「ー……」
『それ』を見たクルーガー女史は、唖然としていた。
ー現在、俺と女史は出発前の空いた時間を利用し『ドラゴン』に来ていた。
そして、コクピットにて本来キャプテンシートが収まるスペースをお見せしているのただが…今はそこに、白銀に輝くシートとヒトの形をした『ナニカ』が居た。
「『これら』が『カノープスエージェンシー』。…要は、『代理運行システム』になります」
つまり『この2つ』こそが、『カノープスがドッキングしてなくても-動ける-』システムになるのだ。…いや、まさか『こんな形』になるとはな……。
正直な所、『こういうの』を求めた俺自身若干困惑していたが、なんとなく『理解』も出来た。何故ならー。
「ー…っ。…一体どうして、『このような』形になったのでしょうね?」
「…うーん。…これは、あくまで私の予想ですが……。
ー多分、『-ドラゴン-の意見』も反映されているからでしょう」
そんな時、ふと我に帰った女史がそんな事を聞いて来たので自分の予想を口にする。
「…やはり、『そういう話』でしたか……。…ですが、仮にそうなのだとしたら『納得』ですね」
すると、女史は心底納得したような顔になる。
「…だって、『これら』は『いつも通り』の光景に一番近い形ですから。『ドラゴン』や他の4つのサポーターも『ストレス』を感じないのでしょう」
「…私もそう思います」
女史の意見に同調した俺は、キャプテンシート…その上に座る『ナニカ』にそっと手を伸ばす。
『ー……』
すると、それに気付いたソイツはゆっくりとこちらに『顔』を向け俺と同じように『手』を伸ばして来た。…ちなみに、ソイツの眼にあたる部分は『オレンジ』になっていた。
ーつまりコイツは、言うなれば『ドラゴン』…『アドベンチャーアイ』の分身みたいな存在だという事だ。
「『はじめまして』…っていうのも何か変だから……。
ー…うん、ここは『いつもありがとう』だな」
俺はソイツの『手』を握り、日頃の感謝を口にする。…その『手』からは、『チルドレン』のように不思議な温かさを感じた。
『ー……』
すると、ソイツはまるで人のように『頭』を下げる。…『どういたしまして』って、事か。
いや、ホントに『ヒト』のように見えるな。
「…それじゃ、『道中』は頼んだぞ。…ああ、『通信』に関しては基本カノンとクローゼが受けるから、キミは『運転』と『警戒』に徹してくれ」
握手を終え、俺はソイツに改めてオーダーを出した。…すると、ソイツは『右手』を頭に近付け『敬礼』をした。
「…凄い。…多分、『貴方』の行動を学習しているのですね」
「でしょうね。いやはや、『頼り』になりますよ。
ーっと。女史、そろそろ行きましょうか」
女史と共に感心しつつ、キャプテンモニターに表示された時間を確認すると『集合時間』まで後1時間となっていた。
「分かりました。…えっと……」
すると、女史は分身に何か伝えようとして…ふと困った様子になった。
「…あ、そういえば『コードネーム』をまだ決めてませんでしたね。……。
ー良し、今日からキミは『エージェント・ドラゴン』だ」
『ー……』
コードネームを口にした直後、『エージェント・ドラゴン』は淡く発光した。…これは、『気に入った』という事だろうか?
