『それでは、-イベント-を始める前にゲストの方達にご登壇頂きましょう。
ー皆様、どうぞ』
「ーお足元、ご注意下さい」
その合図で、俺達『プレシャス』メンバーは情報班の案内に従いステージ裏から表に出る。
『ーっ!?え、えっ!?』
『マ、マダム・クルーガーにランスターズ、キャプテン・ブライトは分かるけどー』
『ーま、まさかあの人が、プラトー三世っ!?』
まあ、当然『サプライズ』だったのか会場に集まる中心メンバーやボランティアスタッフ達は驚愕した。
…そんなどよめいた空気の中、俺達はステージ上にセッティングされたかなり立派な椅子に座った。…というか、コレ『ドラゴン』のやつだ……。
見た目は此処の備品にありそうなデザインだが、『座り心地』で気付いてしまう。…多分、こっそりと持ち込んだのだろう。
『ー只今より、-プレシャス朗読会-を始めます。
…まずは、私から挨拶をー』
2つ隣に座る『彼』の行動力に驚いていると、直ぐ近くでMCをしていた皇女殿下がステージ中央に向かう。…いや、待って。何で殿下がっ!?
「「「……」」」
驚愕する俺達をよそに、殿下は堂々とした姿勢でスピーチを始める。
『ー改めまして、本日はお集まり頂きありがとうございます。
…急にも関わらずこのような-イベント-に参加して頂き、誠に有難う御座います。
また、-プレシャス-をはじめとする護衛チームの方達にもこの場を借りて深く御礼申し上げます』
まず、殿下は参加者と俺達に心からの感謝を述べられ深くお辞儀をした。…当然、参加者達は慌てて深く頭を下げ俺達はスッと立って深くお辞儀を返した。
『…まずは、どうしてこのような機会を設けたのかをお話ししましょう。
ーそれは、ひとえに-プレシャス-…この場合はデータノベルの-原作-の方ですが、-それ-を容易に目にする事が叶わない方達が居るとの報告を受けたからです。
…勿論、この-ラウンド・オブ・プレシャス-に参加して頂く条件に-プレシャスを読んでいる否か-はありません。
ただ、出来れば今回の遠征PRをきっかけとして旅の途中やそれぞれの故郷に帰郷された後に読んで頂ければ…と、考えていました。
しかし、どうやら私は本当に-世間知らず-だったようです…』
殿下は、深く反省していた。…いや、本当に『真面目』な方だ。
『…ですから、私は必死に考えました。
ーどうすれば、後援会の中に-プレシャスの輪-を広げられるのかー。
そんな時、-原作ファンの方達-が-その方達-に原作を用意すべく動かれたと聞いて…何より、-より強いきっかけ-を、後援会のリーダーである私自身から与えていければと思い、今回の朗読会を思い付いたのです』
『……』
殿下の力強い意思に、会場は唖然としていた。…その時、俺は自然と拍手をしていた。
『ー…っ』
すると、ステージ上に居るメンバーと会場で警備している『同志』達も少し遅れて拍手をした。
『……っ!』
やがて、参加者全員にも伝播し会場は大きな拍手に包まれた。
『ーありがとうございます。
…どうか、最後までごゆっくりとお楽しみ下さい。
以上で、私からの挨拶を終わります』
殿下は、深くお辞儀をした後MCのポジションに戻られた。
『それでは、-メインイベント-へと移行させて頂きます。
ーキャプテン・プラトー、マダム・クルーガーは前へとお願い致します』
「「イエス・ユア・ハイネス」」
そして、殿下は俺と女史に合図を出した後再度ステージ中央に来られた。…そして、3人でステージ中央に立つ。
ー実は、今回の朗読会に際して殿下から『メイン』となる朗読を依頼されたのだ。
『…っ!?』
『…え、ウソ……』
『…ま、まさか、殿下とあの2人が朗読してくれるの?』
会場は再びどよめくが、俺と女史は特に緊張する事なく軽く口や喉の準備をしたりしていた。…というのも、俺と女史は『朗読経験』があるからだ。
まあ、あくまで俺は故郷の後輩達で女史は友人やクルー限定だが。…それを聞いた殿下が、是非にとお願いして来たのだ。
『ーそれでは、僭越ながら私から謹んで拝読させて頂きます』
まず、俺と女史の前に立つ殿下がそう言う。…当然だが、殿下も『かなり』の朗読経験がある。それも、俺達とは違って今回以上の『コミュニティ』の前で。…いや、本当に頼りなるなる『代表』だ。
『ー自分は一体-何者-なんだろうか?
