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『朝』-驚愕-

 ーSide『マイスター』



『ーおはようございます、皆さん。遂にこの日がやって来ました』

 ナイヤチに到着した『後援会-ラウンド・オブ・プレシャス-』は、今日から本格的な『PR活動』を始める。

 …そんな日の朝、ボランティアスタッフ達はホテルのイベントホールにて『代表』の挨拶を拝聴していた。

『今日からいよいよ、-世界-に向けて-プレシャス-の存在と活動を発信してゆきます。

 まずは、此処ナイヤチにて成果を出しましょう』

『イエス・ユア・ハイネスッ!』

 皇女殿下の言葉に、彼らは帝国流のマナーで応じる。

『それでは、皆さん。会場でお会いしましょうー』

『ー以上で、皇女殿下からのご挨拶を終了します』

「ーはい!それでは、係の者の誘導に従ってバスに移動して下さい!」

 挨拶が終わると、係員…に扮した第1遊撃部隊の『現場担当』がボランティア達の誘導を開始する。

「ー…はぁ~、緊張して来たぁ~」

「…ですネ」

 そして、ほどなくし4列の整った行列が出来上がりゆっくりと前に進み始めた。…そんな時、アイリスの周囲に居る『イデーヴェス組』は既にガチガチになっていた。

「…そう気負う事はありませんよ。

 前々から聞いている通り、私達の役目は簡単な雑務ですから。

 それに、会場には優秀な『リーダー』が居ますからその方のオーダーに従って行動すれば大丈夫ですよ」

 なので、彼女は少しでもリラックスさせる為に事前に聞いている情報を口にする。

「…そうは言っても、『こういう機会』自体初めてだし……」

「…前に『スクール』でやっていた『雑務』とは、明らかにレベルが違い過ぎますよぉ……」

『…ホント、そうです』

 けれど、同級生達やリコリス達後輩の緊張は解けなかった。

「…まあ、確かにそうですね。

 ーけれど、ある程度肩の力を抜いておかないと『持ちません』よ?」

「…それは、分かってますが……。…ん?」

 アイリスは、やんわりと忠告をした。…そんな時、彼女達の前に居るロランは前方がやや騒がしい事に気付いた。

「どうされました?」

「…あ、いや。何だか、前方が騒がしー」

『ーおはようございますっ!『後援会』の皆さんっ!』

 直後、ロランの言葉を遮るように『デカい声』の挨拶がホールの外から聞こえて来た。


「ー…うわ、スンゴイ響く声ですネ」

「…っ!あ、『あの方達』は……」

 そして、イデーヴェス組もようやく『声の主達』を見る事が出来た。

 ーホールの外には、ナイヤチの意匠がふんだんに詰め込まれた『ドウギ』と呼ばれる服に身を包んだ『アーツ使い』達が、エレベーターホールまでの通路の左右にずらりと整列していたのだ。

