ーSide『ファミリー』
「ー…お義母さん、本当に行くんですか?」
本格的なサマーシーズンが間近に迫る、ブルタウオのセサアシス。けれども、そのシーサイドにあるレーグニッツ家のリビングはそんなシャインな外の景色とは少し違っていた。
「今回は流石に控えた方が良くはないか?」
そして、一家の主であるゼクスも娘のような間柄であるカーリーの味方をした。
ー普段この家庭は、サマーシーズンに負けないくらい明るいのに今回は少し暗くそして緊迫していた。
「心配は分かります。けれど、ようやく『直接応援出来る』このチャンスをみすみす逃すワケにはいきませんよ」
家族の意見に、当人…シュザンヌは理解を示しつつ引かない姿勢を見せた。…その理由は、『息子の1人』であるオリバーの『応援』の為だった。
実は、当人は『ポターランカップ』や『ナイヤチの祭』に出向き直接オリバーを応援をしたかったのだ。しかし、クジ運の低さのせいでなくなくホロメッセージとテレビ越しの応援しか出来なかったのだ。
だが、今回ようやく直接応援が出来るかも…いや、当人は必ず『息子』がメインステージに進出する事を確信しているのだ。
ーけれど、ほんの少し前に流れたニュースが当人の願いを阻もうとしていた。
『ールリームイール星系のラバキアにて、-テロ予告-。ターゲットとなったのは、ラバキアテレビ局のスタッフ並びにその家族。
星系防衛軍及びルリームイール政府、そして帝国政府は先程-テロに屈しない-…と、発表。
それを受け、テレビ局は予定通り特番を開催する事を放送やサイバーエリアにて発表しました』
ーラバキアの商業ブロックで起きた、『通信電波障害』が無事に解決したと思ったら今度は『テロ予告』だ。
元軍人であるゼクスは、流石に嫌な予感を感じていたし『軍人の嫁』であるカーリーも同感だった。
「ーそもそも、今のご時世『何処で危険な目に遇っても』おかしくはないですよ。…でも、『大きな被害』になった事は一度もないのもまた事実。
それは、『彼』と『彼の信頼する方達』がいたからに他なりません」
「…っ。…それは、そうだが……」
「…けれど、自ら『危険と分かっている場所』に飛び込むのは……」
『彼』…この場にいないグラハムを含めたレーグニッツ家にとって、大切な『家族』であるオリバーの『実力』と『実績』を知ってはいる。けれど、『それとこれ』とは話が別だ。
「…そうですね。
ーでも、ここで臆してしまえばそれこそ『テロに屈した』と認める事になるでしょう」
「「……」」
軍人の家に嫁いで…いや、当人は昔から大変メンタルが強かった。だからこそ、軍人の嫁であり母として振る舞えて来れたのだ。
「それに、何も『それだけ』が目的ではありませんよ」
「……え?」
「……っ」
尚も心配する2人に、当人はもう1つの理由を口にした。…すると、カーリーは疑問を抱くが『夫』はハッとした。
「ラバキアテレビ局のスタッフさん達の奥様方には、私の旧友が何人か居ますからね。…きっと、今回の件で眠れぬ夜を過ごす事になるでしょう。
ー私は、友として彼女達を支えたいのですよ。…それが、今の私に出来るせめてもの『役割』ですから
勿論、他の星系に居る旧友達と一緒に」
「……」
「…はあ……」
当人は、真剣な顔で告げる。…それを見た2人は方や圧倒され、方や諦めのため息を吐いた。
「…本当に、お前は昔から義理堅いな。
ー仕方ない。…そこまでの理由を聞かされて『止める』のは、我が家の『ルール』に反するな」
「……あ」
「ご心配をお掛けしますね」
夫の言葉に、当人は深く頭を下げる。…当人も、自覚はちゃんとあるのだ。
「…全くだ。
とりあえず、彼に連絡を取るとしよう。…恐らく、『暇』な時間は限られているだろうからな」
「お願いします」
ゼクスはそう言うと、直ぐに通信の準備を始めるのだったー。
○
ーSide『プロダクション』
「ー…本当に、宜しいのですか?」
