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episode_0221

「アップル以外にも、いくつか果物が並んでいたが、お前にはこれが似合う気がしてな」

「アップルですか……」

「赤く熟したアップルの様な色をしているからな。お前の頬は」


 赤く色づいたアリーシャの頬は、まるで熟したアップルの様だと常々思っていた。

 指で突いて、齧り付きたくなるくらいに。


「そこまで、赤いですか? 私の頬」

「アップルの様な鮮やかな赤だな。……唇で触れれば甘い味がして、ずっと吸っていたくなる」


 アリーシャは顔を背けると、ソーセージに齧り付く。

 オルキデアの位置から表情は見えないが、耳まで真っ赤な様子から恥ずかしがっているのだろう。

 そんなアリーシャを微笑ましく見つめながら、「帰ったら食おう」と飴を袋にしまったのだった。


 アリーシャが食べ終わると、油紙に串を包み、空になった飲み物ごと広場に設置しているゴミ箱に捨てる。


「他にも何か食べるか?」

「特には……。それより、今度は出店を見たいです!」

「出店だな。わかった。こっちだ」


 依然として混雑する広場からアリーシャの手を引くと、出店側へと向かう。

 出店には、ペルフェクトの工芸品から保存食、菓子、酒、ジュース、果物、花、ハルモニア経由で輸入した他国の交易品まで、数多くの雑貨や食品が並んでいたのだった。


「こんなに種類があるんですね」

「百貨店が協賛している店もあるからな。そこの他国の品を扱っている雑貨店がそうだ」


 オルキデアが示したのは、出店のテントと品物を並べたテーブルクロスに、百貨店のロゴが入った店であった。


「百貨店が協賛している店は、ハルモニアを始めとする周辺諸国から、独自の交易ルートを使って集めた物を販売しているらしい」


 中立国であるハルモニア経由なら、シュタルクヘルトから妨害を受けないので、商品を輸入しやすい。

 加えて、ハルモニアからの輸入は、他国からの輸入に比べ、関税も安ければ、軍による監視の目も潜り抜けやすい。

 その分、国で禁止している違法品の密輸入も後が立たないが。


「百貨店が持つ独自の交易ルートによって、たまにシュタルクヘルトの品物も混ざっていることがあってな。危険物や思想に関するものでなければ、軍も手を出しづらい」

「どうしてですか?」

「あまりおおっぴらには言えないが、百貨店は軍部にも出資しているんだ。金から物まで。

 それを切られてしまうと、些か軍部の財政事情が苦しくなる。だからこそ、余程のことで無ければ、口出ししづらい」


 勿論、財政事情は苦しくなるが、軍部が傾く程ではない。

 ただ、戦争が長期化している以上、いずれは出資なくして、成り立たなくなる時も来るだろう。

 そうしなければ、国の予算の補填として税金の値上げや物価の高騰など国民に余波が来る。


「終戦を迎えれば、気にする必要はなくなるのでしょうか……?」

「どうだかな。終戦を迎えれば、出資が減って軍部は縮小される。

 その代わり、今ほど検閲が厳重じゃなくなるから、シュタルクヘルトから交易品が輸入しやすくなる。人々の往来も容易くなるだろうさ」


 昔に比べれば国内外への往来は緩和されたが、軍所属のペルフェクト兵はハルモニアへの入国を制限されている。

 ハルモニア国内での無益な争いを避ける為と言われているが、一番はシュタルクヘルトとの衝突を避ける為であろう。


 頻繁にペルフェクト兵がハルモニアへの出入国を繰り返していたら、同じく兵の出入国を制限しているシュタルクヘルトが変な勘繰りを入れてくる。

 両国に対して中立を宣言しているハルモニアを板挟みにした対立構造は、ペルフェクト側からしても、なんとしても避けなければならない。

 そうしなければ、ハルモニアとの関係が悪化してしまい、交易を始めとするハルモニアとの関係が断絶しかねない。この国はハルモニアとの交易に助けられているところも多い。今やハルモニアから交易品は国の郊外や国境沿いの軍基地にまで届き、国民の生活の奥深くまで関わっているからだった。



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