『ー皆さんの活動の成功を祈っております!』

 彼らは、全く同じタイミングでボランティアスタッフ達にエールを送っていた。

「ー………(…嘘……)」

 その光景を見たアイリスは、驚愕する。…何故なら、『アーツ使い』達の手が『普通』になっていたからだ。

「…うわ、壮観ですねぇ」

「…凄いな……」

 勿論、事情を知らない他のイデーヴェス組はただただ圧倒されていた。

「…?どしたの?」

「……いや、まさかこうして『生の彼ら』を目にする日が来るとは思わなかったものですから」

 すると、同級生が彼女に声を掛ける。…彼女は、『ホント』に驚いた顔で正直な感想を口にした。

「…もしかして、『ファン』だったんですか?」

「…実は、彼らの着ている衣装の一部は此処の『支社』で手掛けているのですよ」

 後ろに居るリコリスが聞くと、彼女は『別の事実』を口にした。

「…へ?そうなんですか?」

「…ホント、『広い』よね」

 それを聞いたイデーヴェス組は、彼女とは違う意味で唖然とするのだったー。



 ◯



 ーSide『マスタークラス』



「ー…本当に、大丈夫なのですか?」

 ファイターエリアの中心地にある『フェスティバル』の会場は、ついさっきまで慌ただしかったのが嘘のように異様な静寂に包まれていた。

 …それもその筈だ。何故なら、つい先日まで手が『ストーン』のようになっていた各道場のアーツ使い達が揃って『元気な姿』で会場に来ていたのだから。

 故に、カーファイ以外の『事情』を知らないマスタークラスの面々は勿論の事、会場に居る関係者は驚愕していた。

「はい、『この通り』無事に快気しました」

 マスタークラスの婦人の問いに、その弟子である女性は笑顔で手を何度も握ったり開いたりした。

 勿論、その後ろに居たアーツ使い達も同じようにしていた。

「…良かった」

『……っ』

 すると、婦人は瞳を潤ませ心底安堵した。…そして、静寂の中僅かに涙ぐむ声も聞こえた。

「…ご心配をお掛けしました」

「良いのです」

「ーさあ、皆の者っ!準備を再開しようではないかっ!」

 女性が有り難さと申し訳なさを感じているのを見た婦人は、首を振る。

 そして、それを見ていた現場の指揮担当のカーファイは後ろを振り返り、全員にオーダーを出した。

『押忍っ!』

 すると、会場はまた慌ただしさを取り戻す。…ただし、先程までとは違い『熱気』が混じっていた。


「…さあ、お前達も『支度』をなさい。

 ー今回は、有り難い事に『各地に散らばる』門下生達が『演舞』を引き受けてくれているので、お前達は『親善試合』にのみ集中すれば良い」

『押忍っ』

 そして、今回の『主役』である門下生達は会場奥へと消えて行った。

「ー…カーファイ老師。少々、宜しいですか?」

『……』

 すると、そのタイミングで婦人をはじめ数名のマスタークラスの面々が真剣な表情で『代表』の元に集まって来た。

「ー…良かろう。諸君らには、『奇跡の真実』を知る権利がある。

 ついて来てくれ」

 …恐らく、マスタークラスの面々はカーファイだけ『驚いていない』事に気付いていたのだ。だから、当人は隠す事なく『答える』事にした。


 ーそして、彼らは会場奥の重役用ミーティングルームに場所を移した。

「…まずは、今日まで『彼ら』の事を伏せていて済まなかった」

 開口一番、謝罪をしたカーファイは深く頭を下げる。

「…やはり、代表殿はご存知だったのですね」

「…正確には、『調査をしていた者』と密に連携をしていたのだがな」

『ーっ!?』

 その言葉に、マスタークラスの面々は驚愕した。…すると、先程の婦人がふと挙手をする。

「…良いぞ」

「…あの、もしかしてですが『キャプテン・プラトー』殿が指揮を?」

『………』

「…その通りだ。

 ー…どうやら、『彼』は自ら動いてくれたようだ」

「…どうして……」

 ふと、誰かが不思議そうに呟く。…『その正体』を知らない者からすれば『善意の真意』は本当に不可思議だろう。

「ー…そういえば、『彼』はこう言っていたな。

『今回は-祭-の力をお借りして-宣伝活動-をさせていただくのです。その祭が失敗したら、まるで-我々のせい-ではないですか。

 なので、何が何でも事件を-解決-し祭も大成功させてみせますよ』…とな」

『………』

「…本当に、『後継者』なのですね。

 ー『そっくり』ですよ、本当に…」

『言い回し』に懐かしさを感じたマスタークラスの面々は、プラトーに深い感謝を抱いた。


「…それと、もう『2つ』ほど諸君らに伝えておかねばならぬ事がある。

 ー1つは、門下生達を襲った者達が使用した『危険物質』についてだ」

『…っ』

「…正体が分かったのですか?」

「…ああ。

 それも、『彼』の仲間が調べてくれたようだ。…実はなー」

 そして、カーファイは昨日聞いた情報を説明する。

「ー……なんと、そんな恐ろしい物が使われていたのですか」

「…けれど、それなら門下生達の症状も納得ですね」

「…カーファイ老師。…具体的な『治療法』はお聞きになったのですか?」

 彼らがそれぞれ率直な感想を口にするなか、婦人は最も気になっている事を聞いた。

『……』

「勿論だ。

 ーどうやら、『魔よけ』が効いたようだ」

『ーっ!?』

 カーファイの口から出た言葉に、再び面々は驚愕した。…まさか、『それ』のおかげで解決したとは思っていなかったのだろう。

「…つまり、『証』の武具や重要な建物に使われる塗装の原材料が効いた訳ですか。

 …でも、どうやって『数』を?」

「…済まないが、『用意した方法』は『機密』に抵触するようで教えては貰えなかった。

 ただ、『環境と伝統には配慮していますのでご安心を』…と言っていたな」

「……まさか、『一切-原材料-に手を付けず』に?」

「間違いないだろう。…本当に、『彼』は凄いな」

『……』

 カーファイの言葉に、マスタークラスの面々は無言で同意した。

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