ー『スターサーフィン』開始まで、残り30分を切った頃。俺は、第1格納庫に移動する。
「ーおいっす」
「お疲れ、キャプテン・オリバー」
「お疲れ様です、オリバーさん」
「…お疲れ」
中に入ると、ティータ達メンテナンススタッフ
が出迎えてくれる。
「『最終調整』は、もう終わってる」
「ありがとう」
すると、ティータは直ぐに報告してくれた。…なので、俺は視線を上に向け3人の後方にある『サポーター』を見た。
ーそれは、『ウシ』をベースにした『スペシャル』な船だった。
まず、胴体側面にはガードスワンのウィング…『キメラウィング』が取り付けられており、その上合計4体のブースターコンドルが変形状態でウィングに接続されていた。
そして、足の部分には小型巡視船サイズの『ファングリーダー』を変形させた、『キメラレッグ』を装着している。これにより、きちんと彗星に船体を固定出来るのだ。
最後に、船体のフロント部分には『ドラゴリーダー』を変形させたバカデカイ『ゴーグル』、『キメラスコープ』を装着している。…まあ、『これ』がないと『接近』も『帰還』もえげつない難易度になるからな。
「ーどう?」
「いや、最高だよ。良く、この短い期間で仕上げてくれた。
3人共、ホントにありがとう」
分析しながら見ていると、ティータがニヤリとしながら聞いてくる。
当然、俺は興奮しながら感謝を述べた。
「…っ。どういたしまして」
「えへへ…」
「……」
すると、3人は分かりやすく照れた。特にランスター姉妹は片方や非常にデレッとして、もう片方は照れ顔が見られたくないのか俯いてしまった。
「…じゃあ、ちょっくら『手掛かり』回収に行ってくるよ。
ー期待して、待っててくれ」
俺は、そんな3人に愛おしさを感じながらまるで『ちょっと外に散歩に出かける』ような気軽さの『出発の挨拶』をして、『キマイラホーン』に伸びるブリッジに向かう。
「…気をつけて」
「行ってらっしゃい」
「…うん、待ってる」
けれど、3人は直ぐに真剣な表情になり俺を送り出してくれた。…まあ、流石に俺のように振る舞うのはまだ無理だろう。
『ーマスター並びにクルー方々に報告致します。
間も無く、-ドラゴン-の一部機能を制限または停止致します。
…制限対象と停止対象は、居住スペースのリビングとレストルーム内の掲示板をご確認下さい』
そうこうしている内に、カノンがアナウンスを流した。
ー…まあ、カノープスを一旦『ドラゴン』から離して『ウシ』とドッキングさせるんだからしょうがない。…というか、『この辺りの不便さ』もどうにかしたいんだよな。
俺はそんな事を考えながら、『キマイラホーン』に搭乗した。
『ーお待ちしておりました、マスター』
そして、数分後。カノープス本体が『キマイラホーン』とドッキングを果たしたので、コクピットに入る。
すると、中にはカノンを筆頭に残りのライトクルー達が待っていた。
「ああ、お待たせ。
さて、ミッション前の最終チェックを始めよう」
俺は返事をしてからパイロットシートに座り、後ろを向く。
「アンゼリカ、『サポーター』はちゃんと『好物』を食べたな?」
「ええ。バッチリです。
『食欲不振』も出てないですから、大丈夫です」
アンゼリカは、俺の質問にニッコリとサムズアップしながら答えた。
「そりゃ良かった。
次にロゼ。『頼んでおいたアレ』の準備は出来てるな?」
「はい。直ぐに召し上がって頂ける状態になっています」
するとロゼは、自信に満ち溢れた返事をした。
「楽しみにしてる。
次にメアリー。『コピー』は済んでいるな?」
「当然、とっくに済んでますよ。
ーね?」
「「ええ」」
すると彼女は、横に並ぶカノンとクローゼを見る。無論、2人はにこやかに頷いた。
「なら良い。
次に、セリーヌとシャロン。『プラン』に変更はないな?」
「「はい、ありません」」
