ーSide『ガーディアン』
ーオリバー達が、『ファーストステージ』にチャレンジしている頃。第1遊撃部隊隊長のオットーと情報班からなる『セーフティチーム』は、借りているルームにてミーティングを行っていた。
「ー…なるほど。ありがとう、少尉」
「いえ」
つい今しがた、送迎をしていたカリファによる市街地の様子を聞いたオットーは困った表情になる。
ー原因は、『メインステージ』当日の交通規制だった。…現在、市街地の混乱は大体収まって来たが恐らく『メインステージ』の時はルリームイールのみならず近隣の星系、更にはチャレンジャー達の近親者達が来る事で相当な混雑が予想される。
勿論、その場合も交通規制をするのだが…今回はテレビ局の周囲はかなりの厳戒体制になるだろう。間違いなく身分確認と『シートチケット』確認が行われる。…つまり、その分渋滞が発生しやすくなるのだ。
そうなると、送迎開始時刻や送迎ルートをキッチリ決めておく必要がある。
しかも、送迎ルートは万がイチを想定し複数用意しておかなければならないのだ。
「ー…本当に、ファロークスには感謝しないとな」
けれど、隊長やセーフティチームは少し困っただけだった。…何故なら、ファロークスから『手厚いサポート』を受けているのだから。
「…ですね。
まあ、面倒な事には変わりないですが大分ラク出来ますから。
とりあえず、『幾つか』準備しておきますよ」
セーフティチームのサブリーダー…イリーナは、隊長の言葉にやや苦笑いを浮かべながら同意する。
そして、自ら進んで『ルート作成』をやると言った。
「…まあ、一番良いのは『メインステージ』までに今回の『トラブル』を解決する事なんですがね」
すると、隣に座る捜査担当の纏め役…レナートは至極当然で…けれども非常に難しいかもしれない事を口にする。
「…全くだ。
ーただ、もしかすると本日の夜には捜査が進展する可能性がある」
『……』
「…いやー、相変わらず『ボス』に敵いませんね~。
ーまさか、重要参考人の『ご友人』が非常に身近に居る方だったんですから」
捜査リーダーは、『プラトー』の人脈に改めて驚愕していた。
「…本当に、『彼』には驚かせれるな。
ただ、彼ばかりに頼っている訳にもいかない。『ご婦人』が到着されるまでの間、可能な限り解決に近付けるようにしよう」
『了解』
隊長の言葉に、メンバーは力強く頷いた。…何故なら、彼らに与えられた『役割』や『存在意義』は『僅かでもプラトーの負担』を減らす為なのだから。
「…では、此処からは諸君が気付いた『可能性』を報告してくれ」
「…私から宜しいでしょうか?」
『…っ』
「…ほう、なんだ?」
すると、真っ先にレイラが挙手する。当然、隊長や他のメンバーは興味深そうにした。
「…まず、私は昨夜も『例のパブ』へ調査に行きました。
ーそして、『例のグループ』の隣のテーブルに居たと思われる2人組みの客が隣に座ったんです」
『…っ』
「…まあ、その2人は既に酩酊状態だったのでちょっと信用出来る情報ではないと思い昨夜のミーティングでは口にしませんでしたが」
「…私からも、『今日』口にするように言っていたんです」
彼女は、少し申し訳なさそうに報告する。勿論、サブリーダーはフォローを入れた。
「いや、懸命な判断だと思う。…それで、肝心の内容は?」
隊長も咎める事をせず、むしろその判断を称賛した。…そして、一番肝心な事を確認する。
「…えっとー」
すると、彼女は液晶付きの小型デバイスを取り出し操作した。…そう、彼女は対象の『雑談』をメモしていたのだ。
ー勿論、その場でメモする事はせず…完璧に『記憶』し後にメモに起こしたのだ。
「『ーウィック~…。…あ、今日は何か嫌な空気がしないな~?』」
