ー翌日。午前のトレーニングが終わり昼休憩になったタイミングで、俺は素早く練武場を出てとあるルームに向かった。
「ー失礼します。ブライトです」
『入りなさい』
ノックをして声を掛ける、中から厳しい感じの壮年の声が聞こえた。
「失礼します。…こんにちは、ブラガ師範」
許可が出たので、俺はルームに入る。…中には、坊主頭の筋骨隆々の壮年がいて木製風のワークデクスでなにやら作業をしていた。
「…済まないが、今は手が離せないのでな。『鍵』はそこに置いてあるので、持っていきなさい。
それと、『使用』が終わったら鍵はラミアス師範の元に返却しなさい」
「分かりました(当番制なのかな?)。ありがとうございます。
…それと、お忙しいところ失礼しました」
師範は、手前のテーブルを指先した。すると、その上には『銀色』のカードキーが置いてあった。それと、師範は返却相手を指定した。
…俺は申し訳なく思いながら素早くそれを手に取り退室した。
ーそして、一応注意しながら『シークレットルーム』のある建物に向かう。
『ーどうぞ。既に準備は整っていますよ』
「失礼します(…いや、ホント助かるな)」
数分後。建物のインターフォンを押すと中の人がそう言った。…その対応の速さに感謝しつつ、中に入った。
「ーそれでは、私共はこれにて失礼致します」
「ありがとうございました。
…さてー」
それから少しして、対応した人はルームを退室しいよいよ通信を始める。
「ーこんにちは。
マダム、老師、大将」
『こんにちは、-ボス-』
『久しいな、プラトー』
『お久しぶりですね』
お3方とは、さほど時間が掛からすにコンタクトが取れた。…間違いなく、待ち望んでいたのだろう。
「…それでは、『ミーティング』を始めたいと思います。
ー最初の議題は、昨日お伝えした『参加希望者』の件です」
『…本気、なんですか?』
『…そもそも、何故だ?』
『…正直、私達は反対ですわ』
すると、予想通り早速お3方は難色を示す。…特に、女史は明確な否定を顔に出された。
「…そうですね、まずは老師の疑問からお答しましょう。
ー何故なら、『その方が後々面倒が少ない』からですよ」
『…何?』
「実は、このミーティングの前に女史とは『動機』を予想していたのですが…昨日『やり取り』をした結果、『正解』でした」
『…なっ』
『…やはり、-我々-へのアプローチだった訳ですか。…そうなると、-人物像-も予想通りでしたか?』
まあ、当然大将はぎょっとし女史はちょっと不穏な雰囲気を放つ。
「ええ。…まさに、『強い欲望』で動いているタイプですよ。
ーただ、『当人』は『もしも、貴方が必要としてくれるのなら私は-貴方達の為-だけにこのアビリティを使うとお約束します』とも言っていました」
『……なるほど』
『……』
『…その言葉を信じるのですか?』
老師は深刻な顔になり、大将は言葉が出て来なかった。…そして、女史は強い圧を纏って聞いて来る。
「…まあ、そこは実際に会ってみないとなんとも言えませんが。
ーただ、『否定』だけはしてはいけないと確信しています。…間違いなく、『暴走』するでしょうから」
『…なるほど。
だから、-後々面倒な事-…-厄介な敵-にしない為に受け入れるという訳か』
『…そこまで考えていたんですね』
『……。…ですが、-相手-は目的の為ならルールを破るような人物です。
いつか、-我々-や貴方の名誉に大きな-傷-を付ける行いをしてしまうリスクを考えると……』
老師や大将は納得するが、やっぱり女史だけは『更に先』を考えていた。
「…なら、『テスト』をしてみるのはどうでしょうか?」
だから、予め考えていた『判断方法』を口にした。
『…-入団試験-を?』
『…つまりは、-実力-と-人間性-をボスと我々で見る訳ですか。…でもー』
『ーっ!まさか、今回の事件に協力させるつもりなのですか?』
すると、女史は真っ先に『内容』を察した。
「そのまさかですよ。
…まあ、いささか不謹慎ではありますがね」
『…確かにな。
