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ブービートラップ

 ーSide『イリーガル』



 ー某日。とある連盟星系と非加盟星系間にある空白宙域に、突如大量のワープアウトが発生する。…その船団は、皆あからさまに『レプリカ』だった。

「ー目標座標に到達完了。…『指定時間』まで、もう間も無くです」

「…ああ。

 フフフ、まさか『こんな役割』を頂けるとはな」

 部下からの報告を聞いた『サーシェス』の幹部は、ゲスな笑みを浮かべていた。

 ー『本社』…すなわちプレジデントは、この男に『本命は押さえたので-残党は好きにしろ-』というオーダーを出していたのだ。

 だから、既に男は頭の中で『どう責めてやろうか』と考えていた。…ちなみに、『スパイ』については『愛人』にしようかとも考えていた。

「ー…っ。ボス、『来ました』」

 すると、船内にワープアウトを告げるサウンドが流れた。そして、直後ー。

「ー情報通りだな」

 モニターには、『残党』の乗る『レプリカ』と傭兵が乗っていそうなシンプルなデザインの武装船…恐らく護衛の船だろう。

 それと、その2つの船の反対側から連盟の輸送船と護衛の戦闘機複数がやって来た。

『ーボス、どうしますっ!?』

「…慌てるな。…輸送船が『口』を開ける瞬間まで待機だ」

 その時、待ちきれない部下から通信が入る。しかし、男は『絶好のタイミング』まで待つように告げる。

 ーそして、数分後。…ついに、『その時』は訪れた。

「ー各位、『業務』スタートッ!」

『Jaaaー!』

『レプリカ』が輸送船に収納されるタイミングで、男は部下達にオーダーを出す。直後、船団は一斉に襲撃を開始しー。


『ーっ!?な、なんだっ!?』

『す、スピードがコロされたっ!?』

 数秒後には、船団の動きは『止められて』しまった。

「…これは。…『サーチ』ッ!」

「り、了解っ!

 ー…っ!『グラビティマイン』多数検知っ!」

 直ぐに『予想』が浮かんだ男は、冷や汗を流しながら部下にオーダーを出す。…すると、『予想』は的中してしまった。

「…やはり。……っ!?…やられた……っ」

「ーっ!ワープアウト確認。…こ、この『大きさ』は……」

 そして、そこから更に『予想』を立てた男は拳を握りひじ掛けを叩いた。…勿論、その予想も的中してしまった。

 ー数分後。船団は、3つの戦艦と多数の武装船と戦闘機に包囲されていた。

「…ぼ、ボス」

「ー…仕方ない。船を『放棄』する」

 当然、部下達は青ざめた顔で男を見るがその当人は…対象的に怒りで顔を赤くしながらも、冷静な決断を下した。

「…っ。Ja…」

『Ja…』

 そのオーダーに、部下達は非常に悔しそうに返事をし即座にシートを離れ初めるがー。


『ー無駄な抵抗はそこまでだ』

『ーっ!?』

 直後、オープンチャンネルで通信が入って来た。…それと同時に、船内に急激な負荷が発生する。

「…こ、これ…は……」

『残念だが、お前達の行動パターンは全て予想済みだ。…どうせ、-トリ-と-ドラゴン-を利用して船を放棄するつもりだったのだろう?』

 負荷環境の中、『相手』は男達がいままさにやろうとしていた事を言い当てた。…そのセリフで、男は確信する。

「…クソ…が…。『あの船』まで…来るとは…、聞いてない…ぞ…」

『そりゃ当然だ。

 ーだって、スパイは-元々こちら-が送り込んだのだから』

 怨嗟の声を出す男に、『向こう』は耳を疑う事を言う。…故に、男は激しい怒りの力で身体を動かし『小さなリモコン』のような機械を取り出した。

「ー…本部に、通達。…『ミッションは全て失敗』。『スパイ』に注ー」

 そこまで行った瞬間、船内にイエローの光が走った。

「ーがっ…」

『アギャッ!?』

 それを喰らった男達は、仲良く気絶するのだったー。



 ○



「ー…うわぁ、良く動けたな……」

 一連の流れを監視していた俺は、幹部の最後の行動に若干引いていた。…正直、自分にはちょっと無理だと思ったからだ。

「…ですね。…でも、これでエージェント・プラトーのプラン通りになるでしょう」

 同様に、隣に居たトマス少尉も引いていた。…そして、さっきのアナウンスに触れる。

 ーまあ、要は『連中』の内部…というか『プレジデント』に動揺を与えるのが目的だ。…それと、出来れば『軍部』も疑って欲しい所だがまあ欲張り過ぎかな?

