パッシブスキル【筋肉の鎧】――私の【二乗の
効果は被ダメージ時にのみ生命値に筋力値のポイントが加算される事。レベルアップ時にHPの上昇値が増えたり状態異常に耐性を得たりする事はなく、純粋にダメージ数だけを軽減するスキルだ。
ゾヘドさんの筋力値は255。つまり実質、基礎値と合わせて260の
攻撃力も防御力も最強。その代わり速度も魔術も最低。まさに
「それでもっ!」
ゾヘドさんに突っ込む。激突の寸前、左右にステップを入れてフェイントにする。ゾヘドさんが迷った刹那、彼女の胸部を掌底で叩く。クリーンヒットに僅かに後退するゾヘドさん。彼女の動きが滞った合間に距離を離す。
「ぐっ……!」
「それでも着実にHPは削っていっている!」
どんなに生命値が高くても、ダメージ無効化なんて真似は出来ない。260の生命値相手でも260の筋力値ならダメージを与えられる。綱渡りだけど、このまま行けばゾヘドさんのHPをゼロに出来る。
――そう思った矢先だった。
「【
距離を詰めようと私が土俵を蹴る直前だった。ゾヘドさんの動きが急に速くなった。いいや、速くなったというレベルじゃない。まるで瞬間移動のようだった。彼女は突然、私と同等の速度にまで達したのだ。人類最速――敏捷値極振りの私と同じ速さに。
不意を突かれた私は思わず前進の足を止めてしまう。ゾヘドさんの手が私の廻しを掴んだ。
「い、今の加速は……!」
しまった。ゾヘドさんがこの技を持っているのは知っていた筈なのに、発動を許してしまった。
【夢幻走法・陽】――筋力値が200を超えた者に与えられるアクティブスキルだ。そんなにパワーがあるのであれば、それ相応の瞬発力もある筈だという理屈から生まれた技だ。敏捷値に筋力値のポイントを加算する。ただし、ただし、効果は三十秒間、直線的な前進限定――つまり踏み込む時だけという制限がある。
どこかで必ずこの技を使ってくるだろうと警戒していたのに、向こうのタイミングを読む
「ようやく捕まえたぁ! さあ、このまま押し出させて貰うよ!」
「くっ……!」
ゾヘドさんの獰猛な笑みに、こめかみに冷や汗が流れた。