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行動開始

 ーSide『イリーガル』



 ー刹那、ミーティングルームに鈍い音が響き渡る。…『サーシェスカンパニー』のプレジデントが、激しい怒りを持ってテーブルを叩いたのだ。

『………』

 当然、ミーティングに参加していた他の重役達は勿論…『緊急の報告』をした秘書も血の気が引いた。

 ーその怒りの原因は、先の『捕獲任務』の『正しい報告』を聞いてしまったからだ。

 …実は、トオムルヘの『ゲスト』達を捕獲しようとしていた例の幹部2名は捕まった際、『カンパニーには-作戦は成功しました-と-激しい抵抗に遭い帰還は遅れます-と伝えろ』…つまり、虚偽の報告をするように強制されていたのだ。

 勿論、向こうにとって『決して悪くない』条件を出したうえの『取引』だが…。…既に、『後がない』幹部2名はそれを呑んだ。

 ーではなぜ、『真実の報告』がこうして伝わってしまったのか。

「ー……ふぅ。…下がってよい」

「…っ、し、失礼致しました」

 ようやく怒りが『少し冷めた』プレジデントは、秘書に退室を命じる。…秘書は、ビクッとしながらお辞儀をしてミーティングルームを出て行った。

『ー……』

「…諸君、たった今『悪い知らせ』が届いた。

 ー同志ランガンと同志ノックスが、『プロジェクト』を失敗した」

 重役達が、ビクビクしながらプレジデントの言葉を待っていると当人は淡々と事実を語る。


『ーっ!?』

 それを聞いて、重役達は驚愕する。…何故なら、連中もついこの間『成功』したと報告をプレジデントから直接受けているからだ。

 …つまり、怒りの理由の1つは部下の前で過去最大の『恥』を掻かされた事だ。

「ー…つい先ほど、我がカンパニーの『メインAI』が同志達の報告を『虚偽』と判断した。

 つまり、『非常に残念な事』に『ゲスト達』は無事に保護されてしまった事になる」

『……』

 それを聞いて、重役達は納得する。…だが、その一方で疑問を抱いた。

「…諸君達の疑問も当然だ。

 ーどうやら、いつものように『忌々しいあの船』が関わっているようだ」

『……っ』

 すると、プレジデントはなんとか怒りが再燃するのを堪えながら詳細を語る。…当然、重役達も険しい表情をした。

「…『メインAI』によると、『ゲスト』達の片方がパインクトにて『あの男』と接触し救援を求めたようだ。…しかし、諸君も知っての通りその船には我々の息が掛かった者を送り込んでいたのだがー。

