ーそれから数時間後。『朝の日課』を終えた俺達は『会場』にて開始を待っていた。
「ーおはようございますっ!すいませんっ!」
『おはようございます』
すると、『指定の時間』ギリギリでヒューバートが駆け込んで来た。…勿論、カリファ少尉には大分早くに『連絡』をしておいたがこんなにギリギリになるとは。
やっぱり、交通規制の影響で主要道路は異常に混雑していたのだろうし『抜け道』も厳しかったのだろう。
「…いや、ご心配をお掛けしました……」
そして、彼は物凄く申し訳なさそうにしながら空いているシートに座る。
「いえ、『サポーター』が居るからそんなに心配はしていませんでしたよ」
そんな彼に、俺は同席している若社長に視線を向けながら返す。…まあ、どこもかしこも混雑していると予想しているなら、『比較的混まないルート』を割り出しておくまでだ。
ーそれにしても、まさか『ルリームイール内の車両通行可能なルート』を網羅しているとは恐れ入る。
「…っ。本当にありがとうございます。
それから、カリファさんも『お礼を言っておいて下さい』と言っていました」
「お役に立ててなによりです」
『ー試験会場、並びに全スタッフへ通達します。
テレビ局スタッフ、ならびに採点役の方がおみえになりました』
そんなやり取りが行われる中、スピーカーからアナウンスが流れる。…っ、いよいよか。
「ー…いよいよですね。どうか、頑張って下さい」
『ありがとうございます』
すると、若社長は静かにエールを送って来た。…やはり、こういう所はお父上に似ているな。
ーそれから数分後。『会場』のドアが開きスーツ姿のテレビ局スタッフ2名と……え?
「ーおはようございます、『プレシャス』の皆さん」
「おはようございます。
ーまずは、簡単に自己紹介しましょう。
私は、歴史研究機関『ヒストリーサーチャー』にて代表を務めさせて貰っているフランツ=アルファイドと言う者だ」
ただ1人唖然とするなか、スタッフと初老の男性…『ヒストリーサーチャー』のトップが挨拶した。
『ーっ!?』
「………」
まさかそんなVIPが来るとは思ってなかったメンバーと若社長は、凄くビックリする。…ああ、そういえば『こういう人』だったな。
俺は、『トップ』の相変わらずな性格…ご自分の『肩書き』に無頓着なところに呆れつつ、変わっていない事に安堵していた。
「ー……えっと、ですね。実は、教授自ら皆さんの採点役を名乗り出たのです」
「…な、なるほど。
ーっ!そうだ、『コレ』をお渡ししなければなりませんね」
そんな中、スタッフはなんか申し訳なさそうに事情を説明した。…すると、若社長だけが相槌をうち直ぐに『データ』を渡すべく行動を始める。
「ああ、すみません。…それでは、確認させていただきますー」
それを受け取ったスタッフは、自分のタブレットで『確認』する。…まあ、問題は無いハズだがちょっ緊張するな。
「ーはい、『確認』完了しました。
それでは、今からタブレットを配布致します」
およそ15分後。無事に『確認』が終わり、スタッフはそう言った。すると、リュックを背負ったもう1人のスタッフが準備を始める。
「ーはい、どうぞ」
「ありがとうございます」
そして、2人のスタッフは手分けして俺達の前にタブレットを置いていった。
「ーそれでは、開始までもうしばらくお待ち下さい」
「さて、そろそろ私は退室するとしましょう。
ー楽しみにしていますよ」
『お疲れ様です』
それが終わったタイミングで、若社長は『通過』を信じて『会場』から退室した。
『……ー』
それから開始までの間、沈黙が『会場』を支配する。…けれど、俺達に不安はなかった。
「…皆さん、落ち着いていますね」
「もしかして、自信アリですか?」
そんな俺達の様子を見たスタッフ達は、ふと言葉を掛けてくる。
「ええ。
ー何せ、しっかりとスタディと『リハーサル』をしましたから」
「「…っ」」
「……。…素晴らしい。
君達のような若者が、今回の『イベント』に参加している事が嬉しい」
すると、スタッフ達は少し意外そうにしていた。…けれど、『教授』は感心していた。
『……』
「まあ、ほとんど『ボス』が準備してくれたんですけどね。
けれど、私も『より深く』スタディ出来たので助かりましたよ」
メンバーが恐縮する中、俺は代表して『裏側』をちょっとだけ口にした。
「…な、なるほど……」
「…本当、とんでもない方のようですね」
「……。
ー本当に、君は『優秀な生徒』だな」
スタッフ達は、少しばかり驚いていた。…すると、『教授』は心からの称賛を口にした。
「「…へ?」」
『……はい?』
まあ、当然俺以外は唖然としてしまう。…出来れば、『ネタバラシ』は『ファーストステージ』の後にしたかったがしょうがない。
「……えっと、もしかしてお2人は『師弟関係』なのでしょうか?」
「「…っ!」」
すると、右隣に座るミリアムが切り込んで来た。…その更に左隣に座るランスター達はハッとする。
「そんな大層な関係じゃありませんよ。
単なる、イチ『生徒』と『教諭』の関係です」
「そうだな。私も、彼以外にも複数の生徒を教えていたし彼だけ『えこひいき』にした事もない」
けれど、俺と教授は揃って首を振った。…確かに、教授も『先生』の1人だがこの人とマンツーマンではやらなかったしな。まあ、それは『だいたい』の先生もそうだったが。
「…そういえば、以前局長から『教授は昔-サテライトスクール-でティーチャーをしていた』と聞いた事があります」
すると、年配のテレビ局スタッフがそんな事を言った。
「ああ。そういえば、マギー『君』も随分と優秀な生徒だったよ。
しかし、あれから数年で『キー局』の長になるとはな…」
それを聞いた教授は、懐かしむように呟いた。そして、局長の躍進に驚いて…いや、ちょっと待ってー。
『ー……』
教授の言葉に、再び関係者は唖然とした。
「…アルファイド先生。それは、貴方も同じですよ。
ー貴方だって、今や『名だたる歴史研究機関』のトップじゃないですか」
「…そういえばそうだったな。いや、どうにも『研究以外の事』には無頓着になっていけないな」
『生徒』の俺が突っ込むと、『先生』はふと思い出したように言った。…はあ、本当に相変わらずだ。
『ーお知らせします。
間も無く、-プレシャス-の皆様がファーストステージに挑まれます。手の空いているスタッフは、心中でエールを送りましょう』
『ー……っ』
やれやれと思っていると、再びアナウンスが流れた。…いつの間にか、5分前になっていた。
まあ、良い感じにリラックス出来たから『ヨシ』か。
「ーっ!そ、それでは、端末を起動して下さい」
『はい』
すると、先程までポカンとしていた若いスタッフは慌てて端末起動の許可を出したので、俺達は一斉に端末を起動する。
「制限時間は、1ジャンル『50分』です。
それと、『ファーストステージ』中何かありましたら直ぐに挙手をお願いいたします」
『はい』
一方、年配のスタッフは真剣な表情になり、最後の注意事項を告げた。…勿論、俺達は既に真剣な表情になっていた。そしてー。
『ーファーストステージ開始まで、カウント10。
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0』
「それでは、『ファーストステージ』開始」
ご丁寧にカウントダウンまでして貰い、直後開始のコールがされるのだったー。