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『ー…はあ、美味しかった……』

『まさか、-デザート-まで食べられるとは……』

 艦隊共通時間で、間も無く夜の時間帯になる頃。ディナーを終えたゲスト達は、皆満足しながら食堂を後にしていった。

(ー…はあ、完全に元政府高官殿達はカノープスサイドに『取り込まれてる』な……。本当に、恐ろしい手腕だ)

 当初は遊撃部隊のメンバーに反感を抱いていたグループも、今ではすっかり懐柔されている状況にサーシェス元従業員のマリアベルはこの状況を生み出したプラトーに、改めて恐怖を感じていた。

(…結果的に、ゲスト達とこの艦のクルーのコミュニケーションも増え艦の中の空気が大分変わってしまった。…どうしよう)

 彼女は、そこはかとない『居ずらさ』を感じていた。

(…『カノープス』にはまだ恨みがあるけど、助命を頼んでいる手前彼らからの『取り調べ』には、強制的に応じなければいけない。…けれど、どうにも『軍人』に近くのは苦手なのよねぇ)

『ボッチ』を避ける為にも、クルー…『軍人』である彼らと必要最低限の交遊関係を結んで置かなければならないと頭では分かっていた。…だが、彼女は軍人そのものに生理的拒否感を持っていた。

(…はあ、ただでさえ厄介な問題を抱えてるっていうのに、こんなしょうもない事でも悩まなければいけないのよ。

 ーこれも、『あの時代遅れのデブリ』共…ひいては『あの男』のせいだ)

 そして、彼女は『いつものように』自分のこれまで犯してきた事をリフトアップし『今の自らが置かれている状況』の直接的な原因となった、ブルタウオの『オールドバンデット』…特にNo.2である『元軍人』のあの男に強い恨みを抱いていた。


「ーおや、マリアベル嬢。何故、そんな怖い顔をしているのですか?」

「ーっ!?」

 そんな『びっくりするほど自己中』な考えの彼女の元に、遊撃部隊情報班のレイラが背後から小声で声を掛けた。…当然、声を掛けられた側は心臓が口から出る程ビックリしてしまう。

「(…足音はおろか、気配さえも感じなかった。)…急に声を掛けるのは、止めてほしいんですけど」

「すみません。『たまたまスニークの練習』をしていたものですから」

「…(…『たまたま』ね。……っ、私に『用事』があるって事か)。…『どんな時』でもトレーニングしてるって、本当に恐ろしい人達だわ。

 ーつまりは、『それぐらい』トレーニングしないと務まらない『お仕事』を抱えているのかしら?」

 彼女は、何故こっそりとコンタクトして来た理由を察し好奇心を装って『誘導』を開始した。…この辺りの頭の回転の早さは、紛いなりにも『秘書』をやって来たからだろう。

「ええ(…惜しいですね。『サーシェス』の関係者でなければ、いろいろ前職の経験を生かしまだまだ『活躍』が出来たでしょうに)。

 ー…よろしければ、『差し障り』の無い範囲で教えましょうか?」

 それを見たレイラは、内心非常に『惜しい』と思っていた。…それは、目の前に立つ元サーシェスの人間に『どんな処遇』が待ち受けているのか良く知っているからだ。

 しかし、彼女は内心を一切顔に出さず『誘導』に乗っかる。

「…是非、お願いします」

「分かりました。それでは、場所を変えましょう」

 そして、2人は近くの小ミーティングルームに移動する。


「ーさて、『何』を聞きたいのかしら?」

「察しが良くて助かります。

 …聞きたいのは、『レプリカ』の製造ファクトリーの事です」

 ミーティングルームに入ると、2人は直ぐに座る。…すると、マリアベルはふてぶてしい様子で切り出した。

 勿論、レイラは表面も内心でも不快感を抱く事はなく淡々と取り調べを始める。

「…なるほど。真っ先に『そこ』を潰すハラか。

 …でも、多分『他』から聞いてると思うけどファクトリーは厳重な『セキュリティ』がセットされてるのよ」

「ええ、知ってます。

『幹部』でさえも滅多に入る事が出来ない上に、場所も厳重に隠されているようですね。

 …ですから、貴女に聞きたいのは『予想』ですよ」

「…あのね、自分で言うのもアレだけど元々は一般人だったのよ?

