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真紅の証

「ー失礼します」

「失礼しまーす…」

 その後、部屋に荷物を置いた俺は先輩の案内で三階の『練武場』に入った。

『ーセイヤッ!』

 直後、広大なルームの中に大勢の息の合った掛け声が轟く。…ふあ、やっぱ『本場』は違うなぁ~。

「ー…っ。そこまでっ!」

 圧倒されながらルームの脇を経由して奥に向かっていると、指導役と思われる女性がこちらに気付き目の前に並ぶ『先輩』達に声を掛けた。

「お疲れ様です、『師範代』」

「貴方もお疲れ様。…彼が?」

「ええ」

「…じゃあー」

 短いやり取りの後、指導役の女性は再度先輩達の方を向いた。

「ー皆さんっ!頼もしい『助っ人』が駆け付けて下さいましたっ!

 …さあ、自己紹介を」

 そんな『流星の如き』前フリの後、女性は俺に名乗るように言う。

「ー初めまして。私は、オリバー=ブライトと申します。『短い間』ですが、宜しくお願いします」

『宜しくお願いしますっ!』

 …正直、『プレッシャー』が凄かったがとりあえずいつものように丁寧な挨拶をする。

 直後、全員がしっかりと挨拶を返して来た。…一応、歓迎はされてるのかな?


「我々は、貴方を歓迎します。

 ー尚、『助っ人』は他にも来る予定です。…なので、『演舞』の練習は全員揃ってから改めて再開したいと思います」

『はいっ!』

「それでは、一旦休憩にしましょう」

『はいっ!』

 女性がそう言うと、先輩達は息の合った返事をしてルームから出て行く。

「ーさて。

 改めて、ようこそ『カーファイ流』バトンアーツ道場へ。

 私は、『指導役』のグラディスです」

「宜しくお願いします、グラディス師範代」

 女性…グラディス指導役は手を差し出して来たので、握手を交わしつつ『こちらの敬称』で呼ぶ。

「…っ。おわ、マジか」

「…驚きました。

 ー既に、『こちらの言語』をマスターしているのですのね」

「まあ、『いつか此処に来たい』と思ってましたから。…出来れば、『こんなにバタバタ』はしたくはなかったですが」

 すると、師範代と先輩はあからさまに驚いた。

 …そんなに『自然』に聞こえるのかな?自分的には、まだちょっと『自信を持って』話せない気がするんだが。


「…いや、マジでキミには『ゆっくり』と此処とか『武道祭』を見て欲しかったよ。

 …今回は、本当に宜しく頼む」

「勿論です」

 一方、先輩はちょっと申し訳なさそうにしながら改めて『協力』を頼んで来た。

「…私からも、お願いします。

 しかし、『これなら』スムーズに練習が行えますね」

「…ですね。

『連盟共通語』だと、ちょっと『ニュアンス』とかが伝えづらいですし…」

 …ああ、やっぱり『第1の課題』はそこだよな。他の代理の人は、大丈夫なのだろか?

「…となると、後は『二つ』ですね。

 ーえっと、老師から代理依頼をされた時に『服のサイズ』も用意するように言われていたと思いますが、大丈夫ですか?」

「あ、はいー」

 そう言われたので、俺はウォッチ端末を操作しメモアプリを起動する。

「ーでは、こちらの端末に送信をお願いします」

 すると、向こうは既に小型の端末を出していた。なので、速やかに送信する。

「…はい、確認しました。

 次はー」

「ー失礼致します」

 データを受け取った師範代は端末をポケットにしまい、何か言おうとした。…だが、それを遮るように威厳のある低い声がドアから聞こえて来た。


「…っ」

 入って来たのは、白髪の…筋骨隆々の老人だった。…その人物こそ、この『カーファイ流バトンアーツ道場』のトップであるダン=カーファイ老師だ。

「ー話しの途中に済まないな」

「…いえ、後は『最後の準備』だけですから」

「そうか。

 ーでは、『最後の準備』は私が引き継ごう」

「……っ」

 老師がそう言うと、少しして師範代はハッとした。……何だ?

