『ーマスター。お忙しいところ失礼致します』
「…どうした?」
直後、カノンとサウンドオンリーでの通信が始まる。…俺は、その時点で緊張感を持った。
何故なら、『用事の途中』で彼女が通信して来るとは余程の事だからだ。
『先程、星系防衛軍より正式に捜査協力の依頼がありました。そして、ほぼ同じタイミングでに帝国政府宰相よりオーダーが発令されました』
「…了解だ」
つまり、この時点で俺は正式に『動ける』事になった訳だ。…それにしても、やけに『早い』な。まさかー。
『ー…マスターの予想通り、-早急に解決-しなくてはならない事情が発生しました。
今、該当データを転送致します』
すると、彼女は予想を肯定する。そして、直ぐに俺の端末にデータが来た。
「ー……っ。……なるほどな」
『それ』を見た瞬間、此処の部隊と閣下の『スピーディー』な対応に納得するしかなかった。
「ありがとう、カノン。それと、すまないが今から送る『予想』を両方のトップに転送してくれ」
『イエス、キャプテン』
実にベストなタイミングだったので、こちらもたった今入手した『手掛かり』を端末に素早く入力し彼女の元に転送した。
『ーデータを確認しました。……流石は、マスターです』
「ありがとう。じゃあ、連絡が来たら知らせてくれ」
『イエス、キャプテン。それでは、失礼致しますー』
「…すみません」
そして、カノンとの通信が切れたので再びソファーに座る。
「…いえ。……」
「…ああ、先程の通信は私が正式に『事件解決』に尽力する事が決まっただけの事ですので」
すると、局長は先程の通信が気になったのか少し落ち着かない様子だった。…普通は、民間人に内容は話さないが『今回』この人は間違いなく被害者なので、きちんと説明する義務がある。
「…っ、本当ですか?……良かった。
ー…でも、何故私にそれを?」
すると、局長は明らかにホッとしたようだ。…けれど、直ぐに疑問を抱く。
「…実は、先程『防衛軍本部』からとあるデータが転送されて来たのです。
『それ』を見た本部司令殿と私の上司である帝国政府宰相殿が、『早急に解決しなければならない』と判断し私にオーダーを出されたのです」
「……はい?………」
俺の口から出た説明を、局長は理解出来ないでいた。…まあ、『どうして自分に?』というのが大きいだろう。
「…その『理由』は、こちらをご覧頂ければ嫌でも直ぐに分かりますよ」
なので、俺は先程のデータを表示し端末ごと局長に差し出した。
「……お借りします。………は?」
局長はそっと受け取り、『それ』を見る。…直後、唖然とした声が漏れた。
ーそれは、『ワードデータ』だった。そして、その内容は…。
『ークイズ番組を中止にしなければ、テレビ局や-様々な場所-に仕掛けたモノが関係者達を襲うだろう』…という、明らかな脅迫だった。
おまけに、『本気』だという事を示す為か添付ファイルには全員の名前や住所のみならず、当人と家族の行動パターンまでもが事細かに記載されていた。
つまり、ターゲットのみならずその家族…ひいては無関係の人も巻き込まれる可能性が高いという事だ。…故に、防衛軍本部と帝国政府は迅速にオーダーを出したのだ。
「ー…っ。なんて事だ」
「…ああ、勿論添付ファイルのデータは『ごく一部』の人間しか閲覧出来ませんしファイルは事件解決と共に完全デリートするので、ご安心下さい。
ー勿論、貴方を含めたスタッフ達やそのご家族の安全確保はお約束致しますし…『クイズ番組』も、必ずや放映出来るようご尽力させていただきます」
「…っ。…どうか宜しくお願いします」
俺の堂々とした宣言に、局長は少し安堵し…そして深く頭を下げて来たのだったー。
○
ーそれから、局長に『当人』との面会を希望し向こうも承諾したので細かい時間を決めて『相談』は終わった。…今後は、正式な『任務』という形で顔を合わせる事になるだろう。
