ーSide『クルー』
「「ー……。……っ」」
まだ微睡みの中にいたアイーシャとアインだが、アラームが鳴った瞬間揃ってムクリと起き上がった。
「…おはようございます。アイン」
「…おはよう。姉さん。…今日も、大丈夫みたいだね」
互いに朝の挨拶をしていると、ふとアインはじっと姉の様子を見た。…そう、今は大分早い時間だがアイーシャは問題なく起きれていたのだ。
「…カノープスのクルーになってから、かなり健康的な生活をして来ましたからね」
「…本当、前までは考えられない生活だよね。
基本、航行中の食事はインスタントやファーストフードがメインで、お風呂もシャワーだったし、仕事中は夜更かしなんてしょっちゅうしてたらかね
…けど、一番の変化は『メンタル』に余裕が出た事だと思う」
「…ですね。……」
「…もしかして、『昨日』の事?」
姉妹は、今の環境のおかげで心身共に凄く健康になっていた。…けれど、逆に『余裕』が生まれたからか些細な事が気になってしまう。
「…ええ。
ーどうして、オリバーさんは殿下と親しげだったのでしょうね?」
「…姫殿下とお知り合いになるには、基本は『トラブル』だと思うけど。
今の帝国の治安で、そんな事はあり得ないし…」
2人は、お茶会が終わってからずっと『その事』について考えていた。…ちなみに、当人に聞くという選択肢は何故か取りたくない2人だった。
「…っ。そろそろ準備しましょう」
「…了解」
答えの出ない悩みにモヤモヤしていると、今度はアイーシャのデバイスからアラームが鳴った。…なので、2人は何とか気持ちを切り替えてベッドから降り身支度を整え始める。…そしてー。
「ーふう」
「…んしょっと」
2人は最後に身体を変化させ、久しぶりに自分達のトレーニングウェアに袖を通し仲良くルームを出た。
「ーあ、ランスターさん。おはようございます」
そして、エレベーターの前に着くと直後昨日知りあったばかりのアイリスがやって来た。
「おはようございます、フェンリー嬢」
「…おはようございます。…もしかして、フェンリーさんも朝トレを?」
挨拶をした彼女は、ランスター達と似たような格好だった。
「ええ。まあ、流石にキャプテン・ブライトや貴方達に比べれて軽めですが」
「…いやいや、毎日続けられているだけで充分素晴らしい事ですよ」
「…その通り」
アイリスはそう言うが、2人は彼女の姿勢を称賛する。…そうこうしている内にエレベーターが来たので3人は乗り込んだ。
「ー……?…あれ、どうして私が毎日やっているって……」
すると、ふとアイリスは2人の言葉に疑問を抱く。
「なに、非常に簡単な事ですよ。
ーフェンリー嬢が、『慣れてる』格好だからです。
頭には、日除けと髪をしまう意味で帽子も被ってますし、スポドリが入ってそうなウェストポーチも装備してます。
それになにより、ウェアも使い込んだ風合いがありますし…ちゃんと『目も起きて』ますから」
「…逆に、これで『やってない』って言われても絶対誰も信じないと思う」
その問いに、2人は自分達を指先しながら返した。
「…なるほど(…格好は誰でも分かる事だけど、ウェアの感じと様子まで見抜かれるとは…)」
『プロ』の洞察力に、当人は驚いた。…そんな時、ふとエレベーターは止まったー。
◯
「ーあ、おはようございます、アイーシャさん、イアンさん、フェンリー嬢(…これはまた、奇跡的な組み合わせだな……)」
エレベーターのドアが開くと、またもや3人が乗り合わせていたので内心ビックリしつつ挨拶をする。
「「「おはようございます」」」
そして、そのまま3人と共に下に向かう。…その最中、ふとフェンリー嬢の格好が気になった
「ー…あれ?ひょっとしてフェンリー嬢もジョギングですか?」
「はい。…まあ、流石にー」
「ーですから、そういうのはいいですって」
「…そうそう」
すると、フェンリー嬢はなんか卑下した事を言いそうになるがランスターの2人が遮った。
「(…なんか、いつの間にか仲良くなってるな)
…もしかして、『量と質』の話しですか?」
