「ー……っ、……」
パインクトでのミッションを終えた『カノープス』は、休みもそこそこ取りながら次のミッションポイントに向けて移動していた。…そんな少し慌ただしいスケジュールの道中、俺はいつもの時間にぼんやりと目を覚ます。
「…っ(…やれやれ、今日『も』か)」
だんだん脳が覚醒していく中、両隣に温もりを感じたのでチラリと見る。
「「……」」
そこには、アンゼリカとメアリーがすやすやと穏やかな寝息を立てながらぐっすりと寝ていた。…パインクトのミッションを終えてから、カノン達ライトクルーがこうして毎日代わる代わる、いつの間にかベッドに入って来るようになったのだ。
まあ、あのミッションは相当リスクが高かったからこうなるのも当然かも知れない。…それに、正直な感想をいえばかなり嬉しい。
だって、より『家族』のような距離感になったのだから。
「……っ、あ、おはようございます…、マスター」
「…ふあ……。…あ、おはようございまーす……」
心に暖かいモノが満ち溢れる中、ふと両隣の2人が目を覚ました。
「おはよう、アンゼリカにメアリー。…っと」
挨拶を2人に返し、俺はゆっくりと起き上がる。…幸せな時間だが、俺は気持ちを切り替えた。
「2人共、今日は『休み』なんだからまだ寝てて良いぞ」
「…そうさせてもらいます。…昨日は、1日中『彼ら』の相手をしてましたから」
「同じくでーす。…なんか、最近『落ち着かない』んですよねぇ」
俺の言葉に、2人は遠慮なく甘えた。最初の頃は『大丈夫』だと言っていたのだが、『船のルール』…という名目の『俺の気持ち』を理解してからはこうして直ぐに受け入れるようになった。これもまた、嬉しい変化だ。
ー…それにしても、『落ち着かない』か。
俺は、彼女の言葉を心に留めベッドから降り身支度を始めた。
それから数分後、俺はトレーニングルームに入る。
『おはようございますっ!』
「おはようございます、皆さん」
すると、いつも通り早朝トレーニングに勤しむ遊撃部隊メンバーが挨拶をして来た。
「じゃあ、今日も『対策トレーニング』をやって行きましょう」
『お願いしますっ!』
そして、いつものように『対-レプリカ-トレーニング』が始まる…かと思いきや不意にコールが流れた。
『ーマスター、トレーニング中に失礼します。
ブラウジス閣下より、通信が入っております。至急、通信ルームへお越し下さい』
「…(あー、やっぱり『事実確認』はしたいよなぁー~)すみません。今日のトレーニングは、最初だけ『代理』のメンバーを派遣します」
「構いませんよ。…それにしても、『何か』あったのでしょうか?」
『直ぐに察した』俺はオットー隊長に謝る。しかし、隊長は気にしていないようで爽やかに首を振る。…ちなみに、『パインクトの真実』を知るのは隊長とユリア副隊長、それからイリーナ班長率いる情報班のみだ。
「ーっと。…とりあえず、聞いて来ます」
「了解です」
俺は、『代理』の手配をした後トレーニングルームから通信ルームに移動した。
「ーおはようございます、マスター。いつでも、開始出来ます」
「おはよう、クローゼ。早速頼む」
「了解しましたー」
すると、彼女は直ぐに通信を開始した。直後、モニターにブラウジス閣下が映し出された。
『おはよう、同志プラトー。…すまないな、そちらはまだ-早朝-だったようだ』
「おはようございます、閣下。お心遣い、感謝致します。
…というか、そもそも『こちら側が原因』ですのでどうかお気になさらないで下さい」
申し訳なさそうにする閣下に、俺は首を振る。…実際、こうして急いで連絡をして下さって非常に助かっている。
『…そうか。
ーでは、本題に入るとしよう。…まずは、-手掛かり-の回収おめでとう』
「恐縮です」
『…しかし、本当なのか?
