ー帝国を出発して、間も無く数日が経つ頃。『後援会』と俺達警護チームは、ナイヤチ『お隣』の星系の商業コロニーにて疲れを癒していた。
「ー……ふう」
まあ、今の所大した『トラブル』は発生していないので『身体』はさほど疲れてはいない。…けれど、『気になる存在』の影があるせいでどうにも気疲れしてしまう。
なので、今日俺は数日振りにコロニーのホテルのバスではなく『アッパーバス』にて精神的な疲れを癒し、リビングでゴロゴロしていた。
『ー………』
勿論、1人ではなく他のライトクルー達も一緒にのんびりと…いや、他のメンツはなんかちょっとウキウキしていた。
『ー……っ』
そんなささやかな幸福の時の中、通信コールがリビングに鳴り響いたのでライトクルー達はちょっと嫌そうな顔をした。
「ー……。
はい、こちら『アドベンチャーカノープス号』」
しかし、カノンは直ぐに表情と気持ちを切り替え通信に出る。…直後、リビングのモニターに『久しぶりに見る』人物が映し出された。
『ーこちらは、ナイヤチ-アーツ連盟-代表議会議長のダン=カーファイだ。…-久しぶりだな-、カノン嬢』
「ー…お久しぶりです、ダン老師」
勿論、カノンは心底懐かしむように返事をした。
『…そして、本当に久しぶりだな。
ー…うむ、どうやらきちんと-教え-は守っているようだ』
そして、老師は背筋を伸ばして座る俺を一瞥し『きちんと毎日鍛えている』事を褒めてくれた。…ホント、良くモニター越しで分かるよな。
『…おや?
ふむ、どうやら-初代-の時から随分と-正規の船員-が増えたようだ。…しかも、全員が-カノン嬢-並みに面白い-出自と来ている』
『ーっ!?』
次に、老師は周りに座るライトスタッフを見て…鋭い『カン』で彼女達の素性を察した。
当然、彼女達はぎょっとたり俺を見る。
「…ダン老師。いたずらに私のクルー達を驚かさないで下さい。
ー『カノン並み』の意味を、知らない筈はないでしょう?」
『…おおっと、すまない。…嬉しくなってつい。
ー安心しろ。-この船-に関する事は、元よりセメタリーまで持っていくと決めている』
こちらの言葉に、老師は申し訳なさそうにしながら『誓い』の言葉を話した。…まあ、要するにこの方も『お三方』達とかと同様に『カノープス』の事を知る1人なのだ。
「…だそうだ」
『……っ』
すると、ようやく彼女達はホッとしたようだ。…というか、何で急にー。
『ーおっと、本題を忘れる所だった…。
…実は、お前に折り入って-頼みたい事-があるのだ』
疑問を抱いていると、こちらの様子に気付いた老師は本題に入る。…そして、姿勢を正しそんな前置きを口にした。
「(…なんだろう。凄い明確に『嫌な予感』がする。けどー)
…何でしょうか?」
だが、初めて見る老師の『困った』様子に俺は気を引き締めて尋ねた。
『…お前も知っている通り、こちらの時間で3日後に-アーツフェスティバル-が開催される。
ーお前には、我が-カーファイ流-の代表としてフェスティバルに参加して貰いたい』
「…っ!(…ビンゴ。…でもー)
ー何やら、『相当なトラブル』が発生しているようですね?」
予想した通り、老師の頼み事はかなり『重大』だった。…そして、『外』の俺に代理を頼むという事は『本来の参加者達』に災いが振り掛かった…という事だ。
『…本当に、立派なエージェントになったな……。
…ああ、その通りだ』
すると、老師はため息混じりに褒めてくれた。…そして、こちらの予想を肯定する。
『…発端は、こちらの時間で昨日の夜からになるー』
それから老師は、詳しい事を話してくれた。
ー…最初の被害者は、『フェンアーツ(扇)』の家の生徒数人。
当時その人達は、トレーニングを終え真っ直ぐ寮に帰宅途中だった。…その途中、物陰から複数の『襲撃者』が現れたそうだ。
勿論、全員『指導資格』を持っている相当な手練れだった為そいつらは返り討ちになる…筈だったのだが、どういう訳か生徒さん達は徐々に劣勢に追い込まれてしまったのだ。
まあ、ピンチになる前に現地の地上警備隊が駆け付けた為大事には至らなかったが『敵』は撤退の際に、『グレネード』を生徒さん達に投げ付けた。…ただ、『ソレ』は爆発する事はなかったのだがその後に『トラブル』が発生した。
ー…どうやら、グレネードには『毒性ガス』が充満していたようでそれを吸い込んでしまった生徒さん達の『手』が、まるで『ストーン』のように固まってしまったのだ。
『ー…現在も、-最新の医術体系-と-ナイヤチ独自医術体系-を駆使して治療を続けているが、成果は芳しくない。
…どうやら、-敵-は-未知の毒-を使ったようなのだ』
「…そんな事が(…卑劣な奇襲に、未知の毒性ガス……。…そしてー)」
説明の最後になると、老師は心底参った顔していた。…一方、既に俺は『予想』を立て始めていた。
『……オリバーよ。もしや、-犯人-に心当たりがあるのか?』
すると、老師は真剣な様子で聞いて来る。…なので、俺は一応頷いた。
「…まだ確証はありませんが、恐らくは『我々の敵』でしょう。
ーすなわち、『サーシェスカンパニー』が関与している可能性があります」
『…っ!?…例の者達が?