『ーキャプテン・オリバー。間も無く、テレビ局周辺に到着します』
そして、再びウェンディ少尉の運転でテレビ局に向かっていた。…一応、『ライバル』の前で様子を見ると言った手前きちんと『本当』にしておきたいからだ。それと、ついさっきもう1つの『理由』が出来た。
『ー…っ。やはり、-混乱-しているようですね…』
少しして、テレビ局のブロックが見えて来る。…すると、直ぐに群衆のざわめく様子が目に飛び込んで来た。
やはり、先程出た『脅迫』が彼ら…『ライバル』達にも伝わってしまったようだ。
多分、星系サイバーフィールドに大々的に発表したのだろう。
『…あ、そこで降ろして下さい』
『了解。
ーそれでは、お気をつけて』
「…ええ」
とりあえず、俺は離れた所でサイドガーから降り混乱する群衆の元に向かう。
『ーですから、星系防衛軍から正式な発表があるのでお答えは出来ませんっ!』
『じゃあ、クイズはやらないのか!?』
『せっかく、結構なミール出して此処まで来たのにそれはないわよっ!』
そして、テレビ局のゲート付近に着くと局サイドとチャレンジャーサイドがかなりモメていた。…局サイドは勝手に『開催か中止』か答えられないし、チャレンジャーサイドは中止になったら完全にミール損だ。つまり、双方『正しい』からこそ凄い面倒なのだ。
「ーっ!」
「…な、なんだ?」
とりあえず様子を伺っていると、遠くからパトロールカーのサイレンが聞こえて来た。…ふう、どうにかなりそうだな。
『ー皆さん、落ち着いて下さいっ!』
そして、パトロールカーはアナウンスしながら局のスタッフとチャレンジャー達の間に割って入って来て停車した。…直後、ゴツいパトロールカーから2名の隊員が降りて来た。
『皆さん、どうか落ち着いて行動して下さい。…皆さんが冷静さを欠いた行動をすれば、より-イベント-の開催が難しくなりますよ?』
『ーっ!?』
右側に立つ女性隊員がそういうと、チャレンジャー達はハッとする。…お~、たった一言で黙らせるとはあの人やるねぇ~。
多分、『そういう役割』の人なんだろう。
『まあ、皆さんのお気持ちは良く分かります。
ーけれど、そもそも皆さんは-銀河連盟-のスタンスをご存知ないのですか?』
すると、今度は左側に立つ背の低い女性隊員が言葉を続けた。…まあ、やっぱり『そうなる』よな。
『……っ』
『…そう。-テロリズムに屈しない-のが、我々のスタンスなのです。
よって、星系人のみならず連盟の全ての人達が楽しみにしている-イベント-を中止にする等あり得ないのですよ。
ーちなみに発表が遅くなってしまったのは、ターゲットとなっている方々の安全確保の手段も決めていたからですね。…ご理解頂けると、助かります』
『……っ』
最後に背の低い女性隊員は、『笑顔』で捕捉をする。…それを聞いたチャレンジャー達は、非常に気まずそうな顔をした。
『ー……』
そして、チャレンジャー達は逃げるように解散して行った。…まあ、『あそこまで言われて』残ったら危険に晒されている人より自分の事が大事な人間という『悪評』が付くのは避けらないだろう。現にー。
『ー……』
俺も、人の流れに合わせてその場から移動しつつチラリと別の所を見る。
そこには、チャレンジャー達の起こした騒ぎによって集まった現地の通行人が居た。
ー彼らしっかりと見ているから、間違いない。
特に傭兵なんかは、仕事に大きな影響が出るだろうし、勿論、一般企業所属の人も人格が疑われるだろう。…いや、あの2人は実に有能な方々だ。
俺は、彼女達に敬意を抱きつつその場をー。
「ー……」
その時、視界の先に気分が悪そうな婦人を見掛けた。…どうしたんだろう?
とりあえず様子を伺っていると、婦人はゆっくりと広場を後にした。
「……(…まさか、『あの人』か?)ー」
なんとなく、とある『予想』が浮かんだので俺は直ぐに『確認』するのだったー。