「やあっ!」
「おぷばっ!?」
組み合った状態のままゾヘドさんが頭突きを繰り出す。首を捻り、私は迫る額を躱す。超攻撃力の頭突きに推しのガチ恋距離なんて二重の意味で冷や汗が止まらない。
だというのに、ゾヘドさんは諦めず二度三度と頭突きを繰り出してきた。その度に私は首を前後左右に動かして肉体へのダメージは避けるけど、心臓はドキドキしまくりの大ダメージだ。
そんな私の心境など露知らず、ゾヘドさんは悔しげな表情をする。
「くそ、この距離でも敏捷値極振りには当たらないか。……じゃあ、これは!?」
ゾヘドさんが右手を回しから外して、拳にして私に振り下ろす。殆ど反射的に私も拳を突き上げた。拳と拳が正面衝突する。【二乗の
「これも駄目か。ていうか、むしろ私の方がダメージ受けてんじゃん! 敏捷値極振りって何だったっけ!?」
「【筋肉の鎧】に言われたくないんですけど!」
スキル【二乗の
でも、【筋肉の鎧】や【
「……やっぱり押し出すのが確実か」
ゾヘドさんの手が再び私の廻しに伸びる。抵抗しようにも単純な筋力値の差のせいで無理だった。廻しを掴まれ、ゾヘドさんの腕の中に囲まれてしまう。
「さあ、とどめだ!」
ゾヘドさんの足に力が入る。観戦していた皆の顔が強張る。筋力値極振りに組まれたらもうお
――だからこそ、そこに付け入る隙が生まれる。
「【
ゾヘドさんが私を土俵の外に押し出そうとする。けれど、それに私は抵抗した。ゾヘドさんの廻しを掴み返し、土俵際に踵を擦り付けて粘る。
いいや、むしろ私の方こそがゾヘドさんを押していた。拮抗から優勢へ、徐々に私の踵を土俵際から離していく。私が一歩進むごとにゾヘドさんが一歩後退を強いられる。
「な、なんでっ!?」
ゾヘドさんが瞠目する。けれど、そこで驚いていては慢心だと言わざるを得ない。【夢幻走法・
【夢幻走法・陰】は敏捷値が200を超えた者に与えられるアクティブスキルだ。そんなに速く動けるなら、逆説的に相応の速筋がある筈だという理屈から生まれた。
効果は筋力値に敏捷値を加算する事。ただし、【夢幻走法・陽】と同じく直線的に前進する時の脚力だけ、効果は三十秒間の制限がある。
このスキルこそが私が三本勝負の三本目に相撲を選んだ理由。誰も彼もが筋力値極振りには真正面から挑める訳がないと思っている。その裏を掻く一手だ。
とはいえ、あまり選びたくなかった一手だ。制限時間付きなんて一か八か過ぎる。だけど、事ここに至っては是非もない。三十秒の間に勝負を着ける――!