「せいっ!」
数秒後。クロスレンジの領域に入った瞬間、シリウス卿は足を止め強烈な一閃を放つ。
「ほいっ!
ー…背衝」
しかし、俺は直前で跳躍し空中に待避する。そして、直ぐに着地し背後に向けて突きをー。
「ー甘いっ!」
だが、背後から卿の声と共に甲高い音が鳴り響く。どうやら、武器を背中に回し攻撃を防いだらしい。…まあ、当然読まれてるか。
俺は卿の声が聞こえた瞬間、直ぐに離れるがー。
「ーっ!?(速っ)」
後ろをチラ見すると、既に卿はこちらに迫って来ていた。…なので、俺は急ブレーキを掛けて素早く『バック走』を始める。
「っ!…面白い」
すると、卿は足を止め迎撃の体勢を整えた。それを肌で感じた俺は、バトンを後方高くに投げる。
「…っ!?…」
当然、卿は一瞬戸惑うが直ぐに切り替えた。…どうやら、『俺』に集中するつもりのようだ。
「ーせぇのっ!」
だから、俺は掛け声と共に勢い良くバッグ転を始める。
「ふんっ!」
「ーここぉっ!」
数秒後、卿はタイミングを見計らい武器を振り下ろすが俺もまたベストなタイミングで更に強くジャンプし、再び卿の頭上を飛び越えた。
「とっ」
そして、落ちて来たバトンをキャッチし一気に卿に迫る。
「っ」
だが、卿むち素早く振り返りまたこちらに迫って来た。そしてー。
「ー瞬迅剛突」
俺は少し『リミッター』を緩め更に加速し、その勢いのまま激しい突きを放つ。
「ふんっ!」
しかし、卿は前面に武器を構え腰を落とし防御の体勢を取る。…良し。
直後、再びトレーニングルーム内に甲高い音が鳴り響いた。…そして、俺は素早く身を屈める。
「っ!」
「足衝」
間髪入れずに、俺は卿の足目掛けてバトンを振るう。
「ーはっ!」
しかし、卿はその場で高い跳躍をして回避する。勿論、それだけでなくそのまま斬撃の体勢を取った。
「ー天衝十連」
それを予想していた俺は、素早く立ち上がり空中に居る卿目掛けて10の突きを放つ。
「ーなんのっ!」
だが、卿は器用にそして恐ろしい速さで武器を操り攻撃を全て凌いだ。…うわ~、地に足着いてないのに良く防げるな~。
俺は、ちょっと引きながら卿の着地の直前で再び距離を取り始めた。
「ーハッハッハッ!なかなかやるっ!
格上相手に果敢に攻めて来る度胸に、凄まじい技量とパワーッ!
久しぶりに、『面白い』ぞっ!」
すると、卿は突然心底楽しそうに笑いながら賞賛の言葉を投げ掛けて来た。…あ、ヤベ。『スイッチ』入れちゃったな。
「キャプテン・ブライトッ!今から私は、『真っ直ぐ走って真っ直ぐ武器を振り下ろす』っ!
ー行くぞっ!」
その様子を見て、背筋にぞくぞくした悪寒を感じ嫌な冷や汗をかいた。そして、卿はふと『次の行動』を宣言しー。
「ーっ!」
直後、目の前に居た卿は高速で俺に接近して来た。だから、俺は『渾身』の防御を取る。
「ーはぁっ!」
「っ!?
