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#86 パラメータースキル

 パッシブスキル【筋肉の鎧】――私の【二乗のことわり】同様パラメーターポイントによって取得するスキルであり、こちらは筋力値が100を超えた者に与えられる。

 効果は被ダメージ時にのみ生命値に筋力値のポイントが加算される事。レベルアップ時にHPの上昇値が増えたり状態異常に耐性を得たりする事はなく、純粋にダメージ数だけを軽減するスキルだ。


 ゾヘドさんの筋力値は255。つまり実質、基礎値と合わせて260の生命値ぼうぎょりょくをゾヘドさんは持っている事になる。

 攻撃力も防御力も最強。その代わり速度も魔術も最低。まさに戦車タンクタイプだ。


「それでもっ!」


 ゾヘドさんに突っ込む。激突の寸前、左右にステップを入れてフェイントにする。ゾヘドさんが迷った刹那、彼女の胸部を掌底で叩く。クリーンヒットに僅かに後退するゾヘドさん。彼女の動きが滞った合間に距離を離す。


「ぐっ……!」

「それでも着実にHPは削っていっている!」


 どんなに生命値が高くても、ダメージ無効化なんて真似は出来ない。260の生命値相手でも260の筋力値ならダメージを与えられる。綱渡りだけど、このまま行けばゾヘドさんのHPをゼロに出来る。

 ――そう思った矢先だった。


「【夢幻走法ムゲンソウホウヨウ】――!」


 距離を詰めようと私が土俵を蹴る直前だった。ゾヘドさんの動きが急に速くなった。いいや、速くなったというレベルじゃない。まるで瞬間移動のようだった。彼女は突然、私と同等の速度にまで達したのだ。人類最速――敏捷値極振りの私と同じ速さに。


 不意を突かれた私は思わず前進の足を止めてしまう。ゾヘドさんの手が私の廻しを掴んだ。られ、土俵際にまで追い詰められてしまう。更には衝突時の衝撃で私のHPが一桁にまで減ってしまった。三分の一どころか殆ど残っていない。押されただけで叩かれてもいないというのに瀕死の状態だ。


「い、今の加速は……!」


 しまった。ゾヘドさんがこの技を持っているのは知っていた筈なのに、発動を許してしまった。


【夢幻走法・陽】――筋力値が200を超えた者に与えられるアクティブスキルだ。そんなにパワーがあるのであれば、それ相応の瞬発力もある筈だという理屈から生まれた技だ。敏捷値に筋力値のポイントを加算する。ただし、ただし、効果は三十秒間、直線的な前進限定――つまり踏み込む時だけという制限がある。


 どこかで必ずこの技を使ってくるだろうと警戒していたのに、向こうのタイミングを読む技術スキルの方が上だった。


「ようやく捕まえたぁ! さあ、このまま押し出させて貰うよ!」

「くっ……!」


 ゾヘドさんの獰猛な笑みに、こめかみに冷や汗が流れた。

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