ラバキアのフードブロックにある高級レストランの個室では、2人の人物が会食していた。
片方は、『クイズ番組』の責任者であるプロデューサー。そして、もう片方はファロークス支社の役員だった。
…話の内容は、『クイズ番組』のメインステージの会場提供を依頼出来ないかというものだ。
正直なところ、プロデューサーは『拒否』されるのではないかと不安だった。だがー。
「ーええ。私の発言は、弊社の総意と思って頂いて構いません」
ファロークスの役員は、笑顔を浮かべながらそう言った。…つまり、ファロークスはテロの被害を被る事を承知で会場提供を快諾したのだ。
「……。…本当にありがとうございます」
「いえ。…それに、貴社には支社設立の際にコマーシャルをはじめとする様々な支援をして頂きましたから。
ーだから、これはせめてもの『恩返し』ですよ」
「…それは、他の企業様にも行っている事ですし……。…そもそも、貴社も弊社立ち上げの際に必要な機材を遠方から『安値』で輸送してくれたではないですか」
役員もプロデューサーも、互いに感謝を示していた。
ーこのやり取りの裏には、双方の『初代』が深く関係している。…そして、勿論双方を繋げた人物こそカノープスの『初代キャプテン』だ。
「まあ、それもあの『キャプテン・プラトー』が居たからですよ。
ーそして、今は彼の真の『後継者』が居る。だから、『戦艦に乗ったつもり』で弊社のイベントホールを貸し出す事が出来るのですよ」
「…やはり、キャプテン・プラトーは来ていたのですね。
通りで、星系政府と防衛軍だけでなく帝国政府までもが堂々と『開催出来る』と…。
そして、弊社も『堂々と外に出て良い』と」
「それだけの『信頼と信用』が、あの方にはありますから」
「…はあ、本当に有り難い話ですね。
ーでは、後日改めて契約用のタブレットを貴社にお持ちしますね」
すると、プロデューサーは心底感謝を示した。そして、話を切り上げ立ち上がる。
「分かりました。
どうか、お気をつけて」
役員も立ち上がり、ルームを出る彼を見送る。
「ありがとうございます。
では、またー」
「ー…っ」
最後にプロデューサーはお辞儀をして、ルームを出た。直後、ルームの外で待機していた部下が彼に近いて来た。
「…どうでしたか?」
「先方は快諾してくれたよ」
「…そうですか」
それを聞いた部下は、心底ホッとしていた。多分、待っている間気が気ではなかったのだろうし向こうが手配したランチも、喉を通らなかった事だろう。
「…いや、本当に良かったよ。
これも、こちらと向こうの『初代』の絆があってこそだ」
「…私も、その話は聞いた事があります。
確か、両者とも若かりし頃は星の海を渡る『船乗り』でしたよね。
ーそして、当時は凄まじい危険が伴う宇宙に両者が飛び出た理由は…かの『秘宝』を探す為だった」
「ああ。…お互いが出会ったのは、それこそ『天文学的確率』だった。
けれど、どういう訳か『秘宝』を追い求める者同士というのは見えない引力によって引かれあうようだ。
そして、最初こそお互いは気が合わなかったが…かの『伝説の船乗り』が両者のクッションとなり、いつしか『彼』抜きで『兄弟』という間柄になったそうだ」
「…いや、何度聞いても驚きですよね。双方の初代同士が果てしなく広い銀河で出会った事もそうですが、友好が結ばれた裏に『伝説の人物』がいた事が未だに信じられません」
「…全くだ。
まあ、私としてはその『後継者』と彼が頼りにする味方が此処に居る事が信じられないが」
「…ですね。
なんか、ラッキーなのかアンラッキーなのか分かりませんね」
「…まあ、こうして開催の準備が着々と進んでいるのだからラッキーだと考える事にしようではないか」
「…はい」
そんなやり取りをしながら、プロデューサーと部下は店の外に出るのだった。
ーまさか、この後『不運と幸運』とが同時に降りかかるなど知るよしもなく。