ーそして、時間はあっという間に流れ今日のトレーニングは終わりとなった。
「ーそれでは、明日は朝の9時より演舞の練習を再開します」
『はいっ!』
「それでは、解散っ!」
『お疲れ様でしたっ!』
最後に、師範代が明日のスケジュールを告げて解散を許可する。…それにしても、『代理』の人達は『馴染む』のが早いな。
俺と同じ『代理』…すなわち『外』の生徒達も、気付けば『内』の門下生達のように『アーツ道場流』の挨拶をしていた。
『ーはぁ、早くバスに入りたい…』
『確か、そろそろ準備が出来る頃だよね?』
そして、そんな彼ら彼女らは一刻も早くリフレッシュしたいようで足早に練武場から出て行った。
ー…なんと、とても有り難い事に寝場所だけでなく『バスやイート』等も道場サイドが準備してくれるようになったのだ。
まあ、『安全』を考えると当然かも知れないが。
「ーっ」
俺も人の波に乗って移動していると、ふとウォッチが振動する。…この『バイブパターン』、『ミッションモード』か。
『通信内容』を予想した俺は、一旦人の波から出て外に向かう。…とりあえずは、人気のない場所に行こう。
「ーおい、オリバー」
「…あ、老師」
そのまま外に出ようとすると、不意に背後から声を掛けられた。…どうやら、老師は一足先にバスを済ませたようで非常にリラックスしていた。
「ー…どうした?何か『焦っている』ようだが…」
だが、俺の心情を的確に見抜いた老師は直ぐに真剣な表情になる。
「(…いや、本当老師が『事情』を知っていてくれて良かった。)
…実は、『ボス』から連絡が来ているっぽいんですが」
「ーっ!…だったら、『落ち着ける場所』で話すと良かろう。
着いてこい」
「はい(有り難てぇ…)」
俺の言葉の真意を正確に読み取った老師は、そう言って道場の外に出た。なので、俺は心底感謝しながら後に続いた。
ーそして、敷地内を歩く事数分。一軒の建物に着いた。…すると、老師はインターフォンを操作する。
「ー私だ」
『あ、老師。どうかされましたか?』
「…『来る日が来た』」
『…っ!…遂にですか』
老師が『意味ありげな言葉』を言うと、対応している人は凄く感慨深い様子で返した。…あれ、ひょっとしてー。
「ー『例の部屋』は、問題無いな?」
『はい。
ー常に、清掃と-整備-をしておりますので』
「よろしい。
ーさ、入るぞ」
「…『ありがとうございます』、老師。
それから、『そちらの方達』も」
老師は『確認』した後、開いたドアから中に入ろうとする。…その際、俺は『礼』を述べた。
「…何、これも『恩返し』の内だ」
『ええ。…ですから、どうかご遠慮なさらず-あの部屋-を使って下さい』
「…分かりました」
だが、案の定老師や対応している人も揃って首を振る。…はあ、一体『初代殿』はどれだけの『事』をやってのけたのだろうか?
そんな事を考えながら、俺は老師の後に続いて建物に入った。
ーそれから、建物内部に居る人達…見るからに『ベテラン』の風格を漂わせる『先輩』達へ挨拶しながら奥に案内された。
「ー…っ。……」
そのルームは、建物…いや、道場全体の『伝統的な雰囲気』とは掛け離れていた。
何せ、ルーム内の床はフローリングで…『最新』の大型モニターやら通信装置が置かれていたのだ。
「ー…ところで、『返信』はしなくて良いのか?」
「…っ。…すみません、ちょっとあまりに凄かったんで」
唖然としていると、老師は目的を思い出させてくれた。
「フフフ。驚いてくれたようで何よりだ。
ー道場に居る間は、此処を使うと良いだろう。…ただ、その際は私か『この者達』に声を掛けるようにして欲しい」
正直な感想を告げると、老師は機嫌良く笑う。…そして、近くのデスクに置かれたタブレットを操作し『管理者』のフォトを出した。
「(まあ、『シークレットルーム』だから当然の注意だな。)
ー…分かりました」
「…相変わらず、『吸収』が早いな。
では、私はこれで。…それと、もし可能ならば後で『進捗』を聞かせて欲しい」
俺は、『管理者』達の顔を名前を直ぐにインプットする。…それを見た老師は、感心しつつそんな事を頼んで来た。
「此処までして頂いたのですから、当然『可能な限り』お伝えしますよ」
「…感謝するー」
そして、老師はルームから出て行った。それを見送った後通信を開始する。
『ーあ、レンハイムです。…すみません、お取り込み中でしたか?』
直後、オットー隊長がエアウィンドウに映る。…その表情からは、『緊張』とかが伝わって来ないので多分単なる報告だろう。
「いえ、ちょうど終わった所ですよ。
ーそれと、有り難い事に『この場所』を貸して頂けたので今後は此処でやり取りを行います」
『ーっ!?ほ、本当ですか?
