ー船内時間で、間も無く夜の時間となる頃。俺は、定時通信の為通信ルームに居た。
「ーコンタクト完了。『トライグウィン』との通信を開始します」
カノンがそう言うと、直後モニターにユリア副隊長、クルツ戦闘班長、レナート情報班長、シン支援班長の4人が映し出された。
「こんばんは。ユリア副隊長、クルツ班長、レナート班長、シン班長」
『お疲れ様です。エージェント・プラトー』
「さて、それでは『定時報告会』を始めましょう」
互いに敬礼を交わし、早速本題に入る。
「まずは、『カノープスサイド』ですが今のところ平常通りです」
『それは良かった。…ちなみに今日はどうでしたか?』
「勿論、『そちら』も大丈夫ですよ。この調子なら、『本番』も成功するでしょう」
簡潔な報告をすると、副隊長がふとトレーニングの様子を聞いて来たので俺は自身を持って答えた。
『そうですか』
『ーほら、心配無かったでしょう?』
すると、レナート班長がニコニコしながらそんな事を言う。…どうやら、大分気に掛けてくれていたようだ。
『…本当、レナート大尉は彼の-凄さ-を熟知しているな。…っと、失礼』
それを見ていたクルツ班長は、ぽつりとそう言った後こちらに謝って来る。
『『っ、失礼しました』』
直後、直ぐに2人も慌てて謝って来た。なので、俺は首を振る。
「大丈夫ですよ。
それでは、そちらの報告をお願いします」
『はっ!それでは、報告させて頂きます。
まずは第2班全体からですー』
こちらから催促すると、ユリア副隊長は報告を始める。まずは、今日の第2班の動きを教えてくれた。
まあ、ほとんど第1班の動きと変わらないし大したトラブルも起きていないようで安心した。…そして、次にレナート班長から『絞り込み』の報告を聞く。
『ーマリアベル嬢の話しでは、その-5ヶ所-が特に怪しいようです』
「分かりました(…うーん)」
『…やはり、エージェント・プラトーも引っ掛かりますか?』
内心で唸っていると、レナート班長は見透かしたように聞いて来た。…なので、素直に頷く。
「ええ…。…なんで『連中』や現政権は『その5つ』に手を加えなかったのかが、どうしても分からないんですよ」
『…あの、エージェント・プラトー。
実は、その-聞き取り-は-交流-の前に行ったのでゲスト達にもそれとなく-5つのポイント-について聞いてみたのです』
「っ(うわー、マジ優秀~っ!)!本当ですか?」
すると、レナート班長はさも当然のように自然な優秀アピールをして来た。
『はい。…まずは、ユリア副隊長からお願い致します』
『分かりました。
ー本日、私が交流させて頂いたのは商業コロニーの運営委員会の元役員の方でした。
そして、その方は元々商業コロニーにてそこそこな規模のカンパニーの経営者だったのですが、どうやら例の廃ビルの片方の事を知っておられるようでした』
「…っ」
『…ただ、その方の話によると-そこを拠点にするのは考えられない-そうです。
実は、過去にそのビルは解体工事が計画された事があるそうなのですが、-厄介な植物-が繁殖していて結局中止になったのです』
「『厄介な植物』?」
『生態を聞く限りですが、恐らく-コレ-でしょう』
すると、モニターにサブウィンドウが展開しとある植物が表示された。
「……(おいおい、マジかよ)」
『それ』を見た俺は、言葉を失った。
ー『それ』は、見た目はとても綺麗なコバルトブルーの花を咲かせる樹木だった。…しかし、その正体は『第3級危険指定』のヤバい植物なのだ。
その名もズバリ『ヒュプノウッド』。…その花から吹き出す花粉は強い睡眠作用があり僅かな量で軽く数日は起きれなくなる。
そして、樹液には強力な幻覚作用があり更に揮発性も高いので気付かない内に吸い込むので直ぐにまともな行動は出来なくなるだろう。
これの何が厄介って、花粉で寝て気化したた樹液も吸い込んでた場合『目が覚めたらまともじゃなくなってる』んだよな。おまけに、花粉も肉眼で見えずらい上に…何故か樹液も、まるで『寝たのを確認したかのように』専用の排出穴から勝手に出て来るのだ。
だから、自生しているエリアは広範囲に渡っと立ち入り禁止エリアに指定されるのだが…ー。
『ー…はあ、やはり片方もそんな感じでしたか』
すると、クルツ班長はため息混じりに呟いた。
『…まさか?』
『ええ。…あ、次は私から報告しても良いでしょうか?』
「お願いします」
『はい。
ー私が交流させて頂いたのは、同じくコロニーの元運営議会の方でした。その方は、商業コロニー商店街の会長も兼任されていたのですが…その方も、もう1つの廃ビルの事をご存知でしだ。
そして、やはり-拠点にする事は無理だろう-と仰っていました。
その理由は、恐らく-コレ-です』
すると、モニターでは『ヒュプノウッド』を映したウィンドウは脇に移動し新たなウィンドウが展開した。
『……』
『…これは……』
『…嘘だろう?』
ー…ちょっと『闇』が深くないか?