「ーこうして、直接会う日が来るとは思わなかったぞ。

 良く来たな、我が『弟子』オリバー」

「自分も、同じ気持ちです」

 疑問に思っていると、老師は本当に嬉しそうに手を差し出して来たので一旦考えるのを止め、同意しつつ握手を交わす。

「ー失礼します」

 すると、さっき分かれた先輩が入って来た。…というか、先輩は長方形の箱を抱えていた。多分ー。

「ー…老師、もしかして前々から『用意』していたのですか?」

「ああ。

 いつの日か、オリバーが此処に来る日に備えてな。それに、きちんとした『師範代』昇任の祝いもしたかったのでな」

 師範代の問いに、老師はニコニコしながら説明する。…本当に、待ち望んでいたんだな。


「…本当に珍しいですね。

 老師が、此処まで1人の弟子を目に掛けられるのは」

「…確かに。…っと」

 ふと、師範代はそんな事を口にした。先輩もそれに同意しつつ、箱からバトンを取り出した。

 ーそれは、俺の髪の色と同じレッドカラーのバトンだった。

「まあ、彼の『祖父』には未だ返し切れていない『大恩』があるからな。…『彼』が早くに『星』になってしまったので、その孫に残りの分を返しているだけに過ぎんよ」

 バトンを先輩から受け取った老師は、心からの感謝を顔に浮かべながら理由を口にする。

 ー…やっぱりか。

「…初耳です。…ですが、納得しました」

「…そういえば、昔父が話してました。

 ーかつて、『バトンアーツ』を含めた全ての流派は『一人の旅人』によって『存続』の危機を脱したと」

「そうだ。…もしも『彼』がこの地に『導かれる事』がなければ、今頃我々は壮絶な人生を歩んでいた事だろう。

 ーおっと、話が逸れてしまったな」

 ふと、老師は話を途中で切り俺の前に立つ。

「さあ、これがオリバー専用のバトンだ。

 ーその名は、『紅天棍』。素材は、アイアンウッドをゆうに越える強度を持つ『シルヴァウッド』。その上に、『レッドウッド』から採れる樹脂…『クリムゾンローション』でコーティングしている。

 ちなみに、このローションは『魔除け』の意味がある」


「…うわ、マジで凄いバトンすね」

「…ええ。どれもナイヤチでは希少な素材ですね」

「……」

 老師が説明を終えると、師範代と先輩は少し唖然としていた。…当然、受け取る俺は言葉が出なかった。

「…さあ、受け取るがよい」

「…ありがとうございます」

 そして、老師は俺にバトンを差し出しので俺は深く頭を下げてそれを受け取る。

「…これでようやく、『半分』は返せただろう。」

 ー…そうだ。一つだけ、注意しておいて欲しい。

『彼』と『彼の行い』は、他言無用だ」

「「……?」」

 それが終わると、老師は師範代と先輩にそう言った。

 ーまあ、此処『橙の銀河』ナイヤチで『ドラゴン』が見つかりその上『助けられた』って事は、『そういう事』なんだろうな。

「…良いな?」

「…っ、わ、分かりました」

 2人は疑問に思っていたいたが、老師が少しだけ圧を掛けて念押しすると即座に了承した。


「…ところで、『代理』の者達は後どのくらいで集まるのだ?」

 それを見た老師は圧を消し、確認をする。

「…えっとー」

「ーどうした?」

 直後、老師の持つ端末がコールしたので当人は直ぐに出る。…うわ、何気に最新モデルだ。

『あ、老師。今宜しいですか?』

「ああ、問題ない」

『良かった。

 ー只今、最後の送迎担当が代理の方と合流しました。これより、道場へと戻るそうです』

 すると、通信相手は手短に報告をした。

「そうか。

 …とりあえずは、『大丈夫』だったようだな」

『はい。

 それでは、失礼します』

 それを聞いた老師は、少し安堵したようだった。…まあ、せっかく呼んだ代理も襲われたらシャレにならないからな。

 そして、通信は切れたので老師はこちらを向く。

「グラディス師範代。『代理』が全員集合したら、直ぐに『演舞』の指導を始めてくれ」

「はい」

「それと、お前は機材の準備だ」

「了解です」

「それでは、私は報告があるので失礼する」 「「お疲れ様でしたっ!」」

「っ、お疲れ様でしたっ!」

 そして、老師は師範代と先輩に指示を出した後練武場を後にした。…その際、2人が頭を下げたのでそれに倣って俺も頭を下げたー。


 …それから1時間後。練武場には、数10人にも及ぶ代理が集まるのだったー。

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