『のこったのこった! のこったのこったァ!』
行司の掛け声が土俵に響く。その声に合わせて観客の歓声が土俵を包む。歓声を浴び、私達の
「おおおおおっ!」
ゾヘドさんが猪突猛進とばかりに疾駆する。スナップを利かせた右の平手打ち――張り手が私に迫る。しかし、敏捷値極振りの私には遅過ぎる。屈み、ゾヘドさんの張り手を躱す。同時に私の張り手がゾヘドさんの左脇腹を叩く。
更に同時、ゾヘドさんの左の張り手が迫っていた。全力で土俵を蹴り、ゾヘドさんの腕の届く範囲から離脱する。
「あっぶな……!」
今、張り手の風圧が顔を煽った。もう少し回避が遅れていたらダメージを受けていた。
ゾヘドさんの攻撃力は極致だ。当たれば一撃で死ぬ。
離脱の勢いを土俵に踏み付け、前に跳び出す。掌底を繰り出そうとして、目の前にゾヘドさんの掌が先に迫っていた。顔を左に動かして掌を躱す。掠った髪の毛が数本千切れて宙を舞った。すれ違い様に張り手をゾヘドさんの腹部に叩き込む。
「ちょこまかと!」
ゾヘドさんが私を追う。私も即座に方向転換し、ゾヘドさんに立ち向かう。ゾヘドさんは両腕を大きく広げ、私を逃がさないつもりだ。しかし、その攻撃方法はさっき躱したばかりだ。
ブレーキを踏んで動きに停滞を挟み、ゾヘドさんのテンポを狂わせる。ゾヘドさんの腕が戸惑った隙に再加速、再度すれ違い様の張り手を入れた。土俵際まで進んで間合いを確保し、左足を軸に右踵で土を削って向き直る。
冷や汗が止まらない。クリーンヒットどころか掠り傷すら致命傷になりかねないなんて緊張感が半端ない。
しかし、それにしても、
「ゾヘドとかいう奴、妙にタフだな。筋力値極振りなんだろ?」
「ああ。あいつも生命値にはポイントを振っていねえって話なんだが……」
土俵の傍で私達の試合を見守っていたラトとマイが眉をひそめる。
二人が疑問に思うは当然だ。今の攻防だけでも三連続も攻撃に成功している。【二乗の
なのに、ゾヘドさんは倒れない。表情にはまだ余裕がある。HPの残りはまだそれ程深刻にはなっていない証拠だ。
その
「スキルだよ」
「……スキル?」
「うん。あれはゾヘドの【筋肉の鎧】の効果だ」