「…なるほど。
エージェント・ドラゴンは『アドベンチャーアイ』の『代理人』にして貴方の『代理人』ですから、マッチしてますね。
ーそれでは、エージェント・ドラゴン。共に頑張りましょう」
そして女史も、そっとドラゴンに手を伸ばす。…勿論、ドラゴンはそっと握り返すのだったー。
○
『ー総員、傾注っ!』
それから、揃って集合場所となる星系防衛軍の軍港に船で向かいやがて時間となった。そして、通信で改めてスケジュールや注意点が告げられていき、最後に皇女殿下が挨拶する事となった。
『ごきげんよう、皆様。
私は、ルランセルト帝国第1皇女リーリエ=ラロア=バーンスタインです。
間も無く、-ナイヤチ-に向けて出発となります。護衛の方々にはご負担をおかけしますが、どうか宜しくお願い致します』
まず、殿下は『モーント』や俺達…それと、『専属護衛チーム』に向けた労いの言葉を掛けられた。
『そして、正規メンバー並びにボランティアスタッフの方々はどうかお力添え下さい』
次に、後援会のメンバーとボランティアスタッフに支援要請をお願いされる。…すると、殿下はおもむろに手前にあるタブレットを持ち上げ画面をこちらに向けた。
『…さて、皆様に1つお伝えしたい事があります。
それは、当後援会の-名称-です』
『ーっ!?』
その発言に、会場からはざわめきが起こった。…ああ、サプライズだコレ。
『-ラウンド・オブ・プレシャス-。
我々が支援する-プレシャス-…そして代表であるキャプテン・プラトーの理念は、今はまだ、私とごく一部の者が知るのみです。
私は、それを連盟の方々や…ゆくゆくはあまねく銀河の人々に語って行きたいと考えております。
…すなわち、-人の輪を広げて行く事-こそが私達の役割であり-理念-なのです。
故に、この名前を考え付きました』
『…っ』
殿下が語り終えると、少しして会場から拍手が沸き起こる。無論、代表を名乗らせて貰っている俺も心底感動しながら拍手していた。…いやはや、本当に有り難い事だ。あそこまでの考えを持っておられる方が、後援会のリーダーの役割を引き受けて下さるとは…。
『ーさあ、皆さんっ!
-ラウンド・オブ・プレシャス-の初の国外活動を、必ずや大勝利で終えましょうっ!』
『ーっ!イエス・ユアハイネスッ!』
最後に殿下は力強く宣言され、会場も力強く応えた。…さて、『お仕事』の時間だな。
『ー皇女殿下、誠に有り難うございました。
以上を持ちまして、出発式を終了致します。
宰相閣下、宜しくお願い致します。』
そして、それが終わると最後にブラウジス閣下が閉会の挨拶をして出発の式典は無事に終了する。
『ー護衛船第2陣各位に通達。間も無く、外遊船と民間船が出発する。
諸君らは、-直属の警護部隊-の後に続いて出航せよ』
「ー『カノープス・リスペクト』了解」
すると、モニターの映像は切り替わり通信兵の人が映し出された。俺は、そのオーダーに応答した。
そして、それからちょうど10分後。2隻の美しいフォルムの船が、軍港のゲスト専用レーンから出て来る様子が映された。
ーそのタイミングを見計らい、スラスターを起動させる。
『護衛船第1陣、出発。護衛船第2陣、スタンバイ』
その直後、通信が入り『第1護衛船団』…すなわち、『モーント』と『ドラゴン(偽装形態)』が出航を開始する。
そして、それから更に数分後ー。
『ー護衛船第2陣、出発』
その通信を聞いた俺は、操縦桿を前に倒し軍港から出発した。
『ー護衛船団、第2陣。指定された第1陣の船とリンクせよ』
すると、今度は第1陣の方から通信が飛んで来た。なので、俺達『プレシャス』メンバーは予め決められた船…『ドラゴン』とリンクする。
『ーリンク完了。全船、メインブースター起動』
そして、大規模船団は徐々にフォーメーションを保ったまま移動スピードを上げて行き、瞬く間に星系防衛軍本部から離れて行く。
『ー第1陣、超光速航行を開始せよッ!』
そして、十分なスピードに達したタイミングで第1陣の船はそれぞれ『リンク』している船と共にワープを開始した。
『ー外周領域、到達完了。
続いて、ハイパードライブを開始せよっ!』
すると、まずは外遊船と『モーント』の船が大型のハイパーレーンに突入する。
『ー次っ!』
その後に、ボランティアスタッフが乗る船、『ドラゴン』と俺達、護衛チームの順に飛び込んで行くのだったー。