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「おっと。自己紹介がまだだったな。

 私は、『モーント』隊長のシリウスだ。

 宜しく頼む、キャプテン・ブライト」

「どうも(うわ、手の皮分厚…)」

 隊長の男性…シリウス(多分『コードネーム』)卿は、気さくな感じで握手を求めて来たので応じる。…その手からも、歴戦の騎士の実力を感じた。

「…ふむ。…なかなか良く鍛えているな」

 一方、シリウス卿もこちらの実力を肌で感じたようだ。…どうやら、『イチャモン』を付けたい感じではないようだが嫌な予感はまだ消えていないので、顔は笑顔のまま気を抜かずにいた。

「…それに、『良い心構え』だ。

 流石、マダムが推すだけはある」

「フフ、当然ですわ」

 まあ、当然卿はこちらの様子なんてお見通しだった。…いや、ホント『マスタークラス』は超人しかいないな。

「まあ、そう緊張しないでくれ。

 先程も言ったように、我々は『君』の事が知りたいだけなのだよ。

 ー出身は『緑の惑星』のライスファーマの家庭という極めて普通の出自なのに、『かの大会』では並み居る『ベテラン』のみならずマダム達『BIG3』をおさえ、その上あの『名の知れたパワー自慢』を圧倒し初出場初優勝を勝ち取ったのだ。

 興味が湧かない方が、おかしいと思わないか?」

 …あー、この人『探求者』タイプだ。メアリーと気が合いそうだな~…。

『……』

 それ聞いた閣下とオーガス卿はほんの少し困った顔をした。…ああ、多分『この後』バレるんだろうな~。この場で聞かないのは、『その目で確かめたい』からだろう。


「だから、少し『手合わせ』を願いたいのたが…どうだろうか?

 …あ、時間に余裕が無いようなら『移動中』でも構わないぞ?」

 案の定、シリウス卿は『戦ろうぜ』と言って来た。…しかも、退路を絶つ徹底っぷりだ。

「(…はあ。どうしてこう戦闘メインのジョブの人って、『こういう手合』が多いんだろうねぇ~。)

 ー時間の方は大丈夫ですよ。胸をお借りします、シリウス卿」

 内心辟易としながらも、俺は背筋を伸ばして胸を張り堂々と応じた。…まあ、俺も『アーツ使い』の端くれだ。『マスタークラスと手合わせ出来る機会』は、どうしても逃したくないと思ってしまうのだ。

