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『昼』-見合い-

「(…はい、『予感』的中~……。…はあ、なんか最近『格上』に目を付けられやすいなぁー)

 ー…分かりました」

 彼女の言葉に、俺はちょっと自分の予想力が嫌になりながら『即答』した。

「……理由はお聞きにならないのですか?」

 すると、逆に彼女はちょっと困惑する。…それに対し俺はー。

「ーいや、『アーツ』…『武術に携わる人』がわざわざこうして『手合わせ』を願い出たって事は『その人を識る』為でしょう?」

「…っ。…やっぱり、貴方は不思議な人だ」

 的を得た言葉に、彼女は心底興味津々と言った顔をした。

「…実は、先程舞台裏で貴方の『激』を聞いていたのですよ。

 事実、あの場でそれを聞いた代理の方々は目に見えて『覚悟』を決めていました。…だから、気になったんです。

 ーどうして、そんなにも『強く』振る舞えるのかを」

「(…あー、これはもう『身バレ』秒読みだなぁ。)

 …なるほど。…っ」


「オリバーさん。お返事、ありがとうございました。

 ーそれでは、『明日』は宜しくお願いします」

 話が纏まったところで、彼女は立ち上がりしなやかなで…それでいて『力強い』手を差し出して来た。

「…こちらこそ、宜しくお願いします(…うわ、『見た目どおり』だな…)」

 俺も立ち上がり、そっと握り返す。…その手からは、凄い『鍛練の積み重ね』が伝わって来た。

「…それでは、戻るとしましょう。

 お先にどうぞ」

「あ、はい。失礼します」

 そして手を離し、彼女は『代理』の俺に気を使ってくれた。…やっぱ、『目上』な上に『若手の纏め役』っぽいポジションをやっているのか、凄く慣れた感じだ。

 …はあ、とりあえずは『夜』に報告だなー。

 そんな事を考えながら、俺は自分のコミュニティに戻ったー。



 ○



『ーさあ、お待たせ致しましたっ!

 本日、最後のイベントはこちらっ!』

 そして、時間は流れ会場では午後の部が始まっ

 ていた。…というか、司会も会場もやけに興奮していた。

 ー今から始まるのが、翌日からの『メインイベント』に関わる事なのだから当然と言えるだろう。

 司会の合図で、会場中央のモニターに『戦前合同見合い』の文字がエフェクトやらBGM付きで表示される。

『ーさて、今回初めて-こちら-をご覧になる方にご説明致しましょうっ!

 この-戦前合同見合い-は、ナイヤチに-本家-を構える全アーツ道場の-腕の立つ若手-達がこのステージ上で、翌日の-交流試合-の相手を決める為のイベントです。

 勿論、相手が被った場合は真正なるくじ引きにて決めますが…どういう訳か、-あまり被った-記録がないのです。

 ああ、当然ですが-一部特例-を覗き-事前の話し合い-は禁止しています。

 ーさあ、説明はこのくらいにして-メインキャスト-にご登壇頂きましょうっ!』


「ー良し、行ってこい」

『押忍っ!』

 その合図を聞いたカーファイ流の門下生達は、続々とステージに上がって行く。…勿論、俺も最後尾からその後に続いた。

『ーワァァァァ~ッ!…っ!?』

 そして、歓声を上げる観客は俺の姿を見てぎょっとした。…まあ、予想通りの反応だな。

 そんなこんなで、若手全員がステージに上がり円になって和風の椅子に座った。

『ーさて、皆さんお気付きだと思いますが今回はなんとあの-プレシャス-に所属する若手秘宝ハンターの、オリバー=ブライトさんが-特別ゲスト-としてこの場に参加する事となりましたっ!』

『ー…っ!……』

 すると、司会から簡単な解説が入った。…そして、目の前に見える観客はまたざわざわした。

『はてさて、彼は一体誰から-アプローチ-させるのでしょうかっ!?

