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『昼』-依頼-

 ーSide『マスタークラス』



『ーハァッ!』

 モニターでは、『代理組』達がナイヤチ独自の音楽に乗せロングバトンを前につきだしていた。

「…いや、この短い期間で良くぞここまで揃いましたね」

 グラディスは、それを見て感心したように呟く。

「…最初は、少し不安だったが翌日から急速に『呼吸』が合って来たように思います。

 ー恐らく、『彼』がいなければこんなにも素晴らしい形にはならなかったでしょう」

 ブラガもまた、同様の感想を口にした。…そして、『立役者』であるオリバーの事に触れた。


 ー実際、マスタークラス2人の言うように『代理組』の『呼吸』…要するに『タイミング』はまるで合わなかった。

 しかし、それは無理もない事だ。何故なら、彼らはその日初めて顔を合わせたのだから。

 …けれど、『演舞』のトレーニング2日目の途中から急速に『呼吸』が合って来た。

 そして、その裏にはオリバーの『提案』があった。

『ー電脳空間でトレーニングした方が、良いんじゃないでしょうか?』…というのも、彼を含めた『外』のメンバーは大半が『バーチャルシステム』でトレーニングをしてきたのだ。

 だから、彼は『慣れている方』でやった方が良いのではないかという事で提案をしたのだ。それに、『より精密』にトレーニングする意味でもバーチャル空間は有効だった。

 だから、初日の途中から簡易バーチャルシステムを織り交ぜながらやる事にしたのだ。その結果、2日目の午後の時点でほぼ問題の状態に仕上がっていた。

 そして、たった今観客から万雷の拍手と歓声を受けるほどの素晴らしい演舞を披露出来たのだ。…ちなみに、他の道場も同じトレーニングをしたので全体的にかなりレベルの高い『出し物』になっていた。


「ー…本当に、どれだけの『恩』を加算していくつもりなのだろうか」

 カーファイは、心底感謝しながら呟く。…未だ『初代』からの『大恩』を返し切れていないのに、『三代目』はどんどん『恩』を増やしていくのだ。恐らく、カーファイを含めた今の『長老達』達が生きている内には返せないだろう。

