ー翌日。午前の『トレーニング』を終えた俺は、休憩がてらメアリーの元を訪れていた。
「ー足を運んで頂き、恐縮です。マスター」
彼女専用の作業ルームの1つ…『研究室』的な雰囲気を全面に押し出した内装の『聞き取りルーム』に入ると、ルームの主である彼女は直立で深いお辞儀をする。…なんか、『いつも以上』に『ちゃんとした』出迎えだな。
いつもと少し違う出迎えに、なんか嫌な予感を抱きつつ彼女の対面に置かれた『俺用』チェア(イデーヴェスで『彼女』が自ら購入したお高い物)に座る。
「…で、今日『は』どうしたんだ?」
「…そう警戒しないで下さいよ。
今日『も』、例の『準備』に関わる事ですから」
真剣な雰囲気で聞いてみると、彼女は『研究者』的な笑みを引っ込め呼び出した理由を語る。
「…ある程度は、話したと思ったが?」
「いやいや、『まだ』ありますよ。
ー『特異体質』関係で、聞いていない事がね」
頭に疑問符を浮かべると、彼女はまた『あの笑顔』を浮かべた。……あー、なるほど。
「察して頂いたようですね。
そうです。今回は『アレ』についていろいろ話し合いましょう」
こちらの表情で、彼女も本題に入った。
「…けどなぁ。『アレ』…『カノープスとの意思疎通』は俺も良く原理が分かってないぞ?
ー何せ、昨日『初めて』出来た事だから」
ー…そう。昨日『トレーニング』を初クリア出来たのも、『ソレ』が出来たからだと考えている。…そして、このカノープスを継承した日から昨日までの間そんな現象は一度として起きなかったのだ。
…だから、正直な所俺も『どうして発生したのか』良く分かっていないのだ。
ただー。
「ーでも、『初代様』の時は度々発生していたのですよね?
例えば、『持病』が悪化したタイミングで襲撃を受けた時とか」
「…みたいだな」
どうやら彼女も、カノンに『当時の事』聞いたようだ。
ー実は昨日、カノンに『その事』を話したら普段滅多に見れない歓喜の表情をしたのだ。そして、『ようやくマスターも-ヴィクター様-と同じステージにー』的な事を言ってくれた。
「…けど、祖父ちゃんは勿論カノンも『何でそんな事』が出来た未だに良く分かってないんだよなぁ~」
「…『怪力』といい、ホント『初代様』は不思議な方ですね。
そして、その方のお孫様であるマスターも…」
腕を組みながら首を傾げていると、彼女はより一層『笑顔』になる。
「…ただ、1つ気になるのは『タイミング』の違いです。
『初代様』の場合は、決まって『ピンチ』のタイミング。
マスターの場合は、『昨日初めて』。…この違いは、何なのでしょうね?」
「…俺に聞くなよ。
…そうだな。俺からしてみたら『本質的に同じ』な気がするな」
そんな感じで聞いて来る彼女に、とりあえずツッコミつつ直感的に浮かんだ事を口にした。
「…ほう?…その心は?」
「…『強い意思』。祖父ちゃんも俺も何時だって本気だし真剣だ。
でも、その度合いがいつも以上に高まった時『意思疎通』は出来るんじゃないだろうか?」
「…なるほど。
…しかし、そうなると『再現』は難しいですね」
彼女は納得したように頷き、そして悩みを抱えたような表情になった。
「…いや、そこまでは必要ないと思う」
「…どうしてです?その方が、『任務』に幅が出来ると思うんですが……」
俺の言葉に、彼女は疑問を抱いた。
「幅もそんなに必要ないな。何故なら、『コピー』の役割は『撹乱』だから」
「…あ」
「…いくら君のコピードールが特別製だろうと、『君達』と違って『出来る事』は限られてるんだ。
だから、『撹乱』に集中させた方がかえって俺も動きやすい。…それにー」
「…それに?」
「多分、『コピー』では『意思疎通』は難しいかも知れない」
「…『本気』ではないから、ですか?」
「それもある。…だが、一番の理由は『そもそも-セキュリティ-が厳しい』っぽいからだ」
「…『それ』にも『副産物』由来の技術が使われていると?」
「『連中』は完全に『副産物』に依存してるからな。…まあ、それが『弱点』でもあるんだが同時に非常に強力だ。
だから、想定外のアクシデントが発生するリスクも考えると、コピーの『再現度』はそんなに高くなくて良いんだよ」