ー…しかし、何故お前は-その者-に協力を頼む事にしたのだ?』
『…っ』
『…是非とも、聞きたいですね』
すると、話は『理由』に移る。…だからー。
「ーこれはあくまで私の予想ですが、もしかすると今まで『私の情報を追い求めていた人物』と『この人物』は、同一人物なのかも知れません」
『…ほう』
『……』
『…つまりは、それだけの情報収集能力があるかも知れないという事ですか』
「…それもあります。
ーでも、一番の理由は『サーシェスに敵対心』を抱いるかもってところですよ」
『…っ』
『…そうか。ボスの功績を広める事は、-連中-の悪事を世に知らしめる事に繋がると思っているのか』
『…そして、それを恐れずに実行するのは-それだけの敵意-を持っているから。…そういう訳ですか。
ー確かに、-敵になる-と厄介な相手ですね』
そして、お3方は一斉に…互いに頷き合った。
「…では、採決をします。
ー『メンバー候補』の『テスト』をするか否かを」
『異議なし』
『賛成だ』
『右に同じく』
それを見た俺は、最終確認を取る。すると、お3方は満場一致で賛成した。
「ありがとうございます。
ーでは、『段取り』はこちらで詰めておきますね」
『…ああ』
『頼みました』
『…大丈夫なのですか?』
そう言うと、老師と大将は頷くが女史は少し心配そうな顔をした。…多分、スケジュールの事を言っているのだろ。
だから、俺は笑顔で首を振る。
「…大丈夫ですよ。
ー『ちょうど手が空いてるサポーター』が居ますから」
『…あ』
『…そうか。あの2人がいたな』
『…そういえば、彼女達にはチケットが送られていたんでしたね。
でもー』
「ー勿論、『ガードはしっかり』とさせますし…『現段階』で危険な事はさせませんよ。
単に、『繋ぎ』を頼むだけです」
『…それなら良いです』
より心配そうな顔になる女史に、俺はきちんと詳細を説明した。それを聞いた女史は、ホッとした様子になった。
「それでは、次の議題に移ります。
ー2つ目は、『事件』についてです。
まずは、『捜査状況』についてですが今朝の時点までで特に進展はありませんでした。
ただー」
『ーっ、何か気になる事があるのか?』
間違いなく、この中で一番の関係者である老師は凄まじい食い付きを見せた。
「…ええ。
実は、『ネズミ』達がかなり重要な事に気付いたようです」
『…というと?』
「ー『彼ら』は初日の『現場調査』の途中から、『未知の生命体』の反応をキャッチしました」
『…………は?』
『……え?…いや、確かー』
『ー…被害に遭われた方は、-未知の毒ガス-を吸い込んだのではなかったですか?』
俺は、昨日船から来た報告をそのまま伝える。…まあ、当然お3方は理解するのに時間を要した。
「…それはあくまで、現地の部隊が出した『仮定』です。
それに、『解毒』が難航する理由にもなります」
『…つまり、被害達に起こっている症状は-毒-によるものではないから解毒の効果が出ないというのか?』
「…私はそう考えています。
ーカーファイ老師から聞いた話だと、『襲撃者が投げたグレードは爆発せずにガスを噴出した』。
つまり、その時から我々は大きな勘違いをしていたんですよ」
『…確かに』
『…ですが、仮に-そうだった-とした場合どうやって-対策-をするのですか?』
「ご安心を。
既に、『ネズミ』達の記憶した情報を『イヌイ』達に共有していますし『それ』が近付けば、直ぐに警戒を出すようにもオーダーを出しています。
…それに、より多くの『データ』を回収するプランに加えて『試したい対策』も用意しています」
『…いつの間に』
『…相変わらずのスピードだな』
『…分かりました。そこまで準備を整えているのなら、私はこれ以上とやかく言いません』
「ありがとうございます。
後程、地上部隊が皆様のところに『イヌ』を連れて行きますので宜しくお願いします」
『分かった』
『助かります』
「あ、そうだ。
ー女史、1つ頼みたい事があるのですが…」
『何でしょう?』
最後に、女史に『とある事』を頼みミーティングは終了するのだったー。