 それでは、参りましょうっ!』

 司会がそう言うと、ステージ上が暗くなり俺の真後ろの人にスポットライトが当たる。

 すると、その人は立ち上がり右回りで歩き出した。そして、とある門下生…俺の先輩にあたる人の前で立ち止まる。

『ーおおっとっ!マオ流-カラテアーツ-のレイ選手は、カーファイ流バトンアーツのリッド選手を選んだ模様っ!』

 直後、リッド先輩にもしスポットライトが当たり彼は素早く立ち上がった。…すると、2人は横に並んで拳とロングバトンを軽く合わせる。

 ー…『作法は特別難しくないから直接舞台上で見て覚えよ』って言ってたけど、本当だな。

 その後、2人は素早くステージから降りて行った。


『ーさあ、一組目は無事にマッチングしましたっ!このまま、どんどん行きましょう!』

 そして、司会の合図で彼の居た席の右側の人が立ち上がったー。

 ーそれから、本当に『被る』事なくスムーズにマッチングが成立していき…リーベルトさんの番になった。

『ーさあ、次はいよいよ-若獅子頭-…すなわち、各道場の若手達の纏め役を任せられているこの方。

 ーミリアム=リーベルト選手だっ!』

『キャアアアーーッ!ミリアム-姉さん-っ!』

 すると、司会から固有の紹介アナウンスが流れてから彼女にスポットライトがあたる。

 直後、観客席から女性達の黄色い声援が上がった。…なんか、クルーガー女史みたく同性人気が凄いのかな?それに、予想通り若手の纏め役…『若獅子頭』だったか。

『はてさて、今年彼女は一体誰との試合を望むのかっ!?……おや、どうやらカーファイ流の元に向う様子ですっ!』

 そして、彼女が歩き出すと司会は事細かに実況を始める。…はあ、これはまた凄く『悪目立ち』しそうな予感だな。


『ーっ!?』

『……っ、………っ!』

 少しばかりため息をこぼしていると、彼女は俺の前で立ち止まった。…当然、また会場がどよめく。

『ーカーファイ流のオリバー=ブライトさん。どうか私と、-一戦お付き合い-下さい』

 そんな中、彼女は先程と変わらない凛とした様子で『セリフ』を口にした。…なので、俺は素早く立ち上がり真紅のロングバトン…『紅天棍』を持ち彼女の横に立ちー。

「ー『謹んで、お引き受け致します』」

『返答のセリフ』を口に出し、横に付き出した。すると、彼女は自らの純白の『フェン』…『オウギ』を広げ俺のバトンに重ね合わせた。

『ーな、な、なんとっ!?リーベルト選手の-お相手-はブライト選手に決まったっ!

 これは、とんでもない事になりそうな気がしますっ!』

『ー……』

 そんなアナウンスが流れる中、ステージ上にいた人達…特に彼女と同性の人達は驚愕していた。

「ーさあ、行きましょうか」

「…はい」

 けれども、やっぱり彼女は凛とした様子でステージから降りようと言って来た。…俺は、ちょっと尊敬しながら頷き先に歩き出した彼女の後に続くのだったー。



 ○



 ーそれから数時間後。ナイヤチの空は夕暮れの色に染まる中、俺は道場の門の前で『迎え』を待っていた。…『あの後』は、ホントに大変だった。

 他の『代理』の人達は勿論、先輩や師範代達からも質問されたり注目されたりしたのだ。

 まあ、老師や師範クラスの方々がそんな彼らを落ち着かせてくれたので疲労はしてないのだが…ー。

 やれやれと思っていると、左側から見慣れたバイク…『リトルレッグ』のエンジン音が聞こえて来た。勿論、それを運転するのはこれまた見慣れたウェンディ少尉だ。

「ーお疲れ様です、キャプテン・ブライト」

 少しして、『ウマ』は俺の前に停車し少尉は素早く降りて俺に敬礼した。そして、脇に抱えたフルフェイスのヘルメットを差し出して来る。

「いつもありがとうございます、少尉」

 俺はお礼を言いつつそれを受け取り、サイドカーに乗り込みヘルメットを装着する。

『ーそれでは、出発します』

『お願いします』

 それを確認した少尉は素早く『ウマ』に乗り、ゆっくりと発進させた。

『ー…今日は、素晴らしい演舞を見せて頂き本当にありがとうございました』

 すると、直ぐに少尉は『午前の部』の感想を口にした。

『…どういたしまして。

 まあ、あれはほとんど基本の型ですし他の人達が居て初めて成り立つモノですから』

『…でも、貴方が居なければあそこまで素晴らしい形にはならなかったと思いますよ?

 ーだからこそ、-彼女-は貴方に興味を持ったのではないですか?』

 謙遜を口にすると、『舞台裏』を知る少尉はこちらを持ち上げて来た。…そして、『午後の部』の事にも触れた。


『…(…そうか、だから俺を見ていたのか。)確かに、そうなのかも知れませね』

『きっとそうですよ。

 ー明日の-交流試合-、陰ながら応援しております』

『…ありがとうございます。…まあ、何とか食らい付いて見せますよ』

『…やはり、それだけの実力差があるのですか……。……ー』

 流石『プロ』だけあって、少尉もリーベルトさんの実力をある程度理解していた。…そして、ふと不安な様子を見せた。

『ーまあ、それだけの実力に見合う-眼-を持っているでしょうからほぼ確実に-こちらの事-は筒抜けになるでしょうね』

 俺はあえて、懸念事項を口にした。

『ーっ!…やはり、ですか……。…どうなさるおつもりですか?』

『まあ、カーファイ老師をはじめ-マスタークラス-の方々は当然-分かっている-でしょう。

 だから、-何かしらの理由-があるのだと思います。…とりあえずは、それを聞いてからですね』

『……。…確かにそうですね』

 俺が落ち着いているのを見た少尉も、少し冷静になるのだったー。

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