優介くんが突っ込みを入れる中、私はなおの発言を聞いて足に力が入らなくなり、ガクッと地面へ両手をついた。
まさか…まさか一番のライバルが優介くんだったなんて、思いもしなかった。
女の子の私でさえ同じベッドで寝ていても何も起こらないのに…そんな思いから「ライバル…優介くんはライバル…」と呟いているとなおが私を見て首を傾げていた。
「きゃあ!素敵!二人ってそういう関係なん?!」
「え…」
私とは対照的になおの話を聞いて目をキラキラさせる本田さん。その本田さんを見て、なおと優介くんの顔が引きつっている。
どうして本田さんはショックを受けないのだろうとこの時不思議に思っていたけど、後からなおに聞いてみたらそういうのが好きな人もいるんだと教えられた。
簡単に挨拶を済まし、二人とは別れて屋台を回る。私が食べたいと言った屋台の物を全部買いそろえて学校の校舎へ入った。
なおは大量の食べ物を持つことになると予想していたのか、ちゃんとビニール袋まで持参して人気のない場所まで運んでいる。
「どこで食べるの?」
「美術室が文化祭の時だけ物置状態になってるからそこで」
「人…来ない?」
「たぶんな。美術部の展示は別の教室だし来る奴いないだろ」
そう言いながら、なおが美術室の扉を勢いよく開けた。
なおの言った通り、色んな物が散乱しているだけで人の気配は全くない。廊下を見ても一切人は見当たらなかった。
「念のために部屋の隅で食べるか…」
「うん、危ないからなお気をつけてね」
「余裕」
部屋の中に置かれている物は、大体が大きな看板や台のような物で、これでもかというくらい窮屈に敷き詰められていた。
まるで迷路のようになっているから、物をすり抜けられる私とは違い、なおは慎重に物を避けながら進んでいる。
一番奥の角に辿りつくには、中腰にならないと行けないくらいの狭さだった。
「狭いね…」
「まあでもここなら絶対見つからないし、安心して食べられるだろ?」
「うん!」
「先にアイスから食べて、溶けそう」
「任せて!」
なおの左手にあったアイスにガブッと齧り付く。そんな私を見てなおが笑い始めた。
でっかい口ーと言われ、うっとなり固まる。女の子だと意識してもらうために頑張ろうと言っていた矢先にまたやってしまった。
反省しながら小さな口でアイスをもう一度食べると、何故かなおがより一層笑い始める。
「もう!笑わないで!」
「ブッ…クク、あとは僕の分」
そう言った後、なおが一気にアイスを口の中に入れた。
少し溶けてしまった液体がなおの手に垂れていてそれをペロッと舐める仕草にドキッとする。
美味いけど寒い!と叫んでいるなおの声は、あまり耳に入って来なかった。
窮屈な隙間に二人で座っていることで自然と肩が密着する。
この状態に今さら恥ずかしくなって、ボッと自分の顔が熱くなった。
やっぱり昨日、無理を言ってでも髪を切ってもらえば良かったかな…こんなにアピール出来る良いチャンスなのに、私は何一つ女らしいことを出来ていない。
リンゴ飴の屋台で見た女の子みたいに少食でもなければ可愛げもない。
優介くんの彼女みたいに綺麗でもなければオシャレでもない。
全くと言っていいほど振り向いてもらえる要素が見当たらなかった。
「髪…切ってもらえば良かった」
「だから、昨日も言ったけど僕が切ったらまた変になるって…」
「……。」
「ほら、次。溶けるからかき氷な」
なおがかき氷をすくって私の前へと差し出してくれる。
食べようとして一度開けた口は、すぐに閉ざしてしまった。
昨日と同じ返事をされてショボンと落ち込んでしまう。
もっとオシャレになりたい、可愛くなりたい。そう思えば思うほど、何で私は幽霊なんだろうと悔しくなる。
生きていたら、女の子として意識してもらえたのかなとか、お付き合いすることだって出来たのかなとか、そんなことを今さら考えても仕方がないのに、どうしても頭の中を過ってしまう。
膝を抱える両手にぐっと力が入った。
「なんでそんなに短くしたがるんだよ」
「可愛くなりたいから…」
「ふ~ん…」
僕は伸ばしてくれた方が好きだけど…
なおが、自分の口にかき氷を入れながらそう呟いた。
あまり深い意味はなかったのかもしれない。それでも「好き」という言葉を口にしてもらえただけで私の心は一気に舞い上がる。
「本当?!」
「え…うん、伸ばせば?ぐちゃぐちゃにならないように手入れすれば大丈夫だと思うし」
「そっか…伸ばした方が好きなんだ」
「……食べないの?」
「食べる!!」
嬉しい!私でも好きになってもらえるかもしれない!
口角が上がりきって今の私は気持ち悪い顔をしていると思う。でも抑え切れなかった。あまりにも嬉し過ぎたから。
差し出されるかき氷のスプーンに、思い切り大きな口で齧り付く。
また大きな口だと笑われても、今はどうってことない。そう思えるくらい、今の私はなおの言葉で舞い上がっていた。
私の食べっぷりを見て笑ってるんだろうなと思い、スプーンを咥えながら目線を上げてみる。
「……あのさ」