「そうです。…キャプテン・オリバーも、毎日続ける事が一番大事だと思いますよね」
またもや驚きつつ聞いてみると、アイーシャも確認して来たので頷いた。
「勿論ですよ。
ーちなみに、『プレシャス』のルールの1つには『原則、朝のトレーニングには必ず毎日参加する事』…というのがあります。
まあ、『ボス』や顔役のお三方やベテランメンバーは元々やっていましたが『我々ルーキー』や兼業ハンターの人達は慣れてない事もあって、最初は大変でした。
そう言う意味では、自然に毎日出来るのは凄い事なんですよ」
「……」
そう言うと、彼女はようやく称賛を受け入れたようだ。…その時、ほんの一瞬綻んだ笑顔を見せた。
『ーファーストフロアに到着シマシタ』
「ありがとうございます」
直後、エレベーターは止まりドアが開く。すると、降りる最中彼女は返礼の言葉を口にした。
「「「どういたしまして」」」
勿論、俺達も言葉をさらに返すのだったー。
ーそれから、アイーシャとフェンリーさんと30分。俺とイアンはがっつり1時間走り込み、ホテル近くのパークに入る。…するとー。
「ー…あら皆さん。おはようございます」
「おはようございます」
中には、クルーガー女史と2日振りに顔を合わせるオットー隊長とクルツ戦闘班長が居た。
「「…おはようございます、お姉様」」
「…おはようございます、マダム」
「(…意外な組み合わせだな。)おはようございます、女史。…ええと?」
まあ、ランスターの2人はちょっと意外そうな顔をするがフェンリーさんにとっては、ある意味今日初めて合うのだから緊張していた。
なので、俺は彼女のように『初対面』な感じを全面に出して聞く。
「…っ。おっと、これは失礼致しました。
私は、連盟防衛軍独立遊撃部隊第1分隊隊長のレンハイム少佐であります」
「同じく、戦闘班長のスターリン大尉であります」
その空気を察した隊長と戦闘班長は、即座にビシッと敬礼をし名乗る。
「…ふぇっ!?…第1遊撃部隊って、『あの人』の……。…あ、あの、私は、イデーヴェスから来ましたフェンリーと申します。
ー『あの時』は、本当にありがとうございましたっ!」
まあ、それを聞いてフェンリーさんはビックリしつつ名乗る。…そして、心の底から感謝の言葉を口にした。
「恐縮です」
「何、我々は職務を全うしただけですから」
2人はそう言うが、良く観察すると嬉しそうにしているのが分かった。
「…それにしても、まさか『あの』第1分隊の隊長殿達とお会い出来るとは思っていませんでした。
あ、私はー」
まあ、それを指摘するような野暮な事はせず自然な流れで『名乗る』。
「「…っ」」
すると、ランスター達も初対面を装い名乗った。…まあ、女史が居る事でちょっと目立って来ているので一応念の為だ。
「『初めまして』、キャプテン・オリバー。キャプテン・アイーシャ。イアン殿」
勿論、向こうも『察し』てくれた。そして、互いに握手を交わしていると軍人達のデバイスからアラームが鳴った。
「…おっと。せっかくお会い出来たのに恐縮ですが、これにて失礼致します」
「いえ、お気になさらず。
ー『短い間』ですが、どうか宜しくお願いします」
「「お願いします」」
「こちらこそ。
ー『プレシャス』若手のお手並み、期待していますよ。…それではマダム。お先に失礼します」
「失礼致します。じゃあ、また後で」
「ええ」
オットー隊長は…多分お世辞ではなく、本当に期待している雰囲気を纏いながらそう言った。勿論、クルツ隊長も。
そして、隊長と戦闘班長は先に集合場所に向かった。
「…凄く期待されてますね」
「…あはは。頑張らないとですね」
「…ですね」
「……」
2人の背中を見送っていると、ふとフェンリーさんが呟く。…俺達は、ちょっと苦笑いを浮かべた。
「大丈夫。貴方達の実力は、私が保証しますわ。
ーさて、少し休憩をしたら私達もホテルに戻りましょう」
『はい』
すると、女史はこれまた本心からそう言った。そして、俺達は近くの休憩スペースに向かうのだったー。