『ーこんばんは。オリバー』
「こんばんは、クルーガー女史。…まずは、ご配慮頂きありがとうございます」
開口一番、俺は女史に感謝の言葉を述べた。すると女史は、微笑みながら首を振る。
『私は、ただ殿下の相談に乗っただけですわ。それに、お礼を言うのはこちらの方です。
サポーターと遊撃部隊を手配して頂きありがとうございます』
「…いえ、その礼は『留守番している彼女達』に直接伝えて下さい。
その件に、私はオーダーを出していないので」
今度は女史が深く感謝をしてくるが、俺も慌てて首を振った。
『…そうでしたか。…もしかして、-警戒-していたからですか?』
「…ええ」
ーそもそも、何でこっちに来てから『ドラゴン』との連絡を極力控えていたのかというと…コロニーに到着して直ぐに『気配』を感じていたからだ。
それも、『嫌な感じな気配』を。
まあ、モーントの人に集合場所まで送って貰って以降は途絶えていたが一応注意は続けていた。…だから、『事後報告』になった訳だ。
『…貴方は、-どう考えて-いますか?』
「…そうですね。
実は、先程殿下のルームにフェンリーさん共々お呼ばれした際に『その話題』を私から出したのですがー」
すると、女史は真剣な表情で『犯人像』を聞いて来た。…とりあえず、俺はさっき出した予想を口にする。
『ー……なるほど。…厄介なタイプですね。
…もしかすると、-諦めの悪い方-が居たのかしから……』
…っ。通信越しなのに、プレッシャーが…。
それを聞いて、女史はポツリと呟いた。…その際、エアウィンドウから『若干の怒り』が伝わって来た。
『ーっ。…失礼しました』
だが、女史は直ぐに冷静になりこちらに謝って来た。
「…いえ。…あの、心当たりがあるのですか?」
俺は少し震えながら首を振り…ちょっと怖いが、避けては通れないので質問してみる。
『…あくまで可能性ですが、一応貴方にも教えておきましょうー』
すると女史は、ランスター達と集合する前に起きた『ちょっとしたトラブル』の事を教えてくれた。
「ーそんな事が…。
(ー……。…『有り得なくもない』のか…?)」
話しを聞いて、一応頭の中で思考する。…結果、『無理がない』事は分かった。
『…貴方的には、どうですか?』
「…まあ、女史の言うように『可能性がある』だけで確実に『そう』だと判断は出来ませんね。
…まあ一応、改めてオーガス卿と『シリウス卿』には伝えておく必要があるでしょう」
顔に出ていたのか、女史は意見を求めて来た。なので、女史の予想に同意しつつ現時点で『出来る事』を提案する。
『それが良いでしょう。…お手数ですが、お願いしても?』
「勿論です。…多分、今日中に出来ると思います」
『…そうなのですか?』
「…実はですねー」
まあ、当然女史は首を傾げた。…俺は直ぐに、『事情』を説明した。
『…相変わらず、殿下は奇妙な-ラック-をお持ちですね。
まさか、3人のクルーが同席しているタイミングで-その事-を尋ねられるとは……』
すると、女史は苦笑いを浮かべた。…殿下の『そういう面』も知ってるのか。流石、『顔が広い』。
「…あ、実はその流れで『女史に話しを通す』ように言ってしまったのですが…」
『分かりました。喜んで頼まれましょう』
「ありがとうございます」
『いいえ。…あ、そろそろ時間ですのでこれにて失礼致します』
女史は許諾した後、チラッとウィンドウ端を見てそう告げた。どうやら、間も無く『入りの時間』のようだ。
「はい。
それでは、また明日に」
『ええ。…楽しみにしていますわ』
最後に女史は、キラキラした笑顔を見せて通信を切った。…さて。……あ、ルームサービスがあるのか。
パーティーの話しを聞いて、途端に空腹になった俺はディナーの事を調べる。…すると、どうやらルームサービスを頼めるようなので早速予約を入れるのだったー。
○
ーそれから数時間後。コロニー内の巨体照明パネルも大分落とされ、地上の夜とほとんど変わらない様子になっていた。…そんな中、俺はルーム内で滅多に袖を通さない『正装』に着替えていた。
『ー失礼致します。ブライト様』
「どうぞ」
すると、こんな時間にも関わらずインターフォンが来客を告げる。…まあ、勿論俺は動揺せずに応答しドアに向かった。
「ーこんばんは、ブライト様。…先程振りですね」
そしてドアが開くと、そこには昼間俺を送迎してくれた『モーント』のメンバーがいた。
「ですね。…お忙しいところ、ありがとうございます」
「どういたしまして。…さあ、参りましょう」
「お願いします」
軽い挨拶を交わすと、彼の案内で再びエグゼクティブフロアに赴いた。
「ーこんばんは、『エージェント・プラトー』」
「やあ、先程振りだな」
「こんばんは、オーガス卿。シリウス卿」
数分後、フロアの玄関に着くと同じく礼装に身を包んだオーガス卿とシリウス卿が出迎えてくれた。
「では、後は頼んだぞ」