 それが、カーファイの唯一の心残りだった。

「…ですね。…いっそのこと、誰か有望な若手を彼の『乗組員』として派遣するのはどうでしょうか?」

 すると、グラディスは割りと真剣な雰囲気でそんな提案をした。

「…なるほど。…ただ、余程の実力がある者でないと足を引っ張りかねないな。

 …おや?」

 ブラガは、腕を組み懸念を上げる。…そんなタイミングで、ルームに備え付けの端末が鳴ったので彼は直ぐに出た。

『ーこんにちは、カーファイの方々』

『こんにちは』

 すると、品のある婦人と若い女性がモニターに映し出された。

「こんにちは、『クロフォード』の方々。…どうされました?」

『…実は、折り入ってお願いしたい事があるのです。

 ーこの後予定されている-見合い-に、どうか-ブライト殿-を参加させては頂けませんか?』「「………」」

「…訳を聞かせてくれぬか?」

 唐突なお願いに、師範達は唖然としてしまう。…しかし、代表であるカーファイは冷静に疑問を口にした。


『…それは、こちらのミリアムからご説明致します』

『はい』

 すると、向こうの当主は後ろに控える若い女性…ミリアムを見る。そして、彼女は素早く前に出た。

『理由は、とても単純です。

 私は…ー』

 彼女は、本当に『シンプル』な理由を語った。…それを聞いた3人は『なるほど』というリアクションをした。

「ーやれやれ、我が弟子は『人気者』だな。

 …私としては、異はない」

『…っ!本当ですか?』

「しかしながら、彼は今回無理を言って来て貰っているし『何かと』忙しい身だ。故に、彼への交渉に私は協力は出来ない。

 …交渉は、君だけで行え」

『ええ、勿論です。…交渉の許可を出していただき誠に有り難う御座います。

 …ちなみに、今彼はどちらに?』

 カーファイの言葉をある程度予想していたのか、彼女は素直に頷き深い感謝を示した。

 そして、早速動き出そうとする。

「確か、『同盟』を結んでいる者達と昼餉(ランチ)に出掛けた筈だ」

『…あら、そうですか。

 せっかくならば、共に卓を囲みたかったですが。…ならば、戻って来てからにしましょう』

 しかし、タイミングが合わなかった。…なので、彼女は決意新たにそう呟くのだったー。



 ○



「ー…はあ、ウマかったなぁ」

「…うん、流石は『本場』は違うね」

「…デザートも、素晴らしかったです」

『代理』の役割も無事に終わり、俺とランスター達は本場の『ナイヤチグルメ』を堪能した。

 俺は、伝統の『ヌードル』である『ラーメン』を。イアンは、『トーフ』を使った『マーボードウフ』。

 アイーシャは、俺達の料理を小分けにして貰って食べた後に『トーフ』であるが『トーフ』でない、『アンニンドウフ』を堪能していた。

「…それにしても、此処も結構『雰囲気』がありますね」

 3人でのんびりと歩いていると、ふとアイーシャは街並みに触れる。

「まあ、この『ファイターエリア』はセントラルと違って『古代文明』の街並みを忠実に再現してるからな」

「なるほど」

「…詳しいんだね」

「いつか、来ようと思ってたから下調べはバッチリしてたんだ。

 …ホントはいろいろ、『ゆっくり』と見たかったんだがな」

 姉は納得し、弟はふと疑問を抱いた。なので、理由を答えて…ちょっと憂鬱になる。


「それは、私達もですよ。…まあ、『アレ(ファインドポイント)』は良いとして『もう1個』は……」

「…だよねぇ」

 2人も同意し、俺達は揃ってため息を吐いた。…そうこうしている内に、フードブロックを出て会場のあるブロックに戻って来た。

「ー…あ、こんにちは」

 そして会場前の広場に着くと…ついさっき『プレシャス』の『見習い』になった、銀灰の髪の中性的な容姿をしたヒューバート=スミルノフがこちらに近いて来た。

「初めまして、自分はー」

「ー知ってるよ。…『イロイロ規格外な情報屋』のヒューバート=スミルノフだろ?」

 彼は、初対面の俺に名乗ろうとするがこっちはちょっと『トゲ』のある言い方で被せる。…正直、まだ『馴れ合う』つもりはないからな。

「…あはは、既にご存知でしたか。

 まあ、一応宜しくお願いします。オリバー=ブライト『先輩』」

 すると、彼は少し苦笑いをしながら『敬称付きでこっちのフルネーム』を告げ深く頭下げた。

「(…見た感じ、『タメ(同輩)』だとおもうんだがな。)…ああ、『一応』宜しくな」

 なんとなく、予想を立てながら『一応』返答した。…流石に、向こうの礼節を無視する訳にはいなかった。


「…じゃあ、俺は『スタッフシート』で見るからまた後で」

「はい」

「…うん」

「ええ」

 とりあえず、俺達は会場前で分かれてランスター達はそのままメインロビーに。俺はまた、スタッフエリアに向かう。

「ーああ、居た居たっ!おーい、オリバーッ!」

 そして、再チェックを済ませスタッフエリアに入るとふと先輩が声を掛けて来た。…ん?誰だ?

 その後ろには、艶のあるミルキーブロンドをウルフカットにした凛とした雰囲気の女性が居た。

「こんにちは、先輩。…えっと、そちらの方は?」

「ー初めまして、オリバー=ブライトさん。

 私は、『クロフォード流フェンアーツ』所属のミリアム=リーベルトと申します。

 どうぞ、宜しくお願いします」

「あ、どうも(…つーか、なかなかの長身だな)」

 こちらが聞くと、彼女…リーベルトさんは名乗り丁寧な所作でお辞儀をしてきた。…俺は、きちんとした所作で返しつつこちらの肩ほどある長身に若干驚いていた。

「ーあ、リーベルト『姉さん』。今、『場所』が取れましたよ」

 すると、先輩は明らか同年代の彼女に敬語を使い何やら報告をした。…良く分からないが、なんとなく『イヤーな予感』がした。

「ありがとうございます。…すみません、お手数ですが『ちょっと』移動しましょうか」

「…あ、はいー」

 ーそんなこんなで、あれよあれよという間に俺は小さなミーティングルームに連れてこられた。

「ーさて、時間もあまりないので単刀直入に申します。

 どうか、この後に行われる-見合い-参加していただけませんか?」

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