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『朝』-告白-

 ーそれから数10分後。…最後のルームの中は、悲惨な状況だった。

『ー………』

 中に居た構成員は、ほとんどがプスプスと煙を放ちピクピクしながら地面に倒れていた。

『ー…おや、-頑丈-なのが居るみたいですね』

『ー……』

 そんな中、ふとクルーガーはまだ意識のある構成員に近いた。…すると、合同部隊全員が警戒態勢に入る。

『ー起きなさい』

「…っ」

 そして、その男の前に立った彼女は凄く冷たい声で命じる。…少しして、男はゆっくりと起き上がりその場に座り込んだ。

「…くそ、つくづく-チート-なスペックだな……」

『それは貴方達も同じでは?…まあ、-それ頼り-な貴方達とは違って我々は-自力-も鍛えていしが』

 うんざりとした男の言葉に、彼女は淡々と『違い』を述べる。

「…いい気になるなよ?

 ー『我々』は、タダでは『終わらない』ぞ」

 男は、低い声で警告を出した。…しかし、彼女は平然としていた。

『…つくづく、諦めの悪い連中ですね。

 ーまあ、-想定済み-なんですが』

『……?』

 すると、彼女はタブレットを取り出し…『ニュース』を起動する。…その時ちょうど、帝国国営放送で『特番』がやっていた。


『ーそれでは、現場に中継を繋いでみましょう!』

『ーはいっ!こんにちは!

 私は今、ナイヤチのファイターエリアの-シンボル-である-ビッグファイトドーム-前に来ていますっ!

 ここでは、今まさに-かの後援会-が初の海外PRの準備が行われています!』


 ーその内容は、『後援会』の準備風景だった。…故に、男は混乱する。

 すると、インタビュアーは『どこか』を見た。


『ーおや、あちらにスタッフの方が居ますね。ちょっと、インタビューをしてみたいと思います!』

 そして、インタビュアーはそのスタッフ…『ボランティアメンバー』の元に近付いた。

『ーこんにちは!帝国国営放送です!

