ーSide『ガーディアン』
「ーはい、それでは定刻となりましたので『対策本部』のミーティングを開始したいと思います。
司会は、私オットー=レンハイムが行わせて頂きます」
ナイヤチの地上に夜の帳が降りた頃。宙域にある星系防衛軍の本部基地では、『全地上部隊』の責任者が結集していた。
そんな、超重要なミーティングの司会を『外』のオットーが担当していた。
「まずは、首都惑星ソンリィにて発生していた『ファイター襲撃事件』の報告からです。
ーハウ少佐。宜しくお願いします」
けれど、彼は微塵も緊張を顔に出さず最初の報告を口にする。…そして、ユリアにバトンタッチした。
「ハッ!
ー現在、実行班達へ取り調べを行っていますが今の所大した情報は聞き出せていません。
ー…一方、『例の危険物質』の割り出しですがつい先程『カノープス』の方で解析が完了しました」
『…っ!』
それを聞いた責任者達は、驚愕と尊敬が混じった目をした。
直後、情報班長のイリーナがモニターに…『気味の悪い色の丸い物体』が映し出す。
『…っ』
『…うわ……』
当然、反応は宜しくなかった。…実際、これを見付けた情報班とセリーヌも少し気分が悪くなっていた。
「…こちらは、『外系Nエリア』(連盟外領域ノースエリア)に生息する『未調査生命体』です。
そして、この生命体の体液こそが例の危険物質の正体です。…どうやら、サーシェスカンパニーはこの生命体を『副産物』由来の検索システムで見付け出し、独自に繁殖を行っていたようです」
『……』
彼女の口から次々と出て来る信じられない内容に、ミーティング参加者は言葉を失った。…そんな中、モニターの映像は切り替わる。
「…この生命体の体液の特徴は4点あります。
1つは、生物の油脂に反応して『強力な接着剤』のような性質変化を起こす事です。
これが、ファイター達の手を『ストーン』のようにしてしまった原因です。
…逆に言うと、『それ以外』だと性質変化を起こさないので『カモフラージュ』と併用しても問題ないのですよ」
『…なるほど……』
『…だから、解毒治療が……』
それを聞いた参加者達は、非常に納得していた。
「2つ目は、体液の保存が非常に安易な事です。
何せ、体液を入れていたグレネードの素材は『衝撃に強い』だけで『酸化防止』はなかったのですから」
『…っ』
『…バカな、-酸化に強い-生命体など……』
「…そして、3点目は『確認』が非常に困難な点です。
可視確認や、現場での残留物検知や手に付着した『変質物質』が検出されなかったのはこれが原因でしょう。
…つまり、それほど『希薄』な存在でしょう。あるいは、連中が『改造』を施しているのかもしれません」
『……』
『…なんとおぞましい……』
若い責任者達は絶句し、ベテランの責任者達は不快感を顕にした。
「…そして、4点目。…他3点も勿論恐ろしい事ですが、防衛の立場に居る者としては『これ』が最も脅威的な特徴です。
ー…この生命体の体液は、微量で『あれだけの事』が出来るのですよ」
『……は?』
『…そ、そんな……』
最後の…そして、一番恐ろしい特徴を聞いた責任者達は騒然とする。
「ー諸君、落ち着きたまえ」
『……っ』
すると、防衛軍司令が良く通る声で静かにさせた。
「すまないな。続けてくれ」
「ありがとうございます、司令。
ー…確かに、恐るべき特徴ですが既に『対策』は完成しています」
『ーっ!?』
すると、不安を抱いていた責任者達はまた驚愕する。
「…だからこそ、今日ソンリィのファイターエリアで開かれたフェスティバルに、『正規の参加者』が集えたのですよ」
『…っ!』
『……』
「ー…なるほど。…では、その『対策』とやらを皆に聞かせてくれ」
「ハッ!」
彼女は敬礼し、それに合わせてまたモニターの画像が切り替わる。…そこには、複数の樹木が表示された。
『……?』
『…あれ、見覚えが……』
「一部の方はご存知かと思いますが、これらの樹木はファイターエリアの山間部に自生する種類です。
そして、これらの樹木から採取出来る『ウッドローション』は『アーツファイター』の武装の塗装にも使われています。
ーそして、それに含まれる成分が変質した体液を除去したのです」
『………はい?』
『………』
「…私も、これを聞いた時は到底信じられなかったよ。
ーだが、回復するファイターを見て信じざるを得なかった」
唖然とする参加者達に、司令は当時の心境を語った。
「尚、ファイターの治療に使った『ローション』はオリジナルの成分を解析し、『人工的に生成』した物です。
なにせ、樹木自体かなり貴重なモノですからね」
『…っ!?』
『…なんと……』
「…いやはや、本当に『カノープス』には驚かせれる。
だが、非常に心強い。
ー諸君、聞いての通り『かの物質』について何も不安に思う事はない。…故に我々は、近日発生すると予想される『緊急任務』の事について考えていれば良いのだ」
『…っ!ハッ!』
司令の言葉に、全員が敬礼した。そして、話はそのまま『予想』に入る。
「では、次の報告に移らせて頂きます。
…先程、司令が仰ったように近日に間違い『連中』は何かしらの『トラブル』を引き起こすでしょう。
ー何故なら、『襲撃作戦』が完膚なきまでに失敗に終わったのですから」
『………』
「…私もそうだが、諸君らも歴史担当の教官に教わっただろう?
ー…かつて、この地は未曾有の災害に『襲われかけた』事を」
全員が深刻な顔をする中、司令は静かに語る。…『その時の事』は、この星系の人達にとって今もなお忘れられない事だったのだ。
そして、それをきちんと語り継いでいるのは同じ事が起きた時の『対策』になると思ったからだろう。
「…現在、『ターゲットポイント』を探索中ですが『当時』と同じように巧妙に隠ぺいされているようです。
なので、今のところは怪しいポイントを『総当たり』で行くしかー」
「ーっ。……」
再びユリアが話し始めるが、ふとイリーナが端末を取り出した。…彼女は、素早く確認する。
「…おや?何か緊急のメールか?」
「…失礼致しました。
ーどうやら、『プレシャス』のメンバーが『絞り込み』に成功したようです」
『ー…っ!?』
「…やれやれ、本当に規格外の逸材が揃っているな」
彼女の報告に、参加者達は何度目かの驚愕をした。…司令も、非常に感心していた。
「ー…。…では、表示します」
彼女も、内心驚きつつ端末に届いた情報を素早くモニターにフィードバックした。…そして、スクリーンに映るマップは劇的に変化した。
『…おお』
『…一気に減ったぞ』
「…『半分』は減ったようだな。…それでも、まだかなりあるが決して無理な数ではない。
ーこれならば、当日現場に集う戦力だけで捌けるだろう。…つまり、『陽動』にも焦らずに対処出来るという事だ」
ー…実は、星系軍がファイターエリアに戦力を割けない理由は今日の未明に『ナイヤチ全土』をターゲットにした『テロ予告』があったからなのだ。
だから、本命であるファイターエリアは『混合部隊』だけで立ち向かうしかなかったのだ。
「ー司令殿、お任せを」
すると、ファイターエリアを担当する分隊の隊長は自信を言葉にする。
「我々第1遊撃部隊も、尽力させて頂きます」
それに呼応し、オットーも力強い意識を言葉にした。
「…どうか、頼んだ。
無論、全部隊も全力を持って敵性勢力の排除にあたれっ!」
『ーイエス・サーッ!』
全員は素早く立ち上がり、覚悟を決めた表情で敬礼した。