ーどっせいやぁぁぁぁぁーーーーっ!」
卿は、さっき以上の斬撃を放ち俺はそれを頭上で受け止めた。
「ー……おぉ。まさか耐えられとはな…」
そして、その時が凡そ10秒ほど続いた後…卿は力を緩めた。
「…っあ……。…はあ、…はあ、…はあ」
一方、俺は力を出しきり一気に疲労困憊になって跪いた。
「…だが、どうやら此処までの……ー」
「…(…あ、ヤバい。…意識……が…)」
卿は、何かを言っているが俺の意識はゆっくり遠のいていったー。
○
ーSide『マダム』
『ー誰か、直ぐにストレッチャーを。
それと、-アレ-はもう準備が出来ているな?』
「…っ!イエス、マイロードッ!」
「は、はいっ!大丈夫ですっ!」
オリバーが倒れた直後、隊長のシリウスは素早くオーダーを出す。そして、唖然としていた部下達は一斉に動き出した。
(お見事でした。『ボス』)
「…っ、あ、お騒がせして申し訳ありません、マダム」
一方、クルーガーは彼の健闘に惜しみない拍手を送る。その内心は、感動に満ち溢れていた。
すると、彼女を案内したメンバーが申し訳なさそうにしていた。
「どうぞ、お構いなく。…しかし、『ランチ』の準備までしていたとは『流石』ですね」
「…っ!…やはり、女史は『ご存じ』だったのですね」
「ええ。『活動を再開』された時から、存じていました。
ああ、それと『お2人』や彼の『サポーターチーム』も把握していますね。逆に、『プレシャス』で知っているのは1人もいないですね」
「…そうですか」
2人がそんな会話をしていると、オートストレッチャーを引き連れたメンバーがトレーニングルームに入って来た。そして、隊長と協力してオリバーをストレッチャーに乗せた。
『ーマダム。この後は、どうされるおつもりですか?』
「…そうですね。
とりあえず、彼の『ライトクルー』に『予定変更』を伝えなければならないので、此処でお暇します。
なので、『ボス』の事をお任せしても宜しくて?」
『勿論ですとも。
ーしかし、本当に驚きました』
シリウスは、彼女の頼みに騎士の礼をもって応えた。…そして、彼の『正体』について言及する。
『まさか、本当に-後継者-が存在していたとは』
「その点は、私も同意しますわ。
『初代殿』は、現役時代本当『そういう素敵な方』と縁がありませんでしたから」
『…ああ、やはりその辺りはノベル通りでしたか。…おっと、お引き留めして申し訳ありません。
それではマダム。また明日』
『失礼しますっ!』
ふと、隊長はハッとして謝罪しメンバーとストレッチャーの後に続いて歩き出す。
「ええ」
「ー了解。
マダム、お待たせ致しました。それでは、『クルー殿』達の元へとご案内致します」
「ありがとう」
会話が終わったタイミングで、女性メンバーはサラッと凄い事を言った。勿論、クルーガーはイチイチ驚く事はなく礼を述べたー。
ーそれから、行きとは別の車で『集合場所』付近に着いた彼女は目的の場所に向かって足早に歩く。…その内心には、少し『嫌な予感』があった。
『ーお願いだから、頼んでよっ!』
『貴女達、-お姉様-の知り合いなんでしょうっ!?』
(ーやっぱり…。…本当に困ったコ達ですね)
そして、『セキュリティがバッチリ』なホテルが見えて来たのだが…その手前の広場は随分と騒がしかった。
残念な事に彼女の予想は的中してしまったらしい。
「ー皆さん。此処は公共の場です。
あまり騒がしくしては、周りの方に迷惑ですよ」
『ーっ!?』
『お、お姉様っ!?』
彼女は、凛とした良く通る声で女性ハンター達を諌める。…すると、まさか此処に現れると思っていなかったハンター達はビックリした。
「ー…あ、お姉様」
「…いらしていたんですね」
クルーガーは、そんな彼女達を気にも留めずランスターの2人に近付く。…勿論、ハンター達は自然に道を譲るべく後退りした。
「ごきげんよう。アイーシャ、イアン。
ーさ、ランチにしましょう。…あ、2人の『待ち合わせている方』は急遽予定が変更となりましたので、私が代理として来ました」
『ーっ!?』
「…そ、そうでしたか」
「……」
彼女が放った『代理』という言葉に、メンバーは更に驚愕する。…一方、2人はだいたいの事を察しやや冷や汗を流した。
「ーあ、あのっ!」
そして、彼女達はホテルに向かって歩き出すのだが…それを遮る者が居た。
「ーもし、『プレシャス』に加入したいのであれば日を改めて話しを聞きましょう。
ですが、『周りの迷惑』を考えず『数で囲んで強引に迫る』方々には『その資格』は無き者と思いなさい」
『ー……っ』
すると、彼女は足を止め背筋が凍てつくようなプレッシャーを放ちながらハンター達の行動を責めた。…当然、ハンター達は非常に気まずい顔になる。
「それでは、ごきげんよう」
「…し、失礼しまーす」
「…さようなら」
そして、彼女は再び悠然と歩き出した。…2人は、やや気圧されつつハンター達に挨拶をしその後ろに続いた。
『ー……っ』
やがて、プレッシャーから解放されたハンター達は自然と解散した。…しかしー。
「ー……やれやれ、『やっぱりダメ』だったか。さて次は、『どうしよう』かな?」
ただ1人、『懲りてない』そのハンターは『次の手』を考えながら街の中へと消えて行っくのだったー。