タロウの協力もあって、トントン拍子で俺たちは54階の探索者ギルド支部に到達していた。これがSランクの力かと驚くばかりだ。「師匠~~! 大丈夫でしたか?」俺たちが到着するなり、サナカが駆け寄ってきた。
まぁ、師匠なら大丈夫ですよね!
――なんていう、自問自答を目の前で見せつけた彼女はニコニコとした表情を崩す様子もなく「本当は私が行きたかったんですけど……タロウさん、私に言わずに行っちゃったんですよ! 酷くないですかっ!」とタロウへの苦情を述べていた。
「……」
タロウに視線をやれば、いつもと変わらない表情で立っているだけ。「サナカさんが席を外していたからでしょう。事態は急を要していたのですから」と、付け加えるように反論をしていた。
それでも納得しないサナカが食い下がろうとするが「あぁ、そうだ。俺たちはタロウさんに仕事の報告があるんだ。サナカも一緒に聞いてくだろ?」と、俺が話題を逸らす。聞きます、という元気の良い返事が聞こえたのでどうやら成功したらしい。
「では、こちらにどうぞ」
「あぁ、そうだ。ユウトさんはまだいるのか?」
「いえ……彼は私用があると席を外しています。それに、元々この依頼は国務庁の依頼。ユウトさんがいたとして、同席はあり得ませんが」
タロウの答えを聞いて、俺は胸をなで下ろした。
正直、ユウトと一緒の空間にいるだけで俺の寿命はジリジリと削れている気がして成らなかったからだ。いないなら、それだけで随分と楽になる。「何かホッとしてない?」と、チヒロが目を細めた。
「ホッともするさ。それともチヒロはSランク三人に囲まれたいのか?」
「囲まれたいわけないじゃない。でも、会ったことのないSランクには会ってみたいでしょ?」
「どうだかな」
そんな会話を繰り広げながら、俺たちはタロウの案内の元で個室に通された。
◆
「では、調査の結果を伺いましょう」
ダンジョンの中とは思えないほどに整理された個室は、何てことの無い会社の一室のようだった。やや艶めいた木製の机にパソコンを置いたタロウは、真っ直ぐと対面に座る俺たちを見据えた。
俺たちの仕事――今回の依頼は、各中ギルドが派遣したであろう参加チームを見つけること。その結果、大凡の分布図が決まった。
「まず、アマテラスがIWATOを派遣していることは明白だ」
「はい。それは間違いありませんね。IWATOは既に60階に到達して試験を突破しているようです」
「嘘でしょ、早すぎじゃない!?」
こっちもかなりのペースで踏破してきたわよ、とチヒロが驚愕。これがトップチームの実力という奴なんだろう。今回のチームでは頭一つ、二つほどIWATOが抜きん出ていた印象だ。
「早すぎて妨害も喰らわずに駆け抜けていくとはね」
「う、羨ましいですね……」
「ユウリさんはそう思うんだ。僕は物足りないと思うけれどね……だって、ほら龍も斬れなかったわけだし」
「え、えぇ……」
ユウリがドン引きしていた。「話を戻して、次にスエズ一家。彼らは九道の支援を受けているようだった」続いて既に脱落してしまったスエズ一家の背後を明かす。
「そもそも、九道ってちょっとグレーな組織よね? 今回の合同作戦には参加してたの?」
「はい。九道がどのような組織であろうとも――中ギルドに入っていることには変わりませんので」
納得するチヒロの隣で、ソウジが頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。「九道っていうのは?」それを補足するように、彼の口から疑問の言葉が投げかけられた。
「中ギルドの一つで、七つの中小組織の合同ギルドみたいなもんさ。その大半がグレー……というか、ほぼブラックなアウトローたちなのも特徴だな」
「ダンジョンでは大ギルドが定めたルールを守れば、リアルの姿は問われませんからね。そうでなければ国務庁が直ちに九道を解体していたでしょう。できるかは別として」
タロウからの補足も入った。これ以上の説明は必要ないだろう。
逸れた話題を本題に戻すために俺は咳払いを伴って「次に木陰集会。装備がハイテクノロジーズの高級装備で固められていた……っていう理由でハイテクノロジーズだと思っているけど、これは根拠としてはちょっと薄いか?」なんか自分で言ってて、ちょっと理由としては物足りないようにも思えてきた。
「いえ、結構です。六英重工業とハイテクノロジーズ……二者択一となったのであれば、そうした状況証拠で判断する方が良いでしょうから」
「それはよかった。そして最後の魔労社が消去法で六英重工業だ。あのチームが何か大手と契約しているのは確からしい。となると、残ったのは六英重工業しかない」
最後に残った魔労社と六英重工業を繋げる。
かなり無理がある理屈だが、それ以外にも理由はある。六英重工業の社長秘書であるネルは、前回のゴタゴタを経て魔労社と関係を持っているということだ。あの流れで依頼を受けていたとしても不思議ではない。
ただ、そうした情報は付け加えない方がいい気がしたので黙っておく。
最後の方はかなり無理くりだったが――さて、タロウの反応はどうだろうか。
「分かりました。ありがとうございます。これで、大凡の関係図が見えてきました。気がかりはスエズ一家を欠いた九道がどのように動くか――のみですね」
パソコンを閉じて、タロウは深々とお辞儀。
俺もタロウにつられてお辞儀を返した。「これで私たちの仕事はおしまい?」チヒロが確認。「はい、終わりです」タロウの事務的な返事で、俺たちの依頼は終わりを告げた。
仕事は終わり。
だというのに、どうにもすっきりしないのは――どうしてなのだろうか。胸の中にある、言語化できないモヤモヤが徐々に大きくなっていることを感じながら……俺たちは退室した。