 そんな私が、『いかにも怪しい』場所なんて知ってる訳ないでしょう…」

「おや?それこそ『変』ではないですか?

 スクール卒業後、商業コロニーと交易コロニーの企業を幾つも渡り歩き『サーシェス』が来てからは2つの軍事コロニーを頻繁に出入りしている貴女は、ゲスト達の誰よりも全てのコロニーを知り尽くしていると言っても過言ではないですか?」

 マリアベルが呆れ混じりに返答すると、彼女は心底不思議そうに返した。


「…っ。…流石、あの船のクルーだけあって『私のような人間』の経歴は事細かに知ってるのね……。

 …というか、アンタ達は4つのコロニーが怪しいと踏んでるんだ?」

「ええ。…ああ、それと単に『怪しい場所』を聞きたいのではありません。

 連中も、流石にバカではないと思いますからより巧妙に隠蔽しているのでしょう。…ゆえに、『昔から人の出入りがあまりなく』尚且つ『広大なスペース』が確保出来る場所を聞きたいのですよ」

「……ー」

 そして、彼女は改めて『予想』を口にした。…すると、マリアベルは記憶のサルベージを始める。

(…まあ、過去の事ですから時間は掛かるでしょう。とりあえず、メモの準備をー)

「ー該当する場所は『何ヵ所』かあるわ」

 彼女が準備を終えたタイミングで、ふとマリアベルは口を開いた。

「(…まあ、想定通りですね。)

 お願いします」


「ーまず、商業コロニーに2ヶ所。

 両方とも廃ビルで、尚且つイーストとウェストの隅っこにあるわ」

「…解体工事がされていないのですか?」

「ええ。…何せ、『曰く付き』だからか誰もそこに新しいカンパニーを建てたがらないのよ。

 それに、『そんな場所』に近付きたがる物好きも居ないから別に急いで解体する必要がないって判断が出たんでしょう」

「…『曰く付き』って……。…一体何があったか知っていますか?」

「さあね…」

 どうしてもそこが引っ掛かる彼女は、深堀りしてみる。…しかし、マリアベルは知らないようだった。

「…ただ、『先輩方』はそこで何が起こったのかは確実に知っているでしょうね。

 ーだって、私が初めて入社したカンパニーで経営者自らが『そこに近くな・そこについての質問をするか』と厳命してるくらいだし」

「…(…一番『ビンゴ』に近いですね。)わかりました。

 他には?」

「後は、交易コロニーの3ヶ所。

 1つは、『ヒストリーミュージアム』。…まあ、そもそも資料館的な施設ってトオムルヘの人間にはあんまりウケが良くないのよね。

 そして、2つ目は『ギフトショップ』。トオムルヘの『ギフト(お土産)』を扱っているそこそこ大きなショップね。

 ただ、昔からトオムルヘって周りからのイメージが悪いせいか外から来る人はかなり限らてるのよ。

 そして最後は、『グリーンパーク』。此処は憩いの場として作られたらしいんだけど、やっぱり人気はないわね」

「…なるほど。

 ちなみに、貴女自身いずれかに行った事は?」

 念のため聞いて見るが、マリアベルは首を振る。

「あるわけないでしょう…。行った所で面白みもなにも無い所に行くなんて余程の暇人よ」


「そうですか(…どれも、『高確率』ね。…あ、そうだー)。

 ー…では、最後に『現政権』や『サーシェス』はその5つのポイントに『手を加えた』という話を聞きましたか?」

 なので、彼女は別の視点から聞いてみる事にした。…しかしー。

「…いや、聞いた事ないわね。…それに、政権が変わっても人気の無い所は『変化』はなかったし」

「わかりました(…おかしな話しですね。…いや、『隠蔽』するのだから当然といえば当然ですが。…仕方ない。そのままを班長に伝えるとしましょう)。

 とりあえず、聞きたい事は以上になります。お時間頂きありがとうございました」

「…どういたしまして」

 彼女は内心困りながら、表面上きちんと礼を述べた。…すると、マリアベルは困惑の表情を見せるのだったー。

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