「ーようこそお越し下さいました。…狭い所でずが、どうぞごゆっくりして下さい」
すると、外から見た通りの狭い間取りワンルームがありその中心に1人の人物が立っていた。
ーその人物は、中性的な容姿であり髪は銀灰色でブルーの縁のメガネを掛けていた。
そして、格好は空間に『ベストマッチ』したシンプルなモノだった。
(ー…なんというか、『普通』だ)
(…というか、『普通』のルームで『あんな事』を?)
それが、余計2人に疑問を抱かせる。…果たして、本当に目の前に居るこの人物が『ハッキング野郎』なのか考えるているとー。
「ーあ、どうぞお座り下さい」
ふと、ルームの主は落ち着くの香りのする床…その上に置かれたナイヤチデザインのクッションに腰を降ろし、2人にも座るように言って来た。
「(…そういえば、ナイヤチは元々『ザシキ』スタイルでしたね)
ー失礼します」
「…失礼します」
アイーシャはそんな事を思い出しつつ、イアンと共に一礼しクッションの上に座る。
「…あ、すみません。基本、『このアジト』は『寝る用』ですので、お茶とか置いてないんです」
すると、ルームの主は急に申し訳なさそうに謝って来た。…どうやら、『きちんともてなせない事』を気にする性格のようだ。
「…どうぞお構い無く。
ーしかし、『その口振り』だと他にも『アジト』があるのですか?」
だが、彼女も弟もそんな些細な事を気にするタイプではなかった。…これは、『経験』故だろう。
そして、姉はルームに入った時から気になっていた事を聞いてみる。
「…まあ、『連盟主要星系』を中心に数ヶ所程度ですが。
基本は、『船』が主な活動拠点になります」
「…なるほど。
おっと、そういえばまだお名前を聞いていませんでしたね。
ー初めまして。『プレシャス』所属シルバーランク傭兵のアイーシャ=ランスターです」
「…同じく、イアン=ランスターです」
ふと、姉弟は一応自己紹介をした。…昨日の『メール』には『ランスター姉弟へ』としかなかったが、多分目の前の人物は『全員』の容姿とフルネームを把握している事だろう。
「これはご丁寧に。
ー私は、ヒューバート=スミルノフ。一応、『情報屋』兼『秘宝ハンター』です」
「「……」」
すると、向こう…ヒューバートも身分を明かした。…その名乗りに、2人は気を引き締める。
「…とりあえず、本題に入るとしましょう。
宜しいですか?」
「…勿論です」
姉がそう言うと、彼は少し『楽しそう』に頷いた。
「……」
「…まずは、『こちら』を確認して下さい」
その様子に、2人は眉をピクリとさせる。…だから、姉はさっさと用事を済ませるべく『キー付き』バックからチップケースを取り出しテーブルの上に置く。
「お借りしますー」
彼はそれを取り、自分のタブレットにて『中身』を確認した。
「ーなるほど。『これ』が私に課せられた『テスト』ですか。
そして、『期限』は…。…ほう、なかなか『ハード』ですね」
数分後。確認を終えた彼は、また『楽しそう』にする。…そして、彼はチップケースごと彼女に返した。
「それでは、私達はこれにて失礼します」
「はい。
わざわざご足労いただきありがとうございました」
それをもって、2人は立ち上がる。…すると、彼は丁寧に見送って来た。
「「……ー」」
2人は、凄く複雑な気持ちを抱きながら一礼し彼のルームを出るのだったー。
◯
ーSide『マスターティーチャー』
ーナイヤチの日が傾き始めた頃。『ファイターエリア』の中心地…『アーツ』の道場があるブロックは、事件の影響か既に閑散としていた。
『ー近隣の皆様に知らせします。現在、-通り魔-が出没しておりますので夜間の外出はお控え下さい』
代わりに、街中には地上警備部隊の車両がアナウンスしながらパトロールしていた。…なのだが、一向に『成果』は出ていなかった。
「ー…やれやれ。此処も随分と、寂しい景色になったな」
そんな街の様子を、車の中から見たカーファイはふとそんな感想を口にする。
「…例年だと、この時期は街中が『お祭り騒ぎ』ですからね」
その呟きに、同乗していた『師範』の1人…ブラガもまた寂しそうに見ていた。