「ーっと。エージェント・プラトー。

 旗艦『ブレイガルド』より、通信が来ています」

「繋いで下さい」

「了解ー」

『ーエージェント・プラトー。任務協力、感謝します』

 すると、モニターに向こうの艦隊司令の方が映し出され開口一番お礼を言って来た。

「こちらこそ、お忙しいなか此処まで出動して頂きありがとうございました」

『いえいえ。…それに、-連中-への対応は我々の最優先の任務の1つですので。

 …それでは、これより確保並びに護送に移ります』

 こちらも心からの感謝を述べると、向こうは少し朗らかに返した。だが、直ぐに真剣な表情になり次のフェーズの開始を宣言する。

「お願いします。…一応、全員気絶させましたがくれぐれもお気を付けて」

『心得ています』

 通信はそこで切れ、そして直ぐ様艦隊から複数の護送船が発艦し『連中』の船に向かって行った。

「ー…とりあえずは、大丈夫なようですかね?」

「ですね」

 少尉はその様子を見て、ホッと胸を撫で下ろした。


 ーそれから数10分後。

『ー敵クルー、並びに敵船全機の回収完了しました。…それでは、-カノープス号-は当艦とリンクを』

「了解です。

 ーカノン」

『ワープリンク、完了しました』

 連中と連中の船も無事に回収されると、向こうは『ワープリンク』を指示して来た。なので、直ぐにカノンに確認する。

 当然、彼女は『問題ない』と返して来た。

『尚、3番艦は一度ゲスト達をナイヤチに送迎した後合流します』

「何から何まで、ありがとうございます」

『何、連盟軍人として当然の対応ですよ。

 それでは、出発しますー』

 そして、艦隊と俺達はイリタリミへ。『ゲスト達』を乗せた艦はナイヤチに向かう事になった。…尚、当然だが『スパイ』はイリタリミ送りだ。無論、『発信器』は無力化してあるが念のためだ。



 ーそれから更に半日が経過した頃。今回捕まえた幹部3人とその部下達の取り調べは本当に何事もなく終わるのだったー。



 ○



「ー…はあ(…うわ、夕焼けになってる……)」

 イリタリミ首都『ファストムージ』の空が、黄昏に染まる時間。俺は軍の取り調べ専門施設の地下パーキングに向かっていた。…まあ、取り調べ自体は意外と早く終わったのだが『報告書』を作成するのにかなりの時間を要したのだ。

 …流石、腐っても『幹部』なだけあって持ってる情報がかなり多くそして『ヤバいモノ』ばかりだったな。

「エージェント・プラトー。お疲れ様でした」

 取り調べ中に聞いた『信じられない情報』に頭を抱えていると、いつものようにウェンディ少尉が待っていてくれた。

「あ、少尉。いつもありがとうございます」

「いえ。…さ、どうぞ」

 少尉は一礼すると、後ろにある『ミドルレッグ』を丁寧な所作で指し示す。なので、俺は直ぐに乗り込んだ。

「ー…あ、すみません。お待たせしました」

 すると、中には遊撃部隊の戦闘班と情報班のメンバーが居た。どうやら、待たせてしまったようだ。

「お気になさらず。…それよりも、お疲れ様でした」

「…ありがとうございます」

『ーマスターの乗車並びに着席を確認しました。-ミドルレッグ-発車致します』

 少し申し訳なく思っていると、オットー隊長は微塵も気にした様子を見せずそれどころか気に掛けてくれた。…それに感謝していると、カノンのアナウンスが流れ『ウマ』は発車した。


「ー…それで、何が分かったのですか?」

『ウマ』が発車して数分後、イリーナ班長は小声で聞いて来る。まあ、今回メンバーには此処の人達のサポート…それも主に部下への取り調べの手伝いをお願いしていたからな。

 当然、気になるのだろう。

「…今回は、今まで得て来た情報とは比べ物にならないモノばかりでしたよ。

 まず、サーシェスの現在の『テリトリー』が大体分かりました」

『ーっ!?』

 それを聞いた隊長陣は、ぎょっとした。…いや、俺も正直今日分かるとは思ってなかった。

「…もしかして、今回の幹部の中に『古株』がいたのですか?」

 すると、レナート班長補佐は鋭い予想を口にする。

「実は、今回の幹部の内2人はイデーヴェスで暗躍していた者達なのですが…その片方の女幹部は『親子3世代』に渡ってカンパニーの要職に就いているのですよ。

 特に、祖母はカンパニーの創設メンバーだったようです」

「…なんと……」

「…なるほど。確かにそれなら、『規模』を知っていてもおかしくはないですね」

「…それで、実際『どのくらい』なのですか?」

 すると、ユリア副隊長は不安げに聞いて来た。…俺は、少し躊躇いながら口を開く。

「…『こちらサイド』(連盟)で把握している非加盟星系は、ほぼ連中の手中です。

 そして、未だ観測出来ていない非加盟星系の大半も…」

「…そ、そんな……」

「なので、今後は『広域解放』の動きとなるでしょうね。…そして、当然他のエージェント協力して動く機会も増えると思うので皆さんには、『サポーターマニュアル』と『対サポータートレーニング』のコーチサポートをお願いしたいのですが……」

「お任せを」

「じゃあ、早い内に資料を作成しておきますね」

「ユリア副隊長、後で相談があるのですが宜しいですか?」

「勿論です」

 また1つ仕事を増やしてしまい申し訳なく思っていると、隊長と班長は文句の1つも言わずに了承し副隊長と班長補佐は早速動き出してくれた。

 …本当に、良い人達に出会えたな。

 俺は、しみじみとそう思うのだったー。

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