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episode_0181

「一人で、大丈夫です」


 小さく頷いたアリーシャに「そうか」とポンポンと頭を叩く。

 アリーシャが離してくれないなら、風邪を覚悟で側についているつもりだった。少しだけ安心する。


「何かあれば呼びに来てくれ」


 立ち上がると、脱衣所に向かう。

 中に入る前に振り返るが、背を向けて座ったアリーシャはピクリとも動かなかった。


(本当に何かあったら呼びに来るか)


 さすがに、そこまで子供ではないと思うが、今日のアリーシャは何をするか予想出来ない。

 早く休んで、立ち直って欲しい。

 半乾きのシャツを脱ぐと、脱衣籠に放り投げたのだった。


 それでもやはりアリーシャが心配で、手早くシャワーを浴びるとすぐに部屋に戻る。

 電気はついたままだったが、空になったカップが置かれていただけで、アリーシャの姿はなかった。

 念の為に自分のベットを確認すると、横になった人影が見えたことから、既に寝たのだろう。


 屋敷から出てなくて一安心すると、電子メールを立ち上げる。

 やはり、上官のプロキオンから安否を確認する連絡が来ていた。

 先程の雷は、オルキデアの屋敷近くの避雷針に落ちたようで、ここを含めた数軒が停電の被害に遭ったようだ。

 それ以外に、王都に被害は無いらしい。

 出動する必要がないとわかり安心する一方で、早急にプロキオンに連絡をするべきだろう。


 プロキオンに返信を送ると、それ以外でプロキオンや部下たちがメールで送ってきた急ぎの案件に目を通して、指示をまとめた文書を作成する。

 しばらくの間、指示書を作成していると、ふと人の気配を感じて顔を上げる。


「アリーシャ。眠れないのか?」


 薄手の寝間着姿でやって来たアリーシャは、ふらふらとオルキデアの元にやって来る。


「風邪引くぞ。何か掛けないと……」


 毛布か何かないかと、立ち上がって机周りを探していると、「あの」と声を掛けられる。


「さっきはありがとうございました。自分でも、どうしたらいいのかわからなくて……」

「……大したことじゃない。気にするな」


 俯いていたアリーシャだったが、ゆっくり顔を上げると、泣きそうな顔で何かを訴えようとしていた。


「どうした?」

「私、これからもオルキデア様の側に居たいです。オルキデア様の側が一番安心出来るので……」


 先程の取り乱したことを言っているのだろう。オルキデアは「それは構わない」と頷く。


「この一時的な結婚が終わっても、他に好きな男が出来るか、ここを出て行きたいと思う時まで、ここに居てもらって構わない。

 最も、俺はあまり帰って来れないかもしれないが……」

「そうじゃないんです!」


 言葉を遮ると、首を大きく振る。

 大きく息を吸うと、覚悟を決めたように顔を引き締めたのだった。


「私、貴方のことが好きです!」


 虚をつかれたように、一瞬、オルキデアは大きく目を見開く。


「それは、以前と同じように友人としてか?」


 以前、友人としてオルキデアが好きと、アリーシャに言われたことがあった。

 また同じ意味かと聞くと、今回は否定された。


「私が好きな男性はオルキデア様です。他の人は考えられません……!」

「アリーシャ、君は……」

「本当の意味で、夫婦になれなくても構いません。オルキデア様が他の人が好きになったらそれでも良いです。

 ただ、側にいられるなら、どんな形でもいいんです! 使用人でも、愛人でも、捕虜でも、ペット以下でも、なんでも!

 これからもずっと一緒に居たいです!

 貴方にもっと相応しい女性になって、貴方の力になりたい……」


 一気に話したアリーシャは肩で大きく息を吸うと、また話し出す。


「もう守られてばかりは嫌なんです! 私も貴方の隣で、貴方が私を守ってくれるのと同じくらい、貴方を守りたい。

 だって、私は貴方のことが、好きだから……!」


 その言葉を聞いた途端、オルキデアは目を伏せたまま、アリーシャの元に足早に向かう。

 そうして、その華奢な肩に触れたのだった。



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