ーミッション開始、5分前。
「ーマスター並びにライトクルー、そしてサブクルーの皆様にお知らせします
間も無く、『スターサーフィン』開始となりますので第1格納庫のエアロックシステムを起動します。
つきましては、第1格納庫への出入りをお控え頂くようお願い致します」
カノンがアナウンスを流すの同時に、エアロックの起動を知らせるメロディが船内全域に流れた。
「(…いよいよだな)。
こちら、『キマイラカノープス』。固定アームの解除を頼む」
改めて気を引き締め、『キマイラカノープス』から『ドラゴン』にオーダーを出す
『ーこちらセリーヌ。オーダー了承。
船体固定用アームのロックを解除します』
それに応答したのは、今回のミッションの立案者であるセリーヌだ。…彼女は、やや緊張した表情で速やかに作業する。
ー直後、『キマイラカノープス』を固定していたアームはゆっくりと外れた。
「ありがとう。
『キマイラカノープス』より、『ドラゴン』へ。
『メインハッチ』前へと移動を開始する」
俺は、ブーストパネルを少し踏み右の操縦桿を前にスライドした。すると、『キマイラカノープス』はゆっくりと前進を始めた。
『了解しました。メインハッチ前へ-接続-します』
それに合わせて、少し先の所に『ワープゲート』が形成される。…ほどなくして、船は『それ』をくぐり抜けた。
ーすると、目の前に巨体な正方形の大きな柱のような形をした『リフト』が姿を現した。…そして、そのまま船はリフトに乗る。
『キマイラカノープスのリフトオン確認。
ティータ、ゲートをお願いします』
それを確認したセリーヌは、リフト管理ブロックでスタンバイしていたティータに合図を送る。
『…了解』
そして、頼まれたティータも凄く真剣な表情でそこからゲートへオーダーを出した。
ー次の瞬間、けたたましいサイレンが鳴り響きながらゲートは閉じた。
『ゲートロック、完了。
これより、リフトアップを開始する』
「頼んだ」
こちらが応答すると、リフトはゆっくりと上昇を始める。
『ーメインハッチエリアに到着。ゲート、オープン』
それから数分後。リフトの上昇は止まり、ティータのアナウンスの後に目の前にあるゲートが開く。…すると、そこは格納庫やリフトエリアに比べて少し薄暗かった。
『ーキマイラカノープス。メインハッチエリアに到着確認。
発射まで、残り1分。カウントをスタートします』
そこに入ると、今度はシャロンにバトンタッチした。…すると、こちらのモニターにカウントが表示された。
『『ーマスター、どうかお気をつけて』』
刻々とミッション開始が迫る中、シャロンとセリーヌが心配そうな表情で言う。
『マスター・オリバー。頑張って』
『マスター、信じてますからね』
『マスター、行ってらっしゃいませ』
『マスターなら、大丈夫ですよ』
その少し後に、ティータ、メアリー、ロゼ、アンゼリカがエールをくれた。
「ああ。必ずやり遂げるさ」
『ーオリバーさん。…どうか、無事に戻って来て下さいね』
『…帰って来るのを、待ってるから』
そして、最後にアイーシャとアインが涙を流しそうな顔でコメントして来た。
「大丈夫さ。貴女達クルーや第1遊撃部隊。BIG3に俺の親族達。…誰1人として、『悲しませる』つもりはない。
ーだから、待ってくれ」
『…はい』
『…分かった』
『ーカウント、20』
2人がしっかりと頷くの同時に、カウントは最終段階に入る。その直後、通信は切れた。
「ーメインブースター。稼働率上昇」
「イエス・キャプテン」
だから、俺は意識を切り替え出発の準備を始めた。
『カウント、15。メインハッチ、オープン』
それから程なくして、目の前の巨大なメインハッチは開き少し先に広大な宇宙が見えた。
『カウント、10
9、8、7、6、5ー』
「メインブースター、出力最大」
「イエス・キャプテン」
『ー4、3、2、1、GO!』
「『キマイラカノープス』、発進!」
カウントが終わり、俺のタイミングでカタパルトが起動し数秒もしない内に『キマイラ』は宇宙に飛び出した。
「ー『キメラスコープ』、起動っ!『ワープ』、スタートッ!」
「イエス・キャプテンッ!」
そして、間髪入れずにオーダーを出すとクローゼが応える。すると、『キマイラ』は瞬時にサーフボードならぬ『サーフスター』の元に移動した。
「ビンゴッ!
