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コンタクト-直接の相談-

 ーSide『プロダクション』


「ーっ!?本当かっ!…分かった、とりあえず至急速報を出すように」

『……』

『トラブル』発生から、凡そ1時間後。テレビ局の重役ミーティングルームに『嬉しいニュース』が舞い込んで来た。

「たった今、通信レベルが回復しましたようです」

『……』

 それを聞いたメンバーは、ようやく胸を撫で下ろした。…何せ、大きな損害を被る所だったのだから。下手したら、この場のメンバーのみならずスタッフ達全員がジョブを失っていただろう。

「…ふう、生きた心地がしなかったな……。…とりあえずは、なんとか『崩壊』の危機は免れたか」

 特に、局長は人一倍ホッとしていた。…勿論、自分の将来が安泰な事とスタッフ全員が路頭に迷わずに済んだ事によるモノだが…他にも『理由』があった。

「…それにしても、一体何で『こんな事』が……」

「…先程の連絡では、『コントロールタワーから謝罪あり後日公式の謝罪会見を開く』と言っていました」

『……』

 その報告に、メンバーはまた不安そうな顔になる。…恐らく、僅かに『嫌な予感』がしたからだろう。


「…分かった。…直ぐに、質問担当に連絡を」

「了解です」

 すると、局長は直ぐにオーダーを出した。…そして、メンバーの方を見る。

「…とりあえず、ミーティングは一旦終了だ。各位、対応やオーダー出しに当たってくれ。

 そして、続きは明日の午後に行う」

『了解』

 そのオーダーにメンバーは従い、素早くけれども静かにミーティングルームを退出していく。…そして、ルームには局長だけが残った。

「……(…『第1選考』の2日前のタイミングでの、『商業エリア』限定の通信電波障害。

 ー流石に、『偶然』では片付けられないな…)」

 彼は、ゆっくりとシートから立ち上がり人が減った事でやや暗くなったルームをゆっくりと歩き出した。…彼は、明確な危機感を抱いていた。

 ー恐らく、このテレビ局を『ターゲット』にしているのだろうと。…エリア全体を対象としたのは、『カモフラージュ』だろうと。

(…やはり、狙いは『アレ』だろうな。まあ、『プレシャス』が嗅ぎ付けているし何ら不思議ではない。

 …けれど、まさか『こんなやり方』をしてくるとはー)

 局長は、『敵』の真のターゲットを正確に予想していた。…というか、それ以外で狙われる理由が思い付かないからだ。

 そして、『敵』の手段を選ばない姿勢に恐怖を覚えた。


(…だが、私は幸運だ。何せ、『プレシャス』の『上層部』…もしかしたら『彼』が来ているかも知れないのだから)

 けれど、局長は昔から自身の持つ強力な『ラッキー体質』によって幾度となく『こういったピンチ』を乗り越えて来たので、恐怖は抱けどガタガタと震える事はなかった。

 ー何より、直感的に『最も頼りになる存在』がこの地に来ている事を理解しているのも大きい。

(…まずは、コンタクトを取るとしよう。恐らく、『若手』と同じ場所に居るだろうな)

『ならばー』…と、局長は直ぐに行動を始める。そもそも、一旦ミーティングを一旦中止にした半分の目的は自らコンタクトを取る為だ。

 ーそれが、最低限の『礼儀』だという事を彼自身が知っているからだ。

(…とりあえずは、『ファロークス』に仲介を頼むとするか)

 そして、速やかに確信に近い『予想』を立て彼は自分のルームに向かったー。



 ○



「ー…ふう。……んあ?」

 翌朝。恒例のトレーニングを終えた俺は、ルームでのんびりとしていたのだが、ふと端末にメールが送られて来た。

「……っ。……はあ」

 送り主は若社長からだった。…そして、その内容を見て頭を抱える。

「……ー」

 とりあえず、俺は『エージェントモード』に切り替え他のメンバーに連絡を入れた。

『了解』

『了解です』

『お気をつけて』

『ーそれでは、直ぐに準備をします』

 すると、返信はだいたいものの数10カウントで返って来た。…中でも俺の『担当殿』は、下手するとギリギリ10カウント前に来ているような気がした。

 そのおかげか、少しだけ気分が軽くなったので俺は素早く簡単な準備をしてからルームを出た。

「ーっ」

 …直後、まるでそれを感知したかのように端末がバイブレーションする。勿論、送り主は『担当殿』だった。

「…(…流石は『プロ』だな)」

 俺は、驚きと尊敬を抱きながら彼女の待つ地下パーキングに向かう。


「…っ」

「……」

 その最中、エレベーター前で戦闘班班長のクルツ大尉と会った。…ちなみに、地上で動いている『第1分隊』のメンバーは完全に『趣味』がバラバラの私服に加えちょっとだけ『変装』していた。