少しして、彼女はその人物を『トレース』した状態…すなわち『ボイスアクト』しながら始める。
「『…そういや、そうだな~?……あ、この間の-同窓会連中-が居ないからじゃないか~?』」
『ーっ!』
そして、彼女…『その人物』は重要なキーワードを告げた。
「『…本当、あん時はやけにピリピリしてたよな~……。…まあ、実際は-ほんの2人-だが』」
『………』
「『…確か、妙に-若作りなオッサン-と-恰幅の良いオバサン-がすんげえ顔してたよな?』」
『………』
「………」
おまけに、最重要なキーワードが…それも『2つ』も出てきた。
「『…ああ、まるで-親の仇でも見るような-顔だったな……。
本当、何があったんだろうな?』
ーその時、2人の元にオーダーした品が来たので会話は一旦そこで打ち切りとなりした。そして、その後2人は『話題』を口にせずに飲食を終え店を出ました。
…一応、直ぐに2人をスニーキングしたのですが2人は取り留めのない会話を続け、やがて解散しました。
ー以上です」
「…そうか。…ありがとう、少尉」
「恐縮です」
「さて、諸君はどう思う?」
彼女がシートに座ると、隊長はメンバーに聞いてみる。…当然、全員『あり得る』といった表情をしていた。
「…私も、皆と同意見だ。
ー他に、報告したい者は居るか?」
「ー宜しいでしょうか?」
すると、モンドが挙手をする。
「ああ」
「ありがとうございます。
ー私は、昨夜『例のファクトリー』の周辺にて調査を行いました。…まあ、1体の『ネズミ』とだけで行った簡易的なモノですが。
ーけれど、それが功を奏したのか関係者と出くわしました」
『……』
彼の報告に、全員が食いついた。…すると、彼は小型デバイスを取り出した。
「私は、念のため『ボイスメモ』を使い彼らの会話を記録しました。
ーこちらをお聞き下さい」
そして、彼はボイスメモをリプレイする。
『ー…はあー、マジで疲れた』
『…だな。-2日前の急な休み-のせいで、今日まで星になるほど大変だったよ』
『ーっ!』
開始数秒で、関係者はかなり気になるワードを口にした。
『…結局なんだったんだろうな。ファクトリーベッドは、-上からのオーダーだ-…としか、教えてくれなかったし』
『…本当、お偉方は現場の事を分かっちゃいないな』
『…全くだ。…しかも、どういう訳か-昨日の騒ぎの元-はウチでメンテナンスしているテレビ局の社用カーだった訳だし』
『…はあ。政府と星系軍がフォローしてくれたおかげで、信用に傷がつかなかったのが幸いだが……。…そんな状況にも関わらず、-上-は何にも言わないし』
『…ホワイトなカンパニーだと思っていたが、ちょっと別なトコに行こうかな。
今は独身だし、住む星を変えるのも気楽に出来るし』
『…はあ、独り者はこういう時良いよなー』
そして、2人の話題はそこで別なモノになったので彼はボイスメモを停止した。
「ー以上です。…尚、まだ『憶測』の段階ですので当人達やファクトリーには聞き込みは行っておりませんので、自分も昨夜の報告では出しませんでした」
「ああ、分かっている。ありがとう、少尉」
「恐縮であります」
「…こうなると、やはり『聞き込み』が必要になって来ますね……」
「そうだな…。
ー分かった。とりあえず、『彼』に提案をしてみよう。…ただし、慎重に動かなくては『情報提供者』は勿論我々も危険に晒される可能性がある。
なので、もし許可が出た場合は今以上に場所やタイミングに十分注意して行うように」
『はっ!』
隊長の言葉に、全員が真剣な表情で敬礼した。
『ーっ…』
すると、ちょうどそのタイミングでスピーカーからベルのメロディが流れる。…どうやら、『最初のジャンル』が終わったようだ。
「良し…ー」
なので、すかさず隊長はオリバーにメールを転送するのだったー。