ウィング、位置調整っ!んでもって『キメラネイル』、展開っ!」
「お任せをっ!」
クローゼが応えると、船体は急速に『目の前』にある彗星に接近する。そして、トレーニング通り彗星に着地した。
「ーっ!
(やっぱり、予想より少し負荷が強いな…。)
『グラビティシールド』、出力『30』っ!」
同時に、『キメラネイル』でしっかりと固定するが…直後想定より少し強い負荷が遅い掛かって来た。なので、臨機応変なオーダーを出す。
「…っ。了解っ!」
すると、クローゼは疑問を挟まず即座に対応した。
「…ふう」
「…とりあえず、第1フェーズはクリアですね」
そのタイミングで、俺達は一息付く。…しかし、実際かなり緊張した。
やっぱり、『バーチャル』と『リアル』は天と地程の差があるな。
「マスター。残りカウント120を切りました」
「分かった」
そんな事を考えていると、カノンが報告する。なので、俺は再度気を引き締めた。
「ーマスター、『ドラゴン』より報告。
『目標物の位置は変わらず』だそうです」
そのタイミングで、クローゼは向こうからの報告を読み上げた。…うん、今の所予定通りだ。
ー実は、『手掛かり』の正確な位置の割り出しは『準備期間』の間で既に終わっていたのだ。
クルー達や支援班も、準備期間中ただのんびりしていた訳ではないという事だ。…いや、本当に有難い。
「ー残りカウント、60。『ターゲット』、モニターに表示します」
そうこうしている内に、『目標地点』…この超危険な星系唯一の岩石惑星がモニターに映る。
「…うわ、『スゴ』……」
それを見た俺は、思わずそんな感想が口から出た。
ー無限に広がる銀河は、その広さに比例して『様々』な環境があるが、どんな星系でもたった1つの変わらないモノはある。
それは、『惑星は丸い』と言う事だ。
…だが、此処の星系は『少数派』のようだ。何せ、ズームされたその惑星は『円筒状』の形をしていたのだから。…いや、なんと言うかー。
「ーまるで旧式の『コロニー』みたいですね…っと、カウントタイム30」
カノンは、俺と同じ感想を口にした後直ぐに残りカウントを告げた。
「…だよなぁ。
ーメインブースター、ウェイト解除」
「イエス・キャプテン。
『ネイル』、カウント終了後解除出来るよう『タイマー』の設定完了」
俺は即座に気持ちを切り替え、『降りる』準備を始める。すると、クローゼは平行してセッティングを終えた。
「良い判断だ」
「ありがとうございます」
「ー残りカウント、20。
ブースター、問題ありません」
「良し」
カノンがカウントとブースターの様子を報告したので、俺は再度ブーストパネルに右足を。2つの操縦桿をしっかりと握りしめる。
「ーカウント10。
9、8、7、6、5、4、3、2、1、GO!」
そして、カウントはあっという間に終わったので俺は思い切りパネルを踏み、両方の操縦桿を力強く『後ろ』にスライドさせる。
ーそれと全く同じタイミングで『キメラネイル』は解除され…直後、『キマイラ』は乗っていた彗星の進行方向とは真逆の方向に飛んだ。
「ーマスター、メインブースターの方向調整完了!」
「良しっ!
ーほいっ!」
すると、間髪入れずにカノンが報告したので俺は操縦桿を90度の位置にポジショニングさせ、真下に下げる。
ー直後、今度は真下にある岩石惑星に向かって高速で降下を始めた。
「ー着地まで、カウント20ッ!
『ブレーキフロート』、発動しますっ!」
それに合わせて、カノンが着地に備えてウィングに搭載されたフロートを発動した。
「クローゼ!『シールド』の出力を下げておいてくれっ!」
「ーっ!イエス・キャプテンッ!」
その最中、クローゼにオーダーを出す。まあ、念のためエネルギーに余裕を持たせておく為だ。
「カウント、10!
9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」
そして、シールドの出力が下がってから数秒後。『キマイラ』は、目標地点に無事着地した。