 まあ、『知り合い』が居ないとも限らないので一応の対策…のつもりだったのだが、まさか到着してすぐ『利用』するとは思わなかったな。

「…ども」

 そんな事を考えていると、向こうは『緊張』した様子で挨拶して来た。…これもまた、一応の対策だ。

『こうする事』で、俺と彼らは『ついこの間』会ったように見せ掛けられるのだ。まあ、慣れない事をやっているせいか相当ガチガチだが。

「…おはようございます。…えっと、『街の様子』でも見て来るんですか?」

 早く慣れてくれる事を願いつつ、俺も緊張したように話を続ける。

 ー勿論。他のメンバーが街の様子の確認に行っているのは知っているし、なんなら『繰り出すタイミング』をズラしているのも知っている。けれど、俺はわざわざ聞いた。

『ー下ヘ参リマス』

「「ー…っ」」

 すると、下に行くエレベーターが来た。…当然、中には他の客が乗っていた。

 なので、俺と彼は会釈しながらエレベーターに乗り込む。

「ー…えっと、キャプテン・オリバーはどこら辺を?」

「…そうですね。…テレビ局を中心としたエリアですかね。

 ー出来れば、『クイズ番組』が予定通り行われるのかも直接確かめたいですね」

 エレベーターが降下する中、彼は小声で聞いて来た。…なので、とりあえず『探ってみる』事にした。

「「……っ」」

 案の定、一緒に乗っている他の客…同じデザインの船乗り向けの『ジャケット』を着ている若い2人の男性は、ピクリと反応した。

 まあ、このタイミングでわざわざ商業エリアのホテルに泊まっている時点で『大体』予想はついていた。

「…そうですか。……私は、フードブロック(飲食店区画)を見て来るつもりです」

「…お願いします」


『ーファーストフロアデス』

 そうこうしている内に、エレベーターはファーストフロアに到着した。…すると、『ライバル』達は若干こちらに意識を向けながらエレベーターを降りた。

「ーやはり、先程の彼らは『ライバル』のようですね」

 すると、彼はようやくいつも通りの感じで話し掛けて来た。

「そのようですね。…まあ、多分彼らは本当に確認に行くのでしょう。

 確か、テレビ局への一般向通話回線はまだ大幅に制限が掛けられたままですし」

「…今は、スポンサー企業からのクレーム対応をしている頃でしょうからね。はあ、テレビ局の方々が可哀想ですよ。

 ー何せ、自分達の過失でないにも関わらず謝罪をせねばならない上…まだ『トラブル』が起こるかも知れないのですから」

 大尉はテレビ局の人達に同情し…『犯人』に対して強い憤りを感じていた。

「…全くです」

『ー地下パーキングデス』

 俺も同意していると、エレベーターは地下に到着した。


『ーお待ちしていました。…あ、-お兄さん-もいらしたんですね』

 そして、バイク用のブロックに移動するとウェンディ少尉がフルフェイスを装着した状態で出迎えてくれた。…ちなみに、第1分隊内では年上メンバーを『お兄さんorお姉さん』と。年上メンバーは、『弟君or妹ちゃん』呼びで統一している。…まあ、流石にこの辺まで細かく『設定』するのは面倒だからな。

「…んじゃ、キャプテン・オリバー。『妹ちゃん』。お先に」

「…ええ」

『行ってらっしゃい』

 そして、彼は素早く準備をして一足先に『ウマ』で出発した。

「ーじゃあ、俺達も行くとしましょう」

『ええ』

 彼の後ろ姿が小さくなるまで見送ってから、俺達も出発した。

『ー…あ、どうやら街の方は日常を取り戻しているようですね』

 少ししてホテルの外に出ると、少なくともホテル周辺は到着した時に見た『いつも通り』の光景になっていた。

『そのようですね。ちなみにですが、リニアやバス等も概ね平常通りに運行しています。

 ーただ、カンパニー等は復帰直後から今朝まで慌ただしくしている印象です』

 すると、彼女は街の詳しい状況を教えてくれた。…やっぱ、そうなるよな。


『ー申し訳ありません…。…え?宜しいんですか?』

『…あ、はい。分かりました。それではー』

 ふと歩行者専用レーンに意識を向けると、恐らく営業担当と思われる人達が『謝罪』の通信していた。…でも、あまり深刻な様子ではないように見えた。

 まあ、『先方』も被害に遭ってるワケだし相手を責める事もないだろう。この様子だと、テレビ局へのクレームもー。

『ー…ところで、3つのステージへの挑戦の際はどうしますか?』

 そんな事を考えていると、彼女は少し緊張した様子で『スケジュール』を確認してくる。

『まあ、最初は若社長殿の好意で会社のルームを貸して貰えるので送迎をお願いするでしょう。

 …ただー』

『…やはり、以降は公共交通機関を?』

『いや、多分テレビ局が地上警備の警護付きで送迎してくれると思います。…何せ、参加者に-もしもの事-があったら大変ですから』

『…あ。……』

 すると、彼女は少し落ち込んだ。…だがー。

『ーああ、勿論貴女達にも警護に参加して頂きますよ』

『…っ!……そうか、-今-の我々は-プレシャス専属-のボディーガードチームでしたね』

 直後、彼女は瞬時に自身の立場を思い出し復活する。…どうやら、『送迎出来るか否か』に気を取られスッポリと抜けていたようだ。まあ、彼女は…俺が言うのもアレだがまだ『若い』からな。

『ええ、そうです。

 ーですから、当日は宜しくお願いしますね?』

『っ!はいっ!お任せ下さいっ!』

 彼女は、とても元気良く応えるのだったー。

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