ー…良し、行くか。
ラバキア3日目の朝。身支度を整えた俺は、ルームを出て足早にエレベーターに向かう。
「ーあ、おはようございます。『リーダー』」
「おはようございます、キャプテン・ブライト」
「…おはよう」
「おはようございます」
すると、やっぱりミリアム率いる『トレーニングチーム』と出くわした。
「おはようございます(…まあ、アイツは『インドア』だからしゃーないか。それに、昨日は遅くまで『作業』をしてくれていたし)」
ヒューバートは居ないが、俺も彼女達も特に気にしていない。
ー何故なら、彼が『ラーニング』の為に頑張っている事を知っているからだ。…実は、『ラーニング』には彼の『スペシャル』な端末の力を借りているのだ。
勿論、プログラムは『主』である彼とカノープスの『No.2』であるカノンとが協力して組み上げたモノだ。…まさか、プログラム作成が出来るとは思わなかったな。
そういうのも、『情報屋』の必須スキルなのだろうか?
「ー…あ」
そんな事を考えていると、イアンがエレベーター到着を教えてくれたので考えるのを一旦止め、ミリアム達と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
「ー…いや、それにしても本当に『有難い』事ですね」
そして、エレベーターが降下を始めるとエリゼ博士がポツリと言った。…本当に、そう思う。
ー実は、つい先ほど警備部隊から『クイズ参加者も極力外出を控えるように』との通達が来ていたのだ。…ただ、ライバルとかともかく『俺達』としてはちょっと困る。
何故なら、『カノープス』の日課である『早朝ランニング』が行えないのだから。…まあ、『原則』だから今回のようなイレギュラーの場合は、無理にやる必要はないのだがー。
「ー…正直、落ち着かないから助かった」
「…ですね。特に、今日のような大事な『イベント』の時ほど『ルーティーン』をやらないと、凄く緊張しちゃうんですよね……」
すると、ランスター達は俺とおんなじ事を口にした。…まあ、そういう訳だ。
「…実は、私も『そっち』のタイプなんですよ。
今でも、『休養日』とかはホント体がムズムズして…」
「…あー、分かります」
『指導役』の2人も、ウンウンと頷きながら同意した。…なんつーか、『ファイター』って同類の集まりだよな。
ーそんな、体を動かさないと落ち着かない俺達の元にファロークスの若様…ヨーランさんからこんなメールが来ていた。
『ーもし宜しければ、弊社のトレーニング施設を使って下さい』…と。
まあ、元々契約書に記載されていた内容だが…改めて向こうから申し出てくれるとは思わなかった。…というか、何で彼はウチのルールを知っていたのだろうか?
『ーパーキングデス』
ちょっとした疑問を抱いていると、エレベーターは地下パーキングに到着した。…後で、当人に聞いてみよう。
『ーおはようございます』
とりあえずそう決めて、メンバーの後に続いてエレベーターを降りた。…すると、既に『サポーターチーム』が連絡口で待機していた。
『おはようございます』
『それでは、どうぞ』
挨拶を返すと、彼らは丁寧な所作でサイドカーを指し示した。
「ーお疲れのところ、ありがとうございます」
『…とんでもないです。
ー『リーダー』、乗車完了』
俺は、例によってウェンディ少尉の所に行く。…とりあえず、感謝の言葉を掛けると少尉は少し嬉しそうにしながら『大丈夫』だと返して来た。
そして、少尉は直ぐに切り替えて報告を出した。…てか、俺達の『ニックネーム』も決めていたんだな。
『ー了解。
それでは、もう少々お待ち下さい』
それから少しして、イアンと『移動チームのリーダー』であるレオノーラ中尉が乗っている『ウマ』が最初に動き出した。
その次に、アイーシャとクレア少尉のペアが動き出し…俺と少尉は3番手で動き出した。
そして、1つ後ろにはミント准尉とエリゼ博士が。最後尾は、フィオナ准尉とミリアムだ。…いや、本当に『配慮』が行き届いている。
まあ、ミリアムやエリゼは男性隊員でも大丈夫だろうが…『ランスター』は多分『ストレス』になると判断したんだろう。