 今、お時間宜しいですか?』

『…エ、ハ、ハイ……』

 すると、彼は『カタコト』で答えた。…そう、彼は遠方から来た『ハーフ』の1人…トクダだった。

『ありがとうございます。

 …それでは、ちょっと質問して行きますねー』

 インタビュアーはそう言って、まずは名前やら出身地やらを聞いていく。

『ーでは、最後の質問です。

 貴方はどうして、-ボランティアスタッフ-に応募したのですか?』

『…私ノ場合ハ、-イロイロ見テ回リタイ-トイウ単純ナ理由デス。

 …実ハ、私ノ祖父カラ各地ノ話シダケハ聞イテノデ』

『ほう?…ちなみに、お祖父様は-何をやられていた-方なんですか?』

『…驚カナイデ下サイネ。

 ー祖父ハ、今何カト話題ノ-サーシェス-ニ在籍シテイマシタ』


「ー………は?」

 彼の口から出た言葉に、男は唖然とする。…当然だ。そんな事を公共の電波で発言すれば、避難の嵐が発生する事は想像に難くない。


『ー…なんと。…お聞きになりましか、皆さん。

 今、このボランティアスタッフは自分が元サーシェスの身内だと言いました』

 すると、予想通りインタビュアーは『そこ』に食い付く。…しかし、その後思いもよらないコメントをしたー。

『ー…まさか、そんな方すらも-採用-するとは。

 本当に、-後援会-はその名前の通り銀河に-輪-を広げていきたいのでしょうね』

『…ダト思イマス。…ソレニ、-サーシェス-ト言イマシタガ祖父ハ-脅迫サレタ-ト言ッテイマシタ』

『…なんと、なんと。また、-悪い噂-が出てきましたね。

 ーおっと、話しがコースアウトしてしまいしたね』

 インタビュアーは、少しだけ『沈痛な顔』をした後話しを打ち切る。

「ー……ば、馬鹿な。…何故、だ……」

『貴方達には、一生分からないでしょうね。

 ー我らが皇女殿下の偉大な御心は』

『…まあ、つまりだ。

 キサマ等の-脅迫ネタ-は、たった今-無価値-な物になった訳だ』

「…あ」

 クルーガーは、深い敬愛をもって語る。…そして、この地の生まれのマオははっきりと『勝利宣言』をした。…その瞬間、男はガックリと崩れる。


 ー…つまり、『片棒を担がれていた政府関係者』は『このネタ』で脅迫されていたのだ。

 …かつて、『カンパニー』に侵略され掛けたこの星系において『その名』は最大のタブーとなっていた。

 だから、政府関係者は『黙って』いたのだ。…もし暴露でもされたら、家族を巻き添えにして悲惨な人生を歩む事になると思っていたから。

『ーア、スミマセン。ソロソロ、行カイト』

 だが、画面に映る青年はあっさりと『告白』した。

『はい、インタビューにご協力いただきありがとうございます。…さて、彼が言っていたように間も無く-PR活動-が始まります。

 それでは、一旦スタジオにお返ししますー』

 青年を見送ったインタビュアーは、お決まりのフレーズで締めた。…すると、画面は再びスタジオ映像に切り替わった。

「ー………」

「…ああ、それと『もう1つ』。

 ー『最後の切り札』も必ずや無効にしてみせよう」

 目の前で起きた事が未だに信じられない男に、マオは駄目押しとばかりに、『勝利予告』をした。

「……っ。…まさか、『お前』は……いや、『お前ら』は……」

「…なんだ、気付いていなかったのか?」

「これは、『傑作』だ…」

「…随分と、『お馬鹿』さんなのですねぇ」

 そこで、男はようやく『3人』の正体に気付いた。…それを見た3人は、明らかな呆れを露にするのだったー。



 ○



 ー…ふう、今の所は『大丈夫』かな?

 俺は、モニターを見ながら周囲の様子を伺う。…先ほど、例のトクダ青年のインタビューが流れたのだが周囲に居るボランティアスタッフ達は少々ざわざわしていた。

 …一方、『ナイヤチサイド』の方達は凄く複雑そうにしていた。だが、少なくとも彼に対して『悪い感情』を向けていない事はなんとなく分かる。

 まあ、『孫』を『カラーグラス』で見るという愚行を此処の人達…特に『アーツファイター』達がする筈はないと確信しているが。…っと。

 そんな事を考えている内に、『予鈴』が会場内に鳴り響いた。

 なので俺は、その場を後にして『スタッフエリア』に向かった。

「ーこんにちは。…えっと、『オリバー選手』ですよね?」

 当然、そこに向かう途中には会場スタッフが居るのだが名乗る前に向こうから確認して来た。

「ええ。…あ、これスタッフ証です」

 とりあえず俺は頷き、IDカード代わりのスタッフ証を出した。

「はい、ありがとうございます。

 ー確認完了です。どうぞ、お通り下さい」

 スタッフは、読み取り機をスタッフ証に当てる。そして、俺は何事もなくスタッフエリアの中…『カーファイコミュニティー』の元に向かった。


「ー…おお。良く似合っているではないか」

 すると、俺に気付いた老師は開口一番出で立ちを口にする。…まあ、今俺は『カーファイ流バトンアーツ』の正装…白を基調とした上着に黒のゆったりとした長ズボンという格好だった。

 確か、『ドウギ』と呼ばれる衣装だっただろうか。

「…ええ。本当に」

「ありがとうございます。…あ、すみません遅くなってしまって」

「気にするな。着るのに不慣れなのだし、『例のニュース』も見ていたのだから仕方ない」

 どうやら、特番をちょっと見ていたせいで俺が最後だったようだ。だが、全ての事情を見透かしていた老師から特にお小言はなかった。

「…さて、皆も集まったようだしこれから『大切』な話をしたいと思う」

『……っ』

 直後、老師は真剣な表情になった。当然、参加する面々は緊張する。

「まずは、『事件の話』だ。…実は、先程地元当局から連絡があった。

 ー『事件の犯人』は無事に捕縛されたようだ」

『…っ!?』

「…だが、喜ぶのはまだ早い。

 当局曰く、『-かつての災厄-がまた放たれる可能性がある。出来れば、それを-止める-為助力して欲しい』と」

『……え?』

 喜びを浮かべたのもつかの間、今度は唖然としてしまう彼ら。…まあ、無理もない。


「…さて、『我が門下生』達よ。

 そなた達は、『手伝ってくれる』か?」

『勿論です!』

『……』

 その問いに、『現地組』は即答し『代理組』は戸惑った。…だから、俺はそこで口を開く。

「勿論、手伝わせて頂きます。…というか、多『その時』は『プレシャス』として動きますので、私だけ別行動になりますが」

「…ああ、構わない」

『………』

「…それに、いつか『胸を張って-秘宝-』にたどり着く為にもこの地の…この地に住む人達の危機を見過ごす訳にはいかないですし。…何より、私は『自分の未来』は他人に委ねるのあんまり好きじゃないんで」

『…っ。……』

 俺の言葉を聞いた『代理組』はハッとし、それぞれ顔を見合せる。…そして、互いに頷きあった。

「ー…私も、微力ながらお手伝いしますっ!」

『私もです!』

『じ、自分もです!』

 最初に、誰かが決意を表明しそれから次々と声が上がる。

「…ありがとう。そなた達の勇気に感謝する。

 ーおっと、ちょうど良い時間だな」

 老師は『代理組』に深く感謝をした。…そうこうしている内に『PR活躍』の始まりを告げるベルが鳴った。



 ーこの時、俺は直ぐにステージに意識を向けたから『気付いて』いなかった。…他の『アーツ道場』の『代理組』の様子にも、ましてや『俺に向けられた-アツい視線-』なんかには。

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