ――カン。
「いけます」
「……」
「おぉ」
深呼吸を繰り返しながら、1歩また1歩と紅城さんの元へ足を進める。
「すぅー、ふぅー……いきます!」
「っしゃ、こい!」
「はぁああああああああああああああああああああっ!」
上段から光剣を振り下ろし、紅のシールドへ直撃した結果――。
「っな!?」
あまりにも輝きを放っていた光剣にも驚いたが、まさかの紅城さんのシールドも粉々に砕け散ってしまったのだ。
「うっひょー、マジかよ」
「お疲れ様、鍛誠くん」
「……あ、ありがとうございました!」
「ひょえ~、まさか
「俺の方がビックリだっての。だがまあ、確かに
「ご、ごめんなさい! 上手く制御ができていないのに、前回の強化より上を試してしまいました」
「ほほう、ちまみに前回は何回だったのかな」
「3回か4回だったかなと思います」
「ほほう、それで【トガルガ】を討伐しちゃったんだね。もしかしたら、翔が全力を出したとしても破られちゃう可能性があるね」
「ちょっとリーダー、なんで全部バラそうとするんですか」
「ああ、ごめんごめん」
「え、今のって紅城さんは全力じゃなかったんですか?」
「まあな。だが、少なくとも50%は出したから――普通に考えたら、新米探索者に破壊されたらただの敗北でしかないが」
あそこまで凄まじかった存在感と見るからに突破不可能と思わせる盾が、実力の半分だったって……凄すぎる。
「じゃあ、そろそろお開きの時間だね」
「いろいろとご指導いただき、本当にありがとうございました!」
「いや、最後にまだ1つだけやることが残っているんだ」
「え?」
「俺のスキルを見せてあげる」
「え!? でも、それじゃ――」
「いいんだ。鍛誠くんがスキルを見せてくれたことに
「……で、ではありがたく見させていただきます」
「当然、2人も反対はしないよね?」
夏陽さんと紅城さんの方をチラッと見たら、やれやれと呆れていた。
「それじゃあ始めるよ。――【暁の導き】――」
「……!?」
正直、何が起きているのか意味がわからない。
でも義道さんがスキルを発動したその瞬間、天から……そう、まるで太陽のような光が部屋中を満たして、どうしてか体が温まってくる感覚が。
いや、元気が溢れてくると言えばいいのか、いや、無尽蔵なやる気が溢れてくるというのか。
「まだあるよ」
「え?」
「――【暁の軌跡】――」
「ふざけっ!? 【紅の断絶】!!!!」
「えっ!?」
キラキラと光る何かが風に乗って移動し始めたと思ったら、紅城さんがありえないほど大きく深紅色の壁を召喚し、キラキラは消え去った。
「い、いったい何が」
「さて、これにて終了。後は
「うげー、はいはーい」
俺はこのとき、人生で初めて奇跡を体験した。
それは、本当に理解ができない出来事で、でもそれと同じく、一生忘れられない出来事にもなった。
いや、もはやあれは――生きる伝説を目の当たりにしてしまったのかもしれない。