…いや、そういえば-カーファイ流-は-初代殿-の……。
分かりました』
まあ、当然隊長はぎょっとする。しかし、『ファン』なので事情を直ぐに察して敬礼した。
『…それでは、本日の捜査報告を行わせて頂きます』
「お願いしますー」
そして、気を取り直して報告がなされた。
ー…とは言っても、初日で突き止めるられる訳もなく大した進展はなかった。
つまりは、兵器と人員の『潜伏場所』。それに、『協力者』の特定と『毒の正体』もだ。
…ただー。
『ー…それと、情報班から1つ報告を頼まれました。
…なんでも、-ネズミ達-が-落ち着かない-ようなのです』
「…そうですか(…『彼ら』もこの間の『副産物』によって強化したからな。…だから、『今までは気付けなかった何か』に反応したんだろう。)
ちなみに、『船』ではどういう判断を?」
『…今、確認作業の途中です。
恐らく、今夜には分かると言っていました』
「分かりました(…なんだろう?…うん、これは頭に留めておくべきだろう)」
『…とりあえず、捜査報告は以上です。
次に、-後援会-の状況です。
まあ、厳重な警備態勢が敷かれ綿密なスケジュールや準備をしているのですから、今の所大したトラブルは起きていません。
-今は皆様ホテルにて寛がれている-…とシリウス卿から報告がありましたし』
とりあえず、その情報を頭にインプットした。すると、隊長は『ゲスト達』の状況も報告してくれた。…多分、シリウス卿が気を回してくれたのだろう。
「わざわざありがとうございます。
…以上でしょうか?」
『ええ。
ーそれでは、本日はこれで失礼致します。
…それと、我々一同-フェスティバル-の成功を陰ながら祈っております。どうか、頑張って下さい』
「…ありがとうございます」
『ではー』
最後に、隊長は『遊撃部隊』を代表してエールを送ってくれた。…それを受けた俺は、感謝しつつ本当に『頑張ろう』と思うのだったー。
◯
ーSide『ランスター』
「「ー…う~ん」」
ナイヤチ初日の夜。ランスター姉妹は、クルーガーと同じホテルのルームの中で揃って頭を悩ませていた。…その原因は、イデーヴェスにてアイーシャが手にした『ファインドポイント』だった。
「…どうしますかねぇ~?」
「…マジで『チェックメイト』だね」
既に、ポイントの割り出しを終えた2人は『そこ』を見た瞬間からこんな様子だった。
ー何故なら、『そこ』は今何かと話題の『ファイターエリア』にあったのだ。
「…今、我らが『キャプテン』は忙しいでしょうしー」
「ー…それに、昼間探すって言っても間違いなくお姉様は『止める』だろうね」
「…でしょうね。…一応、『サポーター』と『対策グッズ』は用意して頂きましたが『連中』が絡んでいる以上、『不測の事態』は避けれないですから」
「…はあ、ホント迷惑。……ん?
ー………」
姉妹揃ってため息を吐いていると、アインの端末がコールする。…その瞬間、アインの顔は驚愕に染まった。
「……どうしました?」
妹のただならない様子に、姉も若干シリアスな顔になった。
「『知らないナンバー』だ…」
「……はい?」
そして、アインは驚愕の『理由』を語る。…それを聞いた姉は一瞬理解が追い付かなかった。
ーつまり、『ナンバーを交換してない相手』からの連絡が来たのだ。
「……っ、まさか、『この間』の?」
「…可能性大だね。
とりあえず、直ぐにキャプテンとお姉様にー」
しかし、アイーシャは直ぐに『相手』を想定する。それに同意したアインは、メールを開けずに相談しようとするが…直後再びメールが送信されて来た。
「ー…っ。これは…」
「…どうしました?」
『それ』を見たアインは、またもや目を見開く。そして、何も言わず姉に端末を近付けた。
「ー……嘘」
直後、姉はまたもや驚いた。
ーそのメールのタイトルは、『フェスティバルの-プレミアムチケット-』…となっていた。
…普通に考えれば、『怪しい』以外の何物でもないメールだが2人はとても削除する気にはなれなかった。
「…何はともあれ、報告と相談ですね」
「…うん。
キャプテンとお姉様今大丈夫かな?」
「…というか、彼とどうやって連絡をとりましょうか?」
「…じゃあ、『彼女達の誰か』にー」
『ー2人共、今大丈夫ですか?』
そんな事を話していると、インターフォンがコールしクルーガーの声が聞こえた。
「…(…ナイスタイミングですね。…まさかー)
ーどうぞ、お姉様」
『…失礼します』
なんとなく理由を察したアイーシャは、直ぐに応対し彼女を招く。…そして、ドアが開き彼女が入って来た。
「ー夜遅くにごめんなさいね。…実は、2人に確認したい事があって来ました」
まず、彼女は謝罪から入り…直ぐに本題に入った。
「…やっぱり、『アレ』の件ですか……。
ーアイン」
「…了解。
…お姉様、こちらを」
彼女はそれだけで確信を得て、アインにオーダーを出す。…勿論、彼女は以心伝心で察し自分の端末をクルーガーに渡した。
「…っ!…本当に『届いていた』とは……。
…それにしても、良い判断ですね」
直ぐにエアウィンドウを確認した彼女は、本当に驚いた表情をした。そして、彼女達が『メールを開けていない』のを見てその用心深さを称賛する。
「…あはは。その辺りは、お姉様のご指導のおかげですよ」
「…それで、どうしましょう?」
「…とりあえず、『彼』には私から伝えておきます。…アイン、念のため貴女の『通常』の端末を借りますよ」
「…分かりました」
「…はい」
クルーガーの言葉に、2人は直ぐに頷くのだったー。