指定座標にあった岩石惑星が、実は偽装されたコロニーだったというのは?』
まず、閣下は賞賛の言葉を掛けてくれた。…そして、その後率直な疑問を投げ掛けて来る。
「…自分も、当事者でなければ信じなかったでしょうね。
ーですが、『こちら』をご覧になって下さい」
そのタイミングで、クローゼは『キマイラ』のログムービーをアップする。
『ー…っ!これは、シールドプレート?……それに…エネルギーパイプまで……』
そのムービーを見た閣下は、驚愕する。そして、場面は『受け取り』に変わった。
『ー…極め付けは、管理AI。…なるほど、これはどこからどう見ても旧式コロニーだ……。
それだけでもかなりの大発見だが…。
ーまさか、また-コンパス-で認証が行われたとはな…』
ムービーが終わり、閣下は俺と同じ予想を抱いた。…そして、回収の時の事に触れる。
「…いや、本当に驚きましたよ。…本当、どういう事なんですかね?」
『…それについての-ログ-は、なかったのか?』
「有るには有るのですが、憶測の域を出てないモノばかりですね」
『…ふむ。…実は、かつて帝国の技術機関に調べて貰った事があるのだが。
-仕組み-に関してはまるで解明がされなかった』
そんな話題の最中、閣下はそんな事を教えてくれた。…多分、当時の時点で最先端の技術力を持つ帝国の専門機関でも『分からない』ってヤバくないか?
『…まあ、今もう1度調査した所で結果は変わらないだろうがな。
…さて、分からない事に頭を悩ませるのはここまでだ』
閣下は、そう結論付けた後表情を引き締めた。恐らく、いや確実に『ここから』話題が真剣なモノになるだろう。
『時に、獲得した-手掛かり-は何処を指し示していたのだ?』
「『此処』になります」
すると、モニターに新たなウィンドウが表示される。
『ー…ブルタウオのミザナサか』
そう。手に入れた『手掛かり』…『ブラックボックス』はブルタウオの第2都市惑星『ミザナサ』を指し示したのだ。…なんというか、非常に好都合だな。
『…ん?待てよ。…確か、そこにはー』
「はい。『初代』の記憶回復に尽力して下さった方の1人が余生を過ごされている地ですね」
すると、閣下は記憶を呼び起こした。なので、こちらからも掴んだ情報を出す。
『…知っていたのか』
「まあ、たまたまですよ。…ただ、『今やるべき事』を片付けたとしても直ぐには向かいません」
『…そういえば、この後も幾つかやるべき事があるのだったな。
ー1つは、ランスターの2人の船の回収。
もう1つは、3ヶ所の-ファインドポイント-…ナイヤチ、-ラバキア-、-ビーポキン-の調査。
そして、最後はトオムルヘの-解放-か……』
閣下は、今後の『カノープス』のスケジュールを羅列してくれた。…いや、かなりの盛りだくさんだな。
ー尚、つい先日連盟議会によってトオムルヘの『強制介入』が可決された。…ただ、具体的な開始時期はまだ未定である。
『…重要かつ大変な事が重なるが、どうか無理のない範囲で頑張って欲しい』
「ありがとうございます、閣下」
『…おっと、1つ大事な事を伝えていなかったな。
ー実は、近々-後援会-がナイヤチにて活動する運びとなった』
「…っ(…やっぱり、重なったか)」
それを聞いて、俺は内心気が重くなった。…勿論、顔には絶対に出さないように気を付ける。
『確か、ナイヤチにて開催される-イベント-に合わせる形となるそうだが…。
-プレシャス-からは、誰か参加しないのか?』
「…あー、そういえばマオ老師をはじめナイヤチで『アーツ』を習得した方々は全員参加予定ですね」
その質問に、俺は『こちらサイド』のスケジュールを伝えた。
『…ほう。ふむ、実に心強いな。…-彼-も、参加するのかな?』
すると、閣下は『含み』を持たせて聞いて来る。…まあ、要するに『オリバーとして参加するのか?』って事だ。
ただ、俺は直ぐに首を振る。
「…いや、『彼』は参加はしませんよ。そもそも、『彼』は例外的にナイヤチの『外』でアーツを習得した人間です。
いくら『指導資格』を持っていても、伝統を重んじる他アーツの家が難色を示すでしょうから、『彼』のマスターも不要なトラブルを避ける為に『参加依頼』はしなかったようです」
『…そうか。…まあ、同志オリバーが居るだけでも充分有り難いので-欲張る-のは良くないな。
ーそれでは、-今の用事-が無事に片付いたら報告をくれ』
「了解しました」
そこで通信は切れたので、俺は速やかにトレーニングルームに戻るのだったー。