「…っ。…あら?」
そんな時、ふと助手席に座る女性師範…ラミアスは怪訝な声を出した。…どうやら、ドアウィンドウの向こうで『何か』を見たようだ。
「…ラミアス師範。どうされました?」
「…見間違いかも知れませが、『5人の若者』が旧市街の方へ向かって行きました」
「…っ。まさか、『その手』で捕らえるつもりか?」
「…かも知れんすね」
それを聞いたブラガや、ドライバーを務める門下生も冷や汗を流す。
「(ー…オリバーからは、『何も聞いていない』ぞ?…つまり、本当に『仇討ち』の可能性も……。)
ー彼らを止めるぞ。ラミアス、地上当局に連絡を」
一方、カーファイは内心困惑していた。しかし、直ぐに気持ちを切り替え素早い判断を下す。
『押忍っ!』
勿論、彼らに異はなく即座に『独自の返答』をした。…そして、門下生は車を一旦Uターンさせ『若者達』が向かった旧市街方面へ走らせた。
『ーはぁっ!』
『とぉうりゃっ!』
「…くっ、どうやら既に戦闘が始まったようですね」
数分後。旧市街に到着した彼らの耳に、戦闘の音が聞こえて来た。…ますます、彼らは焦る。
「ー老師。地上当局、間も無く到着します」
「分かった。
ー全員、『マスク』を」
そして、彼らはガスマスクを装着しそれぞれ愛用のロングバトンを手に持った。
『ー行くぞっ!』
『押忍っ!』
カーファイが掛け声を出した直後、彼らは素早く駆け出した。
「ー…っ!あれは…」
「…ロングバトン。…っ、『カーファイ流』だっ!」
それから数分と経たず、彼らは戦場に到着する。…一方、『援軍』の到着に若者達は安堵したりびっくりしたりしていた。
『ー気を抜くなっ!』
しかし、カーファイはそんな彼らに『渇』を入れる。…すると、案の定襲撃者達は迅速に『撤退行動』に移る。
『ーさせんっ!』
直後、ブラガは襲撃者に向かって突撃を開始した。…だが、連中はそれより『早く』至近距離から例のグレネードを若者達に向かって投げた。
『ーっ!?…バカな……』
次の瞬間、若者達と敵を『不気味な色』のガスが包み込んだ。…やむなくブラガは素早く足を止めつつ、連中の『スピード』に驚愕する。
『ー……』
『……おのれ』
やがて、ガスは霧散し状況が見えて来た。…だが、『予想通り』連中はピンピンしており若者達は地に片膝を着け『手を握りしめて』いた。
『ー地上警備部隊だっ!』
直後、現場にけたたましいサイレンと警告のアナウンスが響き渡る。そして、ものの数分で装甲車数台が現場を包囲し更に完全武装した地上警備部隊員が車両からぞろぞろ降りて来た。
『ーっ!無駄な抵抗はー』
『ー総員、スタンフラッシュ(対閃光対策)っ!』
すると、敵は素早く『グレネード』を上空に投げる。…それは、数秒後に眩い閃光を放った。
『ー……クソ』
『…何も、出来なかった……』
そして、閃光が収まった時には敵は忽然と姿を消していた。…それを見て、カーファイ流の面々は悔しそうにした。
『ーすみません。遅くなりました…』
それから少しして、現場責任者と思わしき隊員が申し訳なさそうに近付いて来た。
『…いや、そなた達のせいではない。
とりあえずは、彼らの事を頼めるだろうか?』
『…はい、お任せ下さい。
ーストレッチャーを頼むっ!』
『イエス・コマンダーッ!』
すると、誰かが応じさほど間を置かず5つのフロートストレッチャーを引き連れた隊員達が若者達の元にやって来た。
『…っと。申し訳ありませんが、少々聴取にご協力頂けないでしょうか?』
『…構わないが、大した事は話せないと思うぞ?』
そして、若者達が救急車両に運ばれて行くのを見届けているとふと責任者がそんな事を言う。…無論、カーファイ達は協力するつもりだがやや申し訳なさそうに言った。
『…今は、どんな些細な-情報-でも欲しいですからね』
『…そうか。
ーお前達も、構わないな?』
『はい』
カーファイは、後ろに控える同門達に確認する。…当然、彼らは頷いた。
『ご協力、感謝致します。
ーそれでは、-車両-までご案内致します』
責任者は頭を下げ、そして『車両』に向かって歩き出したので彼らはその後に続いたー。