ちなみにだが、ヒューバートの担当は情報班のカリファ少尉だ。その理由は、『ヘビ』とヒューバートの『デバイス』…『ラサルハグェ』の仲介者としての役割を少尉が担っているからだ。
ーこの前の『ナイヤチ』でのトラブル以降、『ヘビ』と『ラザルハグェ』は急速にリンク率が上がり続けている。…『カノープスリンク』以外で、こんな事になるのは初めてだからカノンは少しばかり驚いていた。
勿論、俺もそんなには驚きはしなかった。…だって、『両者』共元々は『1つ』であったかもしれないのだから。
だから、『ヘビ』と協力して『サイバーダイバー』が出来て強硬偵察役も出来る少尉が彼の移動担当になったのだ。
『ーおはようございます、皆さん』
そして、俺達は朝日が昇り始めた地上へと出た。…そのタイミングで、ヘルメットに内臓されたスピーカーから挨拶が聞こえて来た。
『おはようございます、ユリア副隊長』
同時に、『ミドルレッグ』が進行方向にある交差点のライトサイドから現れ『ウマ』の列の前にポジショニングした。
『それでは、-テスト会場-まで先導させて頂きます』
『お願いします』
そして、俺達はそのまま『ミドルレッグ』の後に続いた。
ー…本来なら、『リトル』の隊列だけで行く予定だったのだが『万が一』の為にこうして『SPチーム』指揮官殿が現場入りする事になったのだ。
勿論、あの中には残りのメンバーも待機している。
『ー…朝早くて良かった』
『…ええ。日中だったらさぞ目立っていたでしょうね』
すると、ランスター達はポツリとそんな事を言った。…全くだ。…はあ、とにかく『ミッションコンプリート』を急ぐとしよう。
ー多分、『今日の夕方』から進展があるだろうから。
俺は心中で2人に同意し、迅速な『トラブル解決』を改めて決意する。…勿論、その為には必要な『ピース』を揃えなければならないがー。
『ーそういえば、本日-ファーストステージ-が終了したらキャプテン・オリバーは宇宙港に行くのでしたね?』
『…え?』
『…そうなですか?』
『…初耳』
『……』
ふと、副隊長は予定を昨夜告げた『予定』を再確認して来た。…当然、『クイズメンバー』はビックリしていた。
『…実は、今日の夕方俺の-義伯母様-が来るんだよ。
んで、今は危ないから俺と複数名で出迎えする事になったんだ』
『…-義伯母様-?』
『…誰?』
『ーシュザンヌ=レーグニッツ様。
私が所属していた、セサアシス部隊隊長のグラハム=レーグニッツ少佐のお母様です。
そして、キャプテン・オリバーの従姉であるカーリー様はレーグニッツ家に嫁入りしましたので、-親戚-の関係になるのですよ』
まあ、メンバーは更に疑問を浮かべるが…すかさず事情を知っているウェンディ少尉が説明した。
『…へぇ~』
『……ちょっと待って下さい。まさか、-その人-ってー』
『ー正解。-蒼の銀河-のエピソードで出てきた-地元海軍の若いお嫁さん-は、シュザンヌ義伯母様の事さ』
すると、『姉』はそれだけで答えを導き出した。…そして、恐らくー。
『ー…そんな気がしていました』
案の定、『もう1人のファン』も気付いていたようだ。…ホント、熟読してくれているんだな。
『…いや、凄いですね』
『…正直、ちょっと引いた。…でも、なんでその人が?
まあ、応援ってのは分かるけどちょっと-早く-ない?』
『ファン』の記憶力に、ミリアムは感心する。一方、『弟』はちょっと引きつつ…『理由』を聞いて来た。
『…それなんだが。
ーなんでも、義伯母様は昔ラバキアテレビ局で長期間仕事をしていたんだと。しかも、テレビ局スタッフの家族…特に奥様方と友人関係になっていたそうだ』
『…へ?』
『……』
『…なるほど。…つまりは、ご友人を励ます為にこんなぬ早くに現地入りをした訳ですか』
理由を語ると、ミリアム以外はポカンとした様子になった。
『…正解。…流石軍人の家の女性だけ、あって凄い行動力だよな。
…けれど、ご家族は相当心配されていてな。だから滞在中は、俺達でしっかりガードする事になった。
済まないが、頼んだ』
『了解』
『お任せを』
最後に、『追加オーダー』を出すとメンバー全員は快く返事をしてくれたのだったー。