ーSide『シーサイド』
「「「ー………」」」
夏の盛りを迎えた、ブルタウオ星系第3惑星セサアシス。その沿岸部に位置するセサアシスの地上を代々守って来た『レーグニッツ家』の中は、ディナー時にも関わらずまるで時が止まったかのような静寂に包まれていた。
ーその原因は、直前に現部隊長のグラハムがもたらした報告だ。
『ーなんでも、キャプテン・プラトーがパインクトにある-手掛かり-を回収したらしい』
ちなみに彼はまだ職務中だが…『当事者』に『出来れば-あの人達-にも伝えておいて下さい』と頼まれたので、こうして連絡をしたのだ。
「ー……え?…えっ!?」
「…『パインクト』って、あれだよな?」
「…全く知らなかったわ……」
それから数分後。彼の妻であり『当事者』の従姉(あね)でもあるカーリーを筆頭に、父であり伯父でるゼクスと母で伯母のシュザンヌもようやく復活した。
『…いや、申し訳ないです。私も、ついさっき-彼-の元に居る部下から聞いたばかりなので…』
「…ま、まあ、『邪魔』が入らないとも限らないし、当然の措置だろう」
「……いや、ならなんで、今は大丈夫なの?」
『それはだな。
ーこの情報は、いずれ銀河連盟全土に流れるからさ』
「…へ?」
カーリーの問いに、彼はまたもや『びっくり発言』をする。
「…それって、大丈夫なの?」
当然、シュザンヌは心配した表情になった。しかし、彼はやや穏やかな顔になり首を振る。
『大丈夫だよ。』
彼はもうパインクトを後にしています。…それに、彼の報告によると…多分パインクトは今以上にパインクト厄介なエリア-と化すでしょう』
「「「……?」」」
当然、3人はその言葉に疑問を抱く。…だがー。
『ー…まあ、この先は実際ニュースを見て下さい。
その方が、-分かりやすい-ので』
彼は、それ以上の説明をしなかった。…何故なら、これ以上話すと家族のディナータイムがどんどん遅れると考えたからだ。
「……っ」
「…っ。…分かったわ。
ーきっと、『簡単に説明出来ない』事なのね…」
まあ、カンの良い女性陣は直ぐに彼の『配慮』を察したのだが。
「…そうか。…まあ、『あの子』が無事って事さえ分かれば良い」
一方、ゼクスは義理の甥の事を気に掛けていた。直接関わった時間は短いが、彼の事を気にいっていたようだ。
「そうね」
「うん」
『…あ、じゃあそろそろ切ります』
「ああ」
「ええ」
「あなたは、夕食はこれから?」
『ああ。じゃあ、失礼します』
そこで通信は切れ、レーグニッツ家はディナータイムに入るのだったー。
○
ーSide『サポーター・ノーブルサイド』
『ーねぇ、聞きましたっ!?』
『ああ、聞いたよっ!スッゴいよなぁ~っ!』
今日は比較的暑さが控えめな、帝国首都ファストナチラ。しかし、今日は別の意味で『熱気』
が凄かった。
『ーあの-プレシャス-が-パインクト-を攻略した!』
昨日の夜に『連盟』から公式発表されたその『ビッグニュース』は、瞬く間に民衆の間に広がった。
ー勿論、そのニュースは皇城内にも広がっておりメイドや近衛騎士も休憩中はその話しをしていた。
…しかし、彼らは知らない。実は、攻略を果たしたのは『たった1つの船とメンバー』だという事を。
(ー何より、『私』が『真実』を知っているとは誰も予想していないでしょうね)
自室で将来の為の勉学に励む、『帝国の至宝』…皇女リーリエは物凄くご機嫌だった。
『ー皇女殿下、宜しいでしょうか?』
「(…っと。)どうぞ」
そんな彼女の耳に、聞き慣れた声が聞こえた。なので、彼女は『真面目モード』な顔を作り入室を許可する。
「失礼致します。…さてー」
入って来たのは、彼女の専任騎士であるオリビアだ。そんな彼女は、入って来るなり皇女の机に静かに近く。