 はあ、自分も相当厄介な『性格』だな。

「ほう…」

『……』

 すると、シリウス卿とメンバーは感心したような顔でこちらを見る。

「それでこそ、『プレシャス』のメンバーです」

『……』

 一方、女史は誇らしい面持ちで閣下とオーガス卿はぽかんとしていた。

「…では、閣下。そしてオーガス卿。我々はこれにて失礼させて頂きます」

『…分かった。

 それでは、諸君。明日のアフタヌーンにまた会おう』

「はい」

「…了解です」

「分かりましたわ」

 閣下の言葉に、俺とオーガス卿と女史は頷いた。そして、閣下は通信を切った。


「それでは、私もこれにて失礼いたします」

「ああ、お疲れ様」

『お疲れ様でした、オーガス卿』

「また明日です」

「お疲れ様です。

 私は…そうですね、せっかくですので『観戦』させていただくとしましょう。

 宜しいですか?」

 それを皮切りに、やや困惑していた卿は意識を切り替え退室した。…そして、女史はふと確認してくる。

「勿論ですとも」

「構いません」

 まあ、当然シリウス卿も俺も二つ返事で了承した。

「それでは、場所を変えるとしよう。

 ー『こんな事』もあろうかと、実は予めフィールドを確保しておいたのだ」

 …マジかよ。

 俺は、準備の良さ…そして『予想力』に唖然とするのだったー。



 ○



 ーそれから、大体30分後。彼ら専用(見た目は普通だが中は『魔改造』)の車に揺られた先に待っていたのは、一見すると普通の『5階建てのビル』だった。

 しかし俺は、油断しない。…だって、帝国情報局の本部も見た目こんな感じだったし。

 そして、案の定その予想は正しかった。

「ーあ、このまま『中』に入るので降車の必要はありませんよ」

 降りる体勢を取ろうとしていると、ドライバーを務める部隊メンバーが至って普通な感じてそう言った。

 直後、車はビルの裏手に入る。…すると、窓の外の景色は瞬時に『メカニカル』なモノに変わった。

『ーメンバーノ帰還トゲスト-2名-ヲ確認シマシタ』

 そして、立て続けに『アナウンス』が入る。…『チェック時間』短っ。

『エレベーターノ降下ヲ開始シマス』

 更に、その空間はゆっくりと降下を始めた。…え、超優遇されてるじゃん。それだけ、『表立って賞賛出来ない功績』を積み立てて来てるって事か。

『設備』を見ながらある程度の予想を立てていると、エレベーターの降下は止まった。

「お待たせ致しました。どうぞ、降車を」

「「ありがとうございました」」

 そして、ドライバーを務めたメンバーはタクシーよろしく後部シートのドアを両方開けた。


「ーようこそお越し下さいました。マダム、そしてブライト様。

 それでは、キャプテン・ブライトは私に着いて来て下さい。

 マダムは、あちらのメンバーにご案内させます」

 すると、エレベーター内に女性メンバーが入って来た。…うわ、この一際もオーガス卿並みの実力者だな。

 一見すると、アイーシャ達と同年代の若手メンバーだが隙のない佇まいや身体から発せられる『オーラ』を見てそう思った。

「…せ、誠心誠意ご案内さてて頂きますっ!」

 …だが、こちらに近付いて来たそのメンバーは、やや緊張した面持ちで女史にお辞儀をする。案の定、彼女は女史のファンだった。

「宜しくお願いしますわ。

 それではオリバー。頑張って下さいね」

「…了解です」

 そんな彼女に、女史は穏やかな様子でお辞儀をする。…そして、ちょっとプレッシャーを纒いながらエールを送って来た。

「…そ、それでは、『観戦スペース』にご案内させて頂きますっ!

 失礼しますっ!」

 それから、女史と女性メンバーは一足先にエレベーターを出て行った。…こりゃ、みっともない戦いは出来ないぞ……。

「さ、我々もトレーニングルームに行くとしましょう」

「お願いしますー」

 その後直ぐに、俺と男性メンバーもエレベーターを出た。


 ーそして、やや長い道のりを進んだ先に『更衣室』と表示されたルームに入った。…うん、分かってらっしゃる。

「ーそれでは、準備が出来ましたらそのまま奥のドアにお進み下さい」

「分かりました。ありがとうございました」

 男性メンバーはそう言ってからルームを出た。…さてー。

 俺は、ウォッチ型のチェンジャーを操作し瞬時にトレーニングウェアに着替えた。

「ーせいっ」

 そして、トレーニング用のロングバトンも取り出し瞬時に構えて素早く突きを放つ。

「…よし」

 そうすると、『スイッチ』が入ったので俺はぽつりと呟き奥のドアに入った。

「ーやあ、先程ぶりだな」

 すると、トレーニングルームには既に『臨戦態勢』のシリウス卿が待ち構えていた。…武器は、『バスタードソード』か。

 卿は、トレーニング仕様の肉厚の両手ソード…いわゆる『バスターソード』を右手に持っていた。…正直、ベストマッチ過ぎである。

「…ほう。…もう『スイッチ』が入っているのか。

『ルーキー』の割には、良い切り替えの速さだ」

 そんな事を考えていると、卿はこちらの変化をピタリと言い当てた。…そして、真っ直ぐな賞賛の言葉を送って来た。

 まさに、まごうことなき『ナイト』である。

「…さあ、それでは始めるとしよう。

 ータイムカウント、セット」

『イエス、マイロード。

 カウント、180』

 直後、卿は武器を構えオーダーを出した。それに応じたのは、ドライバーを務めてくれたメンバーだった。…さあ、恐らく人生で最も長く感じる3分間の始まりだ。

 俺も武器を構え、集中する。

『レディ……。

 ゴーッ!』

 そして、彼の合図で俺と卿は同時に互いに向かって走り出した。

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