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episode_0220

「これからはそんなことは無いから安心しろ。俺が守ってやる」

「オルキデア様……」

「お前も何かあったらすぐに言って欲しい。相手が男だろうが、女だろうが、相手が後悔するような目に遭わせてやる」


 目をぎらつかせて薄っすら笑うと、困ったように「あ、ありがとうございます……」と返されたのだった。


「でも、あの、その時は、ほどほどにお願いしますね……」

「ん? まあ、お前がそう言うなら」


 袋から油紙を取り出すと、少しだけ包みを開けて中身を確認する。

 油紙に包まれたものを確認すると、アリーシャに渡したのだった。


「これが頼まれていたものだ」

「ありがとうございます」


 受け取ったアリーシャが油紙を開けると、中からは食料を唆る、こってりしたソースの匂いが漂ってきたのだった。


「これです。これが食べてみたかったんです!」


 串に刺さったパンを取り出すと、アリーシャは目を輝かせたのだった。


「確か、これはハルモニアが交易をしている国から伝わったものだな」

「そうなんですか?」

「ああ。ずっと東にある国だったと思う。屋台にはパンとしか書いていなかったが、ちゃんと名前があったはずだ」

「なんて名前なんですかね。屋敷に戻ったら調べてみますね」


 早速、アリーシャは「いただきます」と言って、パンに噛り付く。


「腹持ちは良いはずだぞ。甘辛く味付けされているからな。パンの中にも野菜が入っているから食べ応えもある」


 そう言いながら、オルキデアも自分用に買ってきたソーセージが入った油紙を開く。


「本当ですね。甘辛いソースとマヨネーズが絶妙なバランスを保っています。もちもちしたパンの中には、火が通ってしんなりした野菜が入っているので、食べやすくて、お腹に溜まりそうです」

「そうだろう。昔、俺も食べたからな」


 子供の頃や士官学校生時代に、祭りといえばこのパンだった。

 値段も高くなく、それで腹持ちもいいので、食べ盛りの年頃には、人気の屋台メニューでもある。


「そうなんですね。なんだか、今日はオルキデア様の思い出が沢山聞けて楽しいです!」

「これくらいしか話せるような思い出がないからな。……他はあまり良い思い出がない」

「悲しい思い出……ですか?」

「それもあるが、一番は恥ずかしい思い出が多くてな」

「オルキデア様にも、誰にも話せないような恥ずかしい思い出があるんですか? 意外です……」

「俺だって、生きている以上、数えきれないくらいの失敗や恥を経験したんだぞ」


 そんな事を話していると、先に食べ終わったアリーシャが、じっとオルキデアの手元を見ているのに気づく。

 その視線の先にあるのは、先程屋台で買った串に刺したソーセージ。


「……こっちも食べてみるか?」

「な、なんでわかったんですか!?」

「視線を感じたからな」


 言葉に詰まるアリーシャに、ほとんど食べていなかったソーセージを渡すと、袋の中にまだ買ったものが残っていたことに気づく。


「忘れてた。これも買ったんだった」

「それは、アップルですか? 随分と小さいですが……」

「飴細工用に改良した品種だろう」


 オルキデアが持つ棒に刺さっていたのは、拳サイズの小さなアップルであった。

 琥珀のように透き通った飴でアップルをコーティングして、冷やして固めたものが袋に入れられて売られていたのだった。



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