「ー…どうやら、真面目に取り組んでいたようですね」
「…あのね。入っていきなりそれはどうかと思うわよ」
いきなり『チェック』から入る専属騎士に、皇女は苦言を呈する。
「今までが『相当』でしたので、当然の対応です」
「…うぐっ。
…そ、それで、用件は何かしら?」
しかし、騎士は少し目を細めてカウンターを放った。…それは、皇女のハートにクリティカルしたので当人は速やかに話題を変える事にした。
「こちらをー」
騎士も意識を切り替え、ポケットからデータチップケースを取り出し恭しく皇女に差し出す。
「…あ、次の『スケジュール』が決まったのね?」
「はい。同行メンバーも併せて記載しておりますのでご確認下さい」
「分かったわー」
皇女はそれを丁寧な所作で受け取り、チップを取り出し自分用のタブレット端末に差し込む。
「ー…なるほど。出発は3日後で、道中補給兼『外出休憩』を2回挟んでナイヤチ日時で6日午後に到着ね」
「左様です。…まあ、今回は初めて『遠出』される方が多いですから余裕を持って行く事なりました。
したがって、出発は早めとなりました」
「…あ、そうか。普通『船乗り』でもない限り閉鎖空間で長い時間過ごせないものね」
騎士の捕捉を聞いて、皇女は納得する。…ちなみに、皇女は『公務』で遠出する事が多いのですっかり慣れていた。
「…そして、このメンバーが次の『アピール』に着いて来てくれる方達ー」
スケジュールを頭にインプットした皇女は、次ページを見る。そこには、『後援会』の旗となる著名な人物の令嬢達をはじめ学生の名前等も記載されていた。
「ー今回は、学生の方々が多いわね」
「世間の大体のスクールは『夏季休暇』に入っていますから。…それに、どうも『かの方々』が宣伝してくれたようですね」
「…っ!まさか、『プレシャス』の方々が?…そういえば、つい最近『イデーヴェス』で活動していらしたのよね?」
「はい。…確か、臨時で教鞭も振るわれていたようですしその合間に宣伝をされたのでしょう。
その証拠にー」
騎士は、「失礼致します」と断りを入れてから皇女の端末を操作する。…直後、1人の『令嬢』の簡易プロフィールが表示された。
「ーあら、この方は『あのメーカー』の?」
「はい。そして、この方もイデーヴェスのスクール生です」
「…という事は、記載されている学生の方々もほとんどイデーヴェスの?」
「はい」
「有難い事ですね。……?」
皇女は『プレシャス』と参加してくれるメンバーに心から感謝しする。…そんな時、デスクの収納スペースの1つがいつの間にかぼんやりとした光を纏っていた。
「…っ、これは…?」
「……」
騎士が困惑する中、皇女はそこを開ける。…すると、中はジュエリースペースになっていた。
「……」
皇女は、1つ1つ丁寧に区切られたジュエリーの中から先々代皇女より賜った『大切な宝物』を取り出した。…発光元は、どうやらこれのようだ。
「…それは、『サポーター』のシステムが宿ったモノではないですか。…一体、どうして?」
「ーねぇ、オリビア。『2つ』ほど頼まれてくれないかしら?」
不思議な現象の最中、ふと皇女は騎士に頼み事をする。…その表情は、非常に『ご機嫌』だった。
「……。…何でしょうか?」
それを見た騎士は、『経験』で嫌な予感を抱いくと共に少しだけ『安堵』する。
嫌な予感を抱いた理由は、皇女がこういう表情をする時は大抵『大事』になるからだ。
そして、安堵した理由はいつもと違いこうして『頼んで来た』点…つまり、『自ら行動を起こすつもりはない』という事だ。
「大丈夫よ。『そんなに難しい事』じゃないから」
そんな騎士に、皇女はニコニコしながら言う。…それが余計に、騎士の不安を掻き立てるのだったー。