目まぐるしい冒険の日々の中で、時折ふとそんな事を考える。…けれど、未だ答えは分からない。
理由は2つ。1つは、-記憶喪失-であるという事。…どうりで自分には、-子供の時-の記憶がない訳だ。単に、覚えていないだけかと思っていたが診察したドクターはそう判断した。
そして、2つ目。
ーそもそも真剣に、答えを出そうとしていないからかも知れない。…だって、今が-凄く面白い-から』
『ー……』
殿下が読み始めた瞬間、ざわざわしていた会場は一気に静寂に包まれた。…うわ、『主人公』の心情を伝えるのすげぇお上手だ。
最初は『ぼんやり』と語り始め、記憶喪失を語る際はまるで『他人事』のように話し…最後は、心底『楽しそう』にしているのがはっきりと分かる。…つまり、会場に居る参加者は一気に物語に引き込まれたのだ。
「「……」」
実際、幾度となく読み返して来た俺と女史でさえもう既に感動していた。
ーそれから少しして、殿下は自分のパートを終えられた。…そして、次に女史が読み始める。
『ーこの船…カノープス号との出逢いは、とても-面白い-体験だった。…あれは、確か自分がとあるトランスポートカンパニーに居た頃の話だ。
その日、自分は貴重な休暇を使い-あるモノ-を探していた。…それは、さっきも話した-秘宝への手掛かり-だ。
実は、カンパニーのボスが-酒飲み仲間-から飲み勝負の戦利品として-手掛かりの情報が入っているロストチップ-を得たのだが、ボスは胡散臭そうにしていた。
…なのでボスは、-欲しいヤツにやる-と言い出したので我先に挙手をした。ただ、他にも興味がありそうな連中がいたので厳正なる-クジ-の結果、自分がそれを得たのだ。
だから、自分は意気揚々と-手掛かり-に記された座標へと向かい…其処にある廃棄された小規模ドッグの中で、-新品同様-のこの船を見つけたのだ』
『ー……』
女史のパートは、『プレシャス』序盤で一番の盛り上がりを見せる『カノープス』との遭遇シーンだ。…勿論、参加者達は瞳を輝かせる。
どうやら、全員『なかなか見所』がありそうだ。
ーそんな事を考えている内に女史のパートも無事終わり…いよいよ、『俺』のパートだ。
『ーだから、俺は-やりたいように-生きる事を決めた。…その中で、自分が何者かを見つけられば良し。見つけられなければ、それも良し。
大事なのは、-どれだけ目標に近付ける-かだ。
ー…おっと、そろそろスイッチを切り替えないとな。
ぼんやりとしていたプラトーは、間も無く-仕事-が始まる時間なので意識を切り替えた。
今、彼は傭兵業をやりながら-秘宝-を探しているのだ。
ーはてさて、今日はどんな-面白い事-が待ち受けているのか?
彼は期待に胸を膨らませながら、クライアントが待つ場所へと向かうのだったー。
ー…ご清聴、ありがとうございました』
俺は、『初代』のその時の気持ちを代弁する。…そして、『第1話』の締めの文を読み上げ朗読を終えた。
『ー……っ』
聞いていた参加者達は、少しして我に帰り惜しみない拍手と歓声を上げてくれた。
『ーありがとうございます。
…それでは、以上を持ちまして朗読会を終了致します。
ですが、その前に皆様にお伝えしておきたい事があります。
実は、大変有難い事に我々の乗る船に-特設スペース-をご用意して頂く事となりました。もし、今回の朗読で興味を抱かれたのでしたらそちらでお読み出来ますし、-レンタル-も可能になっております。
是非、ご活用下さい』
『ーっ!?』
そして、最後に殿下はサラッとサプライズを告げ朗読会を終了した。…当然、参加者達は驚愕し会場はまたどよめくのだっだー。