「ー終了です。ペンをおいて下さい」
終了を告げるベルのサウンドがルーム内に響き、それと同時に年配のスタッフがオーダーを出した。
「それでは、タブレットを回収します」
そして、直ぐに若いスタッフが俺達のタブレットを回収していった。
「以上で、『ファーストステージ』を終了します。お疲れ様でした」
『はい』
それから、年配のスタッフは終了をコールする。なので、俺達は速やかにルームを出た。
ー何故なら、これからこの『会場』で採点が行われるからだ。
なんとも、ムダがないやり方である。
「ーさて、これから『約束の時間』まで自由時間としましょう。…あ、出来ればランチは一緒に食べましょうね」
何はともあれ、俺は歩きながらこれからの予定を告げた。…まあ、多分誰も『自由』には過ごせないだろうが『ポーズ』は必要だろう。
『了解』
無論、全員それは分かっているが誰1人顔や口に出さなかった。
ーそして、全員でエレベーターに乗り…俺だけ直ぐに降りた。…すると、イリーナ班長が待ってくれていた。
「ああ、すみません…『班長』さん」
「いえ、お気になさらず。
それでは、ご案内します」
「お願いします」
`軽く頭を下げると、班長も会釈してから案内を始める。…しかし、流石は『プロ』だけあって自然体で演技しているな。
「ー…そういえば、『第1関門』の方はどうでしてか?」
班長の『立ち振舞い』に改めて驚いてていると、ふと当人は『ファーストステージ』の事を聞いて来た。…どうやら、かなり気になっていたようだ。
「まあ、自己採点は特に問題なかったですから『自信』はありますね」
「…っ、それは何よりです。
…その、他の方達はどうでしたか?」
すると、班長はメンバーの事も聞いて来た。なので、俺は『自信』を持って返す。
「勿論、彼らも随分と自信満々でしたよ」
「……。…良かった」
それを聞いて、班長はようやくホッとした。…有難い事だ。
「…っ。
ーイリーナです。キャプテン・オリバーをお連れしました」
そうこうしている内に、目的のルーム前に着いた。すると、班長は『ファーストネーム』で名乗り任務を告げる。…多分、これは第1で決めたやり方だろう。
『はい、どうぞ~』
それに応えたのは、カーバイド大尉だった。…こっちは、上官に対して『ユルい』口調で返した。いや、本当に畏れ入る。
「ーお疲れ様です、キャプテン・オリバー」
『お疲れ様ですっ!』
そして、ルーム内に入り…ドアが閉まった直後オットー隊長率いる『セーフティチーム』が敬礼で出迎えてくれた。
「ありがとうございます」
俺はお辞儀をして、ラウンドテーブルの空いているシート…隊長とイリーナ班長の間に座る。
「…それで、『相談したい事』とは?」
直後、俺は『エージェントモード』になり第1ジャンルの終了後に来たメールの事を聞いた。
「実はー」
そして、隊長は先程のミーティングの内容を端的に伝えて来た。
「ー…なるほど(…驚いたな)」
俺は、正直驚愕していた。まさか、こんなにもピンポイントな『解決への手掛かり』をこんなに早く入手しているとは、思っていなかったからだ。
『……』
ふと、彼らを見ると『役立ちたい』という意思を感じた。…本当に、素晴らしい『プロフェッショナル』達だと思う。
だから俺はー。
「ー…ありがとうございます。とても、『重要な手掛かり』です」
「…っ!」
『……っ』
ハッキリと、彼らに礼を告げた。…すると、彼らは分かりやすく喜びを露にする。
「早速、警備部隊の捜査チームに情報を共有するとしましょう。…勿論、『事情聴取』を行って貰うようにも頼んでおきます」
「っ!分かりました。
ではー」
そして、『OK』を出すと隊長は直ぐに預けていた俺の『仕事用』の端末を取り出し、渡してくれた。
俺はそれを受け取り、地上警備部隊へ通信を始めるー。
「ーええ。それでは、どうかお任せ下さい」
それから数分後。捜査の責任者と情報交換しつつ『方針』を決めていく。…勿論、向こうは『聞き取りOK』と言ってくれた。
しかも、向こうはこちらに聞き取り中への『協力』を頼んで来たのだ。…多分、昨日の件が原因だろう。まあ、こちらとしては凄く有難い。
ーその後、いろいろと細かい事を決めていき…それが終わる頃に『俺向け』のアナウンスが流れた。
「ーでは、『行って来ます』」
「ええ。お疲れ様です」
『お疲れ様です』
そして、俺は再び『会場』へ『結果』を聞く為に戻るのだったー。
○
ーSide『マダム』
「ー………」
ラバキアのイーストエリアにある、高級住宅ブロック内のとある邸宅…『クイズ番組』のプロデューサーの妻であるその人は、誰にも言えない悩みを抱えていた。
ーそれは、今商業ブロックで発生している『テロ』に関係していた。…いや、『原因』は自分にあるのかとさえ考えていた。
発端は、数週間前。彼女は久しぶりに、以前勤めていた職場の友人達と商業ブロックにあるパブで同窓会をしたのだ。まあ、当然アルコール有りだったので皆随分と盛り上がった。
…それだけなら良かったが、旧友の1人が彼女に言い寄って来たのだ。当然、彼女は家庭の身だ。
『ー止めて下さい。私は、貴方とお付き合いは出来ません』
…そう言って、キッパリとその男と離れた。…けれど、男は執拗に迫って来た。勿論、他のメンバーも止めたが男は聞く耳を持たなかった。
ーそして、彼女もまたアルコールが十分過ぎるほど回っていたので…つい頭に血が上り男に強烈なビンタをしてしまったのだ。
『ー不愉快です。失礼します』
その怒りのまま、彼女はシートを立ち上がり先に帰ろうとした。
ーその時、ビンタされた男と同性の旧友の1人と目が合ったが…片方は呆然としと片方は嫉妬に満ちた顔をしていたが、彼女は苛立ちのまま2人を激しく睨み付け友人の制止も振り切り本当に帰ってしまったのだ。
そして、帰宅後酔いが覚めて来るにつれ自分の行動を猛省し翌日直ぐに謝罪しようとしていた。
ーしかし、連絡を取ろうにも全く繋がらずいたずらに時間だけが流れて行き…そして、ついこの間『トラブル』が発生した。
勿論、最初彼女は『無関係』だと考えていた。何せ、旧友の2人に『そんな事をする諸々の余裕』事を知っていた…いや、どんな事があっても自分や旧友達は『正道を踏み外さない』と信じていたからだ。
けれど、『脅迫文』アップロードされた日。…なんと、彼女の元に『差出人不明』の郵便物が届いていたのだ。
その中身は、電子レターで…内容は彼女への罵詈雑言から始まり最後にはー。
『ー後悔させてやる。
…そして、万一このレターを誰かに見せり-あの日の事-を誰かに話したりしたらら-もっと恐ろしい事-を起こしてやる。』…という一文で締めくくられていた。
当然、彼女は気付いてしまう。
ーこれが、『誰』によって書かれたのかを。
勿論、彼女はレターに書かれた『脅し』に従いレターの存在も『あの日』の事もひた隠しにしてきた。
(ー…私は、どうしたら……)
その行いは、真面目な彼女に罪悪感を。そして、『自分のせいで夫やテレビ局に迷惑が掛かっている』とさえ思っていた。
(……っ)
そんな、追い詰められている彼女の耳に通信デバイスのコール音が鳴る。…なので、彼女は