目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

episode_0182

「アリーシャ、君は疲れているんだ。まだ休んだ方がいい」

「もう充分、休みました。私は本当に、貴方のことが……」

「朝までまだ時間がある。……休みなさい」

「本当に……好きなんです……。貴方のことが……」


 ポロポロと涙を流して、シャツにしがみついてきたアリーシャを促して、ベッドに連れて行く。


 アリーシャをベッドに寝かせると、オルキデアはそっと肩まで掛布を掛ける。


「どうしたら、貴方の側にいられますか?

 ずっと、側に居たいんです。もっと、オルキデア様のお役に立ちたいんです」

「……君には、俺よりももっと相応しい男が居るはずだ。俺のことは忘れて……」

「忘れられません!」


 アリーシャは掛布を捲りながら起き上がると、オルキデアに抱きついてくる。咄嗟のことにオルキデアはどうすることも出来ず、ただアリーシャを抱き留めただけだった。


「忘れられません! 貴方からもらった沢山のモノ。沢山の温かい想い。

 初めてなんです! こうして、誰かから温かい何かをもらったのは……」

「アリーシャ……」


 涙に濡れた菫色の瞳と目が合う。アリーシャの瞳の中に一番星の様な輝きを見つけて、オルキデアは息を呑む。


「……オルキデア様は、私のことが嫌いですか?」

「そんなことは……」

「嫌いならそれでいいです。

 でも、私はずっと貴方のことを想っています。貴方から貰った沢山の思い出と一緒に」


 アリーシャはそっと身体を離すと、「困らせてごめんなさい」と謝る。


「もう少し寝ます。おやすみなさい……」


 アリーシャは背を向けると、ベッドに横になる。

 頭まで掛布を被ると、そのまま寝たのだった。


 アリーシャの邪魔をしないように、オルキデアはベッドから離れると、部屋に戻って、指示書の作成に戻る。


(好きか……)


 誰かから、こうやって真っ直ぐに想いを伝えられたことはなかった。

 涙に濡れた菫色の瞳が、頭から離れそうにない。アリーシャに掴まれたシャツには、今も熱が残っているような気さえしたのだった。


 いつもなら時間も掛からずに完成する指示書が、何故かこの日は何倍もの時間が掛かった。ようやく完成したのは、夜もだいぶ更けてからであった。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?