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『夕方』-力添え-

『ーお初にお目にかかります。私は、ナイヤチフェンアーツ道場にて代表を勤めておりますクロフォードと申します』

『お初にお目にかかる。ナイヤチバトンアーツ道場にて代表を勤めるカーファイだ』

 まず、品のある婦人…クロフォードとカーファイ老師が名乗った。…おいおい、マジかよ。

『…これはこれは』

『…お会い出来て光栄ですわ』

「「………」」

 マジで何にも聞かされてないので、俺は勿論大将と女史は少し驚く。…まあ、ランスター達は完全に困惑していた。

『すまんな2人共。忙しいところ呼び立てしまって』

『…いえ。それよりも、大切な会議の時間を割いて頂き誠にありがとうございます』

 一方、呼んだ当人は少し申し訳なさそうにしていたがクロフォード代表は首を振り逆に礼を述べた。

『では、手短に-いきさつ-を説明するとしよう。

 ーすなわち、何故-リスク-を承知で若獅子頭との交流試合を承認したのかを』

『…まあ、端的に表すならこれも-恩返し-の一環ですよ』

 そして、老師達は本当にさっくりとした説明をされた。…けど、俺はそれでだいたい分かった。


『…恐らく、-そちらの方々-は知っているだろうがかつて我々はそこに居るプラトー三世の前代…初代プラトーに返し切れない大恩がある。

 勿論、現在も様々な形で少しずつ当代に返しているが…多分我々が生きている内に返し切れないだろう。

 …それに、初代とは-大勢の者に深く語らない-との誓約を交わしている故弟子や門下生達に残っている分を頼む事も難しいだろう』

『…けれど、叶うなら-過去-を知る私達の代で恩返しを果たし後に続く者達にはしがらみなく日々研鑽に励んで欲しいと、我々-長老会-は考えております』

『…そこで、我々に出来るのは-力添え-だと思い至ったのだ。

 だが、-導きの船-とその仲間達である貴方達の-敵-はとても恐ろしい相手だ。…生半可な実力の者では、かえって足手纏いになりかねない。

 ー…そう考えていた矢先、クロフォード代表とリーベルトが揃って連絡を取って来たのだ』

『……』

『…私も、内心かなり驚きました。

 まさか、彼女が-彼-に興味を持つとは思ってもいなかったので』

『ー…というのが、流れだ。…ちなみに、話の中にあったように先程まで長老会の会議があったのだが……。

 リーベルトの他に、もう何人か-力添え-を加える事になった』


『…っ』

『…ただし、あくまで決定権はそちらにある』

『…まあ、ちょうど明日に実力を見られますからそれをもって判断しましょう』

『…ですね』

『…では、我々はこれにて失礼する』

『失礼いたしましたー』

 そして、カーファイ老師達は通信から抜けた。…いや、正直かなり有難い内容だった。

『…さて、今日はこんなところだろうか?』

『ええ、私は大丈夫ですわ。…3人は、大丈夫ですか?』

「「あ、はい」」

 内心感謝していると、マオ老師はミーティングを終了しようとする。…その時、女史はこちらに確認して来た。勿論、ランスター達は頷くがー。

「ー…あ、そうだ。ジュール大将、1点確認したい事があるのですが…」

『…ああ、-アレ-の事だな。私もちょうど話そうと思っていたとこだよ』

 先日から気になっていた事を切り出すと、大将は直ぐに察した。

『…実は、私も少し気になっていたのです』

『…すみません。なかなかタイミングがなかったモノですから。

 ー実は、ジャスティン等男子メンバー達の-ポイント-確認が済んだ後…私の元に、-差出人不明-のメールが送られて来たのです。

 まあ、当然最初は直ぐに破棄しようとしましたが…題名を見て気が変わりました』

『……』

『-ナイヤチにて事件の兆しあり-。故に、私はそのメールを…-アドバイス-をしっかりと読んだ上で駆け付けたのです』


『…それで、メンバーではなく-後輩達-を引き連れていたのか』

『はい。…ああ、勿論メンバーにはとある連盟主要星系の1つから離れないように言ってあります』

「…そんな事が……。

 一体、『何者』なんですかね?」

『…おまけに、我々の行動を把握しているやもしれません』

『…はあ、問題事は増える一方だな。まあ、今は後回しだな』

「…ですね」

『…良し。今宵の会議は此処までだな』

『お疲れ様でした』

『お2人共、また明日。…3人は、どうか今の内にしっかりと休んでおきなさい』

「「「ありがとうございます」」」

 こうして、ミーティングは無事に終わり俺達は

 戦闘班の若手メンバー…ウェンディ少尉達に拠点へと送って貰うのだったー。



 ○



 ーSide『ヤングリーダー』



 ー『祭』の初日は波乱の中終わり、その空気は今もなおファイターエリア全域を包んでいた。…なかでも、『クロフォード流フェンアーツ』の道場があるブロックは行き交う人達皆昼間の事を話題にしていた。