「お任せ下さい」
そして、案内してくれたメンバーを残し2人と共にリビングに入る。
「ーこんばんは、プラトーさん」
「夜分遅くに失礼致します、皇女殿下」
「フフ、お呼びしたのはこちらですから気にぬなさらないで。それに、恐らくこのタイミングでないと『こうした機会』は持てないでしょうから」
中には、先程面会した時の白を基調としたスーツとはまるで違う、華やかな白のドレスに身を包んだ殿下が居た。…まさに『帝国の至宝』だな。
「さあ、どうぞお掛けになって。
オリビアとシリウス卿も」
「失礼致します」
「「イエス、ユアハイネス」」
その高貴な姿に圧倒されていると、殿下は俺達に座るように言って来たのでソファーに座る。
「…本日は、『再度』お招き頂き有り難うございます」
「…いえ。
ーそれでは、『先程』お話したと思いますが『プレシャス』を連盟の全ての人々に知って貰う為に、まずは『貴方』の事を教えて下さい」
「イエス、ユアハイネス。
そうですね。まずは、『秘宝』を求める理由からお話しましょう。
…と言っても、そんな大層な理由ではないのですがね」
「…え?」
「「……」」
流石に意外だったのか、殿下も2人の騎士もぽかんとしてしまう。…けれど、なんとなく『がっかり』はされないと思ったので俺は『理由』を堂々と語った。
「ー…これが、私が『秘宝』を探す理由です」
「「………」」
そして、理由を話し終えると騎士達は更にぽかんとした。…一方、殿下はー。
「……もしも、『見つける事』が出来として『その後』はどうするおつもりなのですか?」
やや震えた声で、俺に問うて来た。…あれ、少し『興奮』なされている?
そのご尊顔は少し紅潮し、瞳はさっきの女史以上にキラキラと眩い輝きを放っていた。…一体、『何』を期待しているというのだろうか。
「…そうですね。
ー可能ならば、あまねく全ての人達に『それ』を見せたいです。…これは、あくまでも私の予想ですが誰かが『願い』を告げた瞬間『それ』は『消えてしまう』かも知れません。
そんなの、『ズルい』じゃないですか。だって、『秘宝』は、私達のみならず多くの人達を惹き付けて来たんですよ。
…なら、『その全て』を見せて上げたいと私は思います」
「……。…それでこそ、『プレシャス』の代表ですわ。…なんて、素晴らしい考えなのでしょうか。
2人は、どうですか?」
すると、殿下は非常に感心された様子で輝く笑顔を浮かべた。…そして、騎士2人にも感想を振る。
「…私も、殿下と同じ気持ちです」
「右に同じくです。…いやはや、参りました」
当然、2人も深く感心したような顔で殿下に同意した。…『がっかり』されないのは良かったが、なんか『好感度』が爆上がりしたな。
「…これならば、民衆も必ずや『プレシャス』を支持するでしょう。
…ちなみにですが、『初代殿』は貴方と同じ考えてだったのですか?」
殿下は、確信を得たような様子でそう言う。…すると、ふとそんな事を聞いてこられた。
「…どうですかね。
実は、私自身『初代』の事をあまり理解していないんですよ。…過ごした時間はあまりに短く、その記憶もおぼろげです。
『かの船』や、『サポーター』にも『自身の考え』を残してはいませんでした」
「…あ。…失礼致しました」
俺は困りながら答えると、殿下は何故か凄く申し訳なさそうに謝罪してくる。…別に、失礼な事ではないと思うのだが。
「…殿下、彼が困っていますよ。
まずは、きちんとご説明を」
「……。…っ。
…ええと、もしかしたら『寂しさ』や『残念』な気持ちがあるのかと思っていたのですが…」
すると、オーガス卿がアシストを入れてくれた。…その言葉を聞いて、殿下は恐る恐る聞いてくる。
「(…ああ、なんだ。)
…『寂しくない』と言えば嘘になりますが、幸いな事に『プレシャス』やいろいろな所に『初代』の事を知る人達が居ますからね。
彼らから、たくさん話しを聞けるので深く落ち込む事はないんですよ。
ーそれに、大事にしていた『かの船』を私に託してくれましたから。それだけで、私は充分です。
…それと、多分『そういう事』をログにしなかったのは『自分の意識で冒険をして欲しかった』…と考えています」
「…つまり、『思想』を押し付けたくはなかったという事かな?」
「…だと思いますよ。…まあ、あくまで『話し』を聞く限りですが」
「…あの、『この事』は公表しても良い事なのでしょうか?」
すると、ふと殿下はちょっと不安になった。多分、祖父ちゃんの事も少し『PR』に混ぜたいのだろう。
「…まあ、その辺りはブラウジス閣下としっかりと話し合いになったほうが宜しいでしょう」
「…ですね。
…まあ、どのみち宰相閣下とは道中ご一緒出来ますし。
ーそれでは、次の質問をさせて頂いても宜しいでしょうか?」
横でそれを聞いていたシリウス卿は、提案を出した。…まあ、それが一番だな。
そして、話題は次に移った。