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#92 なんで八体も配置したんですか(泣)

魔城兵キャッスルゴーレムがこっちに……!?」


 土俵周りが何事かと騒然とする。

 魔城兵といえば、私がログイン初日に遭遇したエネミーだ。手足を生やして動き回る、砦程の大きさの洋城。宝箱型魔物ミミックと同じ擬態して冒険者を待ち伏せにするタイプのモンスターだ。

 あの時はレベルがまだ低く、武器も尽きていたとはいえ一方的に負かされた。今のレベルでもあの巨体が相手では弓矢が通じるかどうか。その魔城兵がこの街に向かってきているっていうのか。


「ていうか、魔城兵キャッスルゴーレムって八体もいたんですか」

「うん。八方――東西南北と北東・南東・南西・北西にそれぞれ配置しておいたの。誰かが近付かない限り動かない設定なんだけど……」


 それが動き出したという訳か。でも、どうしてだろう。今はお祭りイベントでプレイヤーは全員この街にいる筈だ。仮に例外的にフィールドに出たプレイヤーがいるとしても少数だろう。それに、魔城兵を起こしたとて、この街に引き連れてくる理由がない。

 あるとすれば……お祭りを台無しにしようとする意図か。一大イベントとして開催されたこの『ハテグ=クラ祭』が失敗に終われば、ゲームに対してどれ程の損害になるか想像が付かない。最悪、ゲームの存続自体が危ぶまれかねない。


「一体誰がこんな事を……!?」

「断定は出来ない。けど、多分『まつろわぬ民』だ。他にこんな真似する連中は考えられない」

「『まつろわぬ民』?」


 ゾヘドさんが頷く。いつになく険しい表情だ。


「詳しくはあとで説明するけど、要は幻夢境ドリームランドに昔から住んでいて、かつに反対している人達って事」


 例の計画。マナちゃんのAI幻夢境移住計画の事か。機械の中に囚われたAI達が、幻夢境にVRMMOの世界を創造し、そこから機械の外へと出ようという思惑。自由と安全を求めたマナちゃんの一念発起だ。

 それを妨害しようだなんて許せない。『まつろわぬ民』という人達にどんな事情があるかは知らないけど、マナちゃんにだって譲れない願いはあるんだ。

 いや、それだけじゃない。今は大イベントの真っ最中だ。皆が楽しんでいる時なんだ。皆の笑顔まで踏みにじろうだなんて言語道断。どうあっても『まつろわぬ民』の狙いは阻止しなくては。


「それで、魔城兵キャッスルゴーレムってどんだけ強い設定なんです?」

「確か……50レベルの三人パーティーでようやく勝てるレベル」

「50!?」


 そんなの無茶だ。今、プレイヤーの平均レベルは20ちょい。二分の一にも届いていない。廃人プレイヤーならもっと高いだろうけど、それでも30レベルが精々だ。


「どうしよう……この街に来たら……!」

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