今回のプランを立てた2人は、真剣な表情で頷いた。
「…良し。
ーライトクルー各位、『スタンバイ』」
『イエス、キャプテンッ!』
なので、俺はオーダーを出す。…直後、全員真剣な表情で行動を開始した。
まず、ロゼ・アンゼリカ・メアリー・セリーヌ・シャロンの4人は速やかに『キマイラカノープス』から降りて行く。
一方、カノンとクローゼは所定のシートに座りそれぞれ『準備』を始めた。
「ーメインジェネレータ、稼働開始」
「各システム、並びに各『サポーター』確認」
「『さあ、行こうか』」
2人が準備を進める中、俺は『カノープス』に呼び掛ける。…すると、起動していたメインモニターに『白銀』に煌めくスターが表示された。
ーうん、『問題』ないな。
「ーメインジェネレータ、稼働率50%到達。…稼働上昇、一時停止」
「各システム、各『サポーター』以上無し。
ー全システム、オールグリーン」
「ーマスター、『特製ドリンク』をお持しました」
そして、全ての準備が完了したタイミングでロゼがデリバリーバックを持って戻って来た、
「ありがとうー」
彼女の差し出したドリンクカップを受け取り、それをゆっくりと飲んで行く。
「ーっ!くぅう~…」
直後、独特の風味と味が口の中に広がりそして喉を通過していくので思わず声が出てしまう。…まあ、使っている複数の『ベジタブル』がそもそも『アレ』だから当然だが。
「ー…あの、『それ』って?」
その様子を見ていたクローゼは、少し心配そうに聞いて来た。
「…っはぁ。…これはな、グリンピアに昔から伝わる『勝負ドリンク』だよ。
使ってるベジタブルは、どれもグリンピア原産のモノばかりだ。…効果としては、集中力増加に身体への素早いエネルギーチャージとかだな」
『ドリンク』をなんとか飲み終えた俺は、クローゼに正体と効能を説明する。
「…そんなモノがあるんですか。…というか、大丈夫ですか?」
若干涙が出ていたので、ロゼは心配の度合いを増して聞いて来る。
「ー大丈夫ですよ。マスターは昔…特に『害獣退治』の時に良く飲んでいましたから。…単に、『身体がびっくり』しただけですよ」
すると、カノンは彼女を落ち着かせるべく優しい口調で説明する。
「ああ。…てか、やっぱり『それ』も見ていたのか」
「ええ。いずれこの船と私のマスターになる方の『活躍』は、逐一拝見していました」
「…やれやれ。
それにしても、見事だ。良く、これだけのクオリティのモノを作ってくれた」
俺は少し恥ずかしくなりながら、ロゼにカップを返す。勿論、称賛の言葉を添えるのを忘れない。
「お褒めに預かり、光栄です」
「…なら、良いんですが。…あ、ロゼ。ちょっとー」
そして、ロゼはカップをバックに戻しコクピットから出ようとした。その最中、クローゼは彼女を呼び止める。…どうやら、『中身』が気になるようだ。
「ーっ!…うわ、ナニコレ…」
彼女はロゼからカップを受け取る。…直後、カップから漂う『アレ』の独特な香りに顔をしかめた。…ああ、新鮮な反応だな。俺も最初は、あんな顔してたな~。
「…一体、『何』を入れたら『コレ』に?」
「まあ、びっくりしますよね…。正直、私も作ってる最中何度か『これで良いのか?』と思いましたもの」
…分かる。…俺も、故郷に居た時は何度か作るのを手伝う機会があったがその都度『不安』になったなぁ。
コクピットの端っこで交わされるやり取りに、俺は内心同意した。…直接参加しないのは、2人が慌てたり緊張したりしまうかもしれないからだ。
「ーっと、すみません」
「あ、すみません…」
「まだ時間あるし、大丈夫だよ(…それに、『ポテンシャル』は超凄いからわざわざこっちからアクションを起こさなくてもこうやって直ぐに切り替えられるからな。…いや、本当に彼女達と出逢えたのはラッキーだった)」
俺は、申し訳なさそうにする2人に『気にしてない』と首を振りつつ自身の運の良さに驚いたー。