 ー…信じられない事に、その者は実に簡単に『裏切った』のだよ……」

 最後にプレジデントは、ドスの効いた低い声で語る。

 ー…すなわち、もう1つの怒りは『戻れるように慈悲を掛けてやったのに向こうが-蹴った-』事なのだ。


『……っ』

 そして重役達は、再びビクッとしてしまう。…中には、冷や汗をダラダラと流す者もいた。

「…その『裏切り者』によってもたらされた、『適当な報告』によって2人は容易く罠にはまり、そして『虚偽の報告』をしたのだ。

 ー…恐らく、既に重要なデータは『連盟』の上層部に伝わっている事だろう」

『………』

「…今は、『現政権』の信用が著しく低下している時だ。これ以上、信用が下がれば間違いなく彼らは私達を『捨てる』だろう。

 そうなれば、直ぐにでも連盟は…『あの男』を差し向けて来るだろうな。

 ーそれを防ぐ為には、早急に信用を…『我々が役立つ存在』だと現政権に再認識して貰うより他ない」

 プレジデントは、想定される『破滅の未来』を告げ…直後、打開を宣言する。

『……』

 勿論、重役達は揃って同意の意思を見せた。


「…よって、今より『反撃プロジェクト』を発令する。

 ーまず始めに、浮き足立つ『者達』に我々の怒りを叩き付ける」

『…おぉ』

 プレジデントは『恐ろしい言葉』を口に出した後、背後のモニターに『とあるニュース』を映し出した。…それを見て、重役達は『やるべき事』を察し驚きの声を漏らす。

「理解が早くてなりよりだ。

 …では、詳細な『プラン』を説明しようー」

 プレジデントは、黒い笑みを浮かべながら『身の毛もよだつプラン』を説明し始めるのだったー。



 ○



 ーSide『アーツ』



 ーその空間…ナイヤチのとあるエリア内にある伝統ある建物のメインスペースは、非常にピリピリとした空気に包まれていた。

「ー…なんたる事だ。…これで、『10件』目」

 その場に居る1人の高齢の…けれど、年齢を感じさせない屈強な肉体を持つ男性は『自分と同じ立場にいる人物』報告を聞いて、厳しい顔をする。

 ーつまり、今この場に集っているのはイヤチ発祥の『非殺傷アーツ』を先達から受け継いで来た各『アーツ』の家の、当主やら筆頭伝承者やらなのだ。

「…お恥ずかしい話です」

 報告を終えた人物…今回の『被害者』はトンファーアーツの門下生だったのだが、その家の当主は恥じた様子を見せながら、席に座る。

「…恥じる事はありません。…どうやら、今回『も』不意打ちだったようですし」

 しかし、別の人物…品のある婦人は首を振る。…婦人の言うように被害者達は皆、『夜間』に不意打ちされたのだ。

「…その通りだ。責めるのは、卑怯な手段を使った『犯人』だ」

『……』

 すると、議長の役割を持つ男性や他の参加者達も婦人に同意する。…当然ながら、全員の門下生や弟子も被害にあっていた。

「ー…しかし、『犯人』は何が目的なのだろうか?」

 そんな中、ふと小柄な男性…『プレシャス』の顔役の1人であり『ベアアーツ』の筆頭伝承者でもある、アーロン=マオは疑問を口にする。


「…それは、単に『我々の顔』に泥を塗る為ではないか?」

「…それにしては、『そういった話』は耳にしていない」

 議長はそう答えるが、彼は明確な理由を語り否定する。

「…確かに。襲撃されたのは、いずれも『指導資格』を持つ者やそれに準じる実力を持った者達です。

 それほどの実力者を、『卑怯な手段』で倒したのに言い触らさないのは…少し気になりますね」

「…うーむ……」

『……』

 すると、別の婦人が同意した。それを聞いて、議長や他の参加者達は頭を捻る。

「…まあ、そもそも『邪道』の考えなど『正道』の人間に理解出来る筈もないか……。…会議の腰を折ってしまって済まない」

 それを見て、マオはそう結論付けた後申し訳なさそうにした。

「いや、『対策』の意味では必要な事だと思う。…ただ、今は早急に解決しなければならない事がある」

 議長は首を振り、フォローを入れた。…その上で、『本題』に入る。

 ー直後、議長の背後にエアウィンドウが展開した。


「今日より3日後。此処『ファイターエリア』では、伝統のフェスティバルが開かれる。

 ーそして、同時進行でマオ殿が顔役を務められる『プレシャス』…その後援会である『ラウンド・オブ・プレシャス』が、『初めての遠征PR活動』も行われる予定だ。

 …伝統あるフェスティバルを成功させる事も勿論大事だが、『-2つの-プレシャス』に縁あるこの地でその名前を持った後援会の、『本格的な始まり』を後押しする事も我々に課せられた『使命』…いや、『恩返し』だ」

『……』

 議長の言葉に、参加者達は強く頷く。…それだけの『恩』を、昔に全員が受けているのだ。

「…その為には、『代理』を立てる必要がある。

 すなわち、『外』に居る門下生を頼るのだ。…本来、このフェスティバルは『中』の弟子や門下生をメインにして来たが今回に限っては、そうも言っていられない。

 ー皆は、どう思う?」

『異議なし』

『賛成だ』

 議長の問いに、参加者達は即答した。

「分かった。

 ーでは、以上で緊急当主ミーティングを終了する。

 なので、早速各自『ピックアップ』を始めてくれ」

『了解』

 それを受けて、議長はミーティングを終了しオーダーを出した。…直後、参加者達は一礼してからルームを出て行く。


「ーマオ殿、少し宜しいですか?」

 その流れにマオも乗ろうとしていると、議長が声を掛けてきた。

「どうされた?……もしや、『彼』の事か?」

「…ええ」

 彼は少し考えた後、確信を持って確認する。勿論、議長は頷いた。

「まあ、確かに『彼』なら『実力』は充分だろう。…それに、非常に『タイミング』が良い」

「…っ。という事は、『彼』…『オリバー』は此処に来るのですね?」

 彼がそう言うと、議長…『バトンアーツ』の当主はホッとした。

「ああ。元々、『プレシャス』の活動の一環でこちら来る予定ではあったが、例の『後援会』の道中護衛をクルーガーと共に引き受ける事になってな」

「そうでしたか。…しかし、『活動の一環』とは?」

「……。…聞いた事くらいはあると思うが、『ファインドポイント』の確認だ」

 引っ掛かりを覚えた議長が質問すると、彼は念のため周りを確認してから答える。

「…っ。…そうでしたか。

 …まあ、助かる事には変わりないですね。…すみません、ありがとうございました。

 後は、こちらで交渉します」

「ああ。…それでは、失礼する」

「ええ。

 ー…さてと」

 マオを見送ったバトンアーツの当主は、早速『行動』を開始するのだったー。

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