『ー…姉上殿は、どうして……』

『…選ばれた-彼-は一体何者なの?』

「ー師匠、お疲れ様です。…向こうの反応はどうでしたか?」

 その中心…言い換えれば『話題の発生源』となっている道場もまた、かなりざわざわとしていた。…そんな中、敷地内の片隅にある『別棟』では道場主のクロフォードと今や『話題』の人となっている、ミリアム若獅子頭が顔を合わせていた。

 ーたった今、クロフォードはカーファイと共に『プレシャス幹部ミーティング』に召還されていたのだ。…なので、『言い出しっぺ』である彼女は先方がどんな反応をしたか気掛かりだったのだ。

 すると、道場主は笑顔で首を振る。

「大丈夫ですよ。

 誠心誠意『事情』を話したら、あちらはちゃんと納得してくれました」

「…っ。…そうですか。

 良かった」

 それを聞いた彼女は、ホッと胸を撫で下ろした。…正直、後になって少し『勢い』に任せ過ぎたと思っていたからだ。


「…ミリアム、あの方達は非常に柔軟な考えをもっておられます。なので、そこまで気を使う事はありません」

「…あはは」

 その反応に、道場主はちょっとお説教をした。…彼女は、苦笑いを浮かべた。

「……。

 ーミリアム。明日は貴女が若獅子頭になって初めての晴れ舞台です。

 なので、しっかりと『全力』でおやりなさい」

 師はため息を吐き、そして直ぐに真剣な顔で『全力を出す事』を許可した。

「…っ。…今日直に会って『強い』のは分かりましたが、『そこまで』の方なのですか?」

 当然、彼女は少し困惑する。…どうやら、師匠の言葉に『疑い』があるようだ。

「ええ。…そもそも、あの方達が選んだ逸材です。今の時点で、相当な『実力』を持っているのは疑いようのない事です」

「……言われてみれば。

 ー分かりました」

 彼女は納得した後、同じく真剣な表情で頷いた。

「…では、本棟に戻りましょう」

「はい、師匠」

 すると、道場主はいつもの穏やかな顔になり彼女も凛とした顔になり2人は道場に戻った。


『ー…っ。……』

 そして、そのまま練武場に入るとざわざわしていた門下生達は一斉に静まった。

「ーまずは、今日まで本当にお疲れ様でした。特に、『外』よりお越し下さった皆様には感謝しかありません。

 改めて、深く御礼申し上げます」

 当主は自分の席に座すと、まずは感謝を口にして深く頭を下げた。勿論、当主の両サイドに控える指導役一同も頭を下げた。

『…っ。……』

 すると、門下生一同も慌てて頭を下げた。

「…さて、本来ならばささやかなお礼として『粗品』をお配りしたい所ですが……。

 ーこれから、皆様に手伝って頂く『例の件』が無事に片付いた暁に『相応の礼』をさせていただく事となりました」

『……っ』

 そして、当主は『先』の話を初める。…当然、『外』のメンバーだけでなく『中』のメンバーもゴクリとした。

「それと、もう1つ。

 ーこの場に居る面々は、今も昼間の事に相当の『疑問』を抱いている事と思います」

『…っ!』

『……』

 更に、当主は『それ』に対しての解答もする。これには、門下生だけでなく指導役…特にミリアムと歳が近いメンバーも驚いた。

 ーまさか、答えが聞けるとは思っていなかったのだろう。


「その答えは、実に単純です。

 ーそこに居るミリアムが、オリバー殿を『識りたい』からですよ。…そして、彼女の実力を『プレシャス』に売り込む為でもあるのです」

『………。…っ!』

『…ウソ、お姉さんが……』

「………ー」

 衝撃の解答に、練武場はまたざわざわする。…しかし、ただ1人動揺していない者がいた。

 その時は、位置関係も手伝って『それ』に気付く者は誰1人として居なかったのだったー。

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