「…分かりました。
…という事は、『意思疎通』はマスターが担当するのですね?」
「そうなるな。…まあ、『そこ』に潜り込めるかどうかは情報を入手しないといけないが」
「…確か、今も『元幹部』への取り調べが行われているのでしたね」
彼女の言うように、現在ブルタウオとポターランで取っ捕まえた奴らから『ファクトリー』の場所や内部情報を引き出している。…ただー。
「ー今分かっているのは、重役クラスでも滅多に入れない上に場所も厳重に隠されているって事だけだな」
俺は、帝国情報局からの報告書を呼び出し確認する。
「…情報漏洩を防ぐ為ですね。…シンプルですが、非常に厄介な方法です。
こうなると、現地で探すのも難しいですね…」
「…全くだ。…っと」
彼女と揃ってため息を吐いてると、通信機からメロディーが鳴った。
「じゃあ、そろそろ戻るな」
「はい。…とりあえず、当初の『オーダー』に沿ったコピーを作っておきますね。
完成は翌日昼頃になると思いますので、30分程前に報告致します」
「分かったー」
チェアから立ち上がると、彼女は予告する。そして、俺はそれを通信機に入力してから彼女のルームを出たー。
◯
ーSide『ガーディアン』
『ーいや、本当に貴女達には感謝しかないよ』
艦隊共通時間で、そろそろ昼過ぎになる頃。遊撃部隊第2班班長のユリアは、姉であり上官であるイザベラと通信をしていた。…その内容は向こうからの感謝だった。
「…一応、『任務』の一環ですから。でも、中将と艦隊の方々のお役に立てたなら幸いです」
『役に立つどころの話しではないよ。
第1班の聞き取りのおかげで、こちらがどれだけストレスを強いていたかが分かったし、なにより-ランチ-の効力が凄かった』
彼女は、少し照れながら返した。すると、向こうは真剣に功績を語る。
「…無理もないかと。
そもそも、この艦隊をはじめとする大多数の部隊の役割は『捕獲』に重点を置いています。
勿論、民間人の保護の為の設備はありますが必要最低限しか備わっていません。…そんな中でも、この艦の乗組員はある程度『外』のゲスト達のケアやサポートを出来ていたのですから感服致します」
『…そうだな。この艦隊には、本当に優秀な隊員が集っているよ。
…ところで、貴女達は-どう動く-つもりなんだ?』
イザベラはしみじみと艦隊メンバーを詳細した。そして、話はユリア達の『任務』に移る。
「我々『第2班』も、残るゲスト達の聞き取りを行う予定です。…具体的には、『レプリカ』のファクトリーの特定ですね。
そして、平行してゲスト達へ『第2のサプライズ』をお届けしたいと思っています」
『…っ、分かった。…しかし、彼らが知っているだろうか?』
スケジュールをインプットとしたイザベラは、ふと当然な疑問を口にした。
「勿論、エージェント・プラトーは『あくまで-人目に付かない広いスペース-の場所を聞いてくれ』と仰っていました。
多分、それらを当たる予定なのでしょう」
『…だが、それだと時間が掛かるのではないか?
確か、現時点でトオムルヘは居住惑星1つに交易コロニー、商業コロニーが1つずつに軍事コロニー2つの構成だと判明している。
流石にー』
イザベラは伝わっている情報を思い出し不安そうな表情を浮かべた。…しかし、対するユリアはいたって普通の表情だった。何故ならー。
「ー流石に、エージェント・プラトーも『無計画』では探索をしませんよ。
彼は、『コロニー』に重点を置いて探すようです」
『……?…惑星の方は探らないのか?』
「ええ。
ー此処から先は、『確証の得られる日』まで中将殿の胸の内に秘めて頂ければと思います」
すると、彼女は真剣な顔でそう前置きした。
『…分かった、約束しよう』
「ありがとうございます。
…どうやら彼は、『敵が完全にトオムルヘを手中に納めていない』と考えているようなのですよ」
『……なんだと?』
「…『だからこそ、ゲスト達を…-前国家元首-を執拗に追跡しているのでは?』と。
…つまり、国家元首である国王陛下は『証』を持っているという事ですよ」
『……』
衝撃の予想を聞かされたイザベラは、しばらく唖然としてしまうのだったー。