…根拠を聞いても良いだろうか?』
「ええ。
1つは、襲撃の状況です。…『連中』が今までに関与して来た『襲撃事件』は、大抵夜間や早朝の人気のない時間帯に起こっています。しかも、地上警備隊が駆け付けた時に『敵』は迅速に撤退しました。
…『連中』は『そういう判断』が早いですからね。だから、『毒』に切り替えたのでしょう。
それに、話しを聞く限り『レプリカ』のパワードスーツに武装も持っているでしょうね」
『…なるほど。…確かに、手練れの門下生達が劣勢に追い込まれたのはそれが原因か』
「…そして2つ目。
『未知の毒性ガス』を所有していた点です。『連中』は、『副産物』由来の『レプリカ』をはじめ『危険な兵器』を大量に所有しています。…その中に、『未知の毒性ガス』があっても不思議ではありません。
そして、『致死性』の毒でないのは…『被害者に強い恨みがないから』でしょう。
ーもし、生徒さん達が『我々』に直接関係していたらもっと恐ろしい事態になっていたでしょう」
『…なっ……。…そこまでの……』
こちらの出した『最悪の想定』に、老師は冷や汗を流した。
「そして3つ目。
事件が起こったタイミングです。…どう考えても、『フェスティバル』に合わせているとしか思えません。
ー要するに、『連中』はフェスティバルを失敗させる事で『後援会』の今度の活動に支障をきたしたいんですよ。
…そうする事が、『連中』にとって『カウンターの少ない報復』になるんです」
『……。…それだけの為に、何の罪もない-家族-を襲ったと言うのか……。…そして、最悪-アーツ使いとしての人生-を奪う事に何の躊躇いも、無いと言うのか』
根拠を語り終えると、老師は静かに…そして明らかに怒りを抱いていた。
「…老師。お気持ちは痛いほど分かりますが、どうか落ち着いて下さい。
ーまずは、『代理』の件ですが謹んで引き受けさせて頂きます。
そして、どうか『事件』は『我々』におまかせ下さい」
『……。有難いが、大丈夫なのか?
ただでさえ、長時間拘束してしまう上に事件捜査となると-やりたい事-に割く時間が……』
すると、老師は怒りを静め…感謝と共に不安を口にした。
「ご心配には及びません。
ー何せ、『こういった状況』は初めてではないので」
『…分かった。ならば、何も言うまい。
ー本当に、有難う。…どうか宜しく頼む』
こちらが力強く返すと、老師は頭を下げた。
「ええ。
それでは、『上司』に報告をするので失礼致します。
ーあ、それと後で『スケジュール』を転送して頂けますか?」
『勿論だ。…では、失礼する』
そして、通信は切れたので俺はソファーから立ち上がりライトスタッフ達を見る。
「ーてな訳で、皆宜しく頼む」
『イエス・キャプテン!』
すると、既に彼女達はスイッチが入っていたので即答する。
「ありがとう。
ーそれじゃ、まずは『連絡タイム』だ。
カノンとクローゼは、閣下とシリウス卿達に。
アイーシャ達は女史に。俺は『サブクルー』達に」
『了解しました!』
「んじゃ、後は状況に合わせてオーダーを出すからいつでも動けるように」
『了解!』
「それじゃ、『ミッションスタート』だー」
そして、俺達は直ぐ『着替え』てリビングを後にしたのだったー。