『予想』を見せられたリーダー陣と俺は、唖然としてしまう。
ーそこには、極彩色の小さなバタフライが映し出されていた。…一見すると、綺麗なバタフライだがコイツも立派な『第4種危険指定』にされたヤバいヤツだ。
コイツの名前は、『パラサイトバタフライ』。文字通り『寄生機能』を持ったヤツなのだ。
コイツは、目立つ『ハネ』に引かれて来た大型生物にわざと補食されに行き口内からその生物に寄生するのだ。…しかも、鉄壁の『防御機能』を持っている為マジで補食される事もないのだ。
…ちなみに、人間の場合は頭の方に飛んで行くようだ。つまり、頭さえ防御していればよほど運が悪くない限り寄生される事ない。
まあ、それでもヒュプノウッド同様コイツの生息域も立ち入り禁止エリアだが。
『ー…というか、なんでそんなヤバい植物やヤバいバグがコロニー内で繁殖を?
両方とも、本来は未開発の星系ぐらいでしか見ませんよね?』
『…多分、-タブーとされている理由-もそこにあるのでしょう。…しかし、それ以上にもっと気になる事があります』
ふと、シン班長は当然の疑問を口にした。…すると、ユリア班長は別の疑問を抱いていた。『…何故トオムルヘ星系は、専門業者を呼ばなかったのでしょうか?』
「……(単純に、『身内の不祥事』を知られたくなかったのか?あるいはー)。
もしかすると、『軍部』が関わっているのかも知れませんね」
『……っ。サーシェスに唆され、クーデターを実行した連中がですか?』
思い付いた予想を口にすると、リーダー陣は露骨に不快な顔をした。無論、俺も若干不快になりながら。
「…ええ。
あくまで予想ですが、軍部は業者の介入に猛反発していたのでしょう。…理由は簡単。
『自分達しか頼る存在がいない』…そういう状況を作る為です」
『……っ』
「…しかし、そんな体制は長くは続かなかった。恐らく、時代が移るにつれどんどんフリーランスの業者や傭兵が訪れるようになり政府も積極的にサポートするようになった結果、元々『嫌われていた』であろう軍部は権力を弱めていき、ついには軍備縮小を突き付けられた。
そんな絶対絶命の状況の中、『サーシェス』が『相談』を持ち掛けて来た。
ー…とまあ、そんな『ストーリー』ではないでしょうかね?」
『…完全に、自業自得ではないですか……』
『…なんと、身勝手な……』
『…サーシェス並みの、悪辣さですね……』
『………』
ひと通り『予想』を言い終わると、リーダー陣は非常に不愉快な顔をした。
「…っと。報告を遮ってしまい申し訳ありませんでした。
後は、レナート班長とシン班長でしたね」
『…っ。分かりました。
それでは、私の方からー』
そして、レナート班長は自身とワジ少尉の聞い
た事を…『ミュージアム』と『ギフトショップ』の事を話してくれた。…内容は、前の2つのような『ヘビー』ではなくより重要そうな情報だった。
「…なるほど。『クーデターの半月前』に責任者が変わったのですか…」
『はい。…偶然だと思いますか?』
「今のところはなんとも言えませんね…。…とりあえず、『ワーカー』の中にそのショップを利用した人が居ないか確認しましょう」
『ですね。我々もそちらに戻ったら、直ぐに手伝います』
「お願いします」
『では、最後は私ですねー』
そして、シン班長は『パーク』を利用していたゲストからの話しを教えてくれた。…その最中、やっぱりそこでもちょっと気になる情報があった。
「ー大昔の『地下空間』ですか。…それはまた、『いかにも』ですね」
『…ですよね。…ただ、全体的に老朽化しているので立ち入り禁止区域に指定されていますパークに甚大な被害が出ないよう、補強工事がされています。
…ただ、封鎖解除のキーは『クーデターの3ヵ月前』に盗難にあっているようです』
「…(ここもか…)。
分かりました。…どうやら、5つのポイント全部が要調査対象になりますね」
『…っ』
『…例の廃ビルもですか……。…まあ、-副産物-を使えばどうにかなるのでしょうが』
リーダー陣の報告を聞き終えた俺は、方針を出した。…まあ、結局こうなるのは仕方ない事だ。
「では、これにて定時ミーティングを終えたいと思いますが何か他に報告しておきたい事はありますでしょうか?」
『大丈夫です』
『『『右に同じく』』』
「分かりました。では、失礼しますー」
リーダー陣全員がそう返答したので、俺は通信を終え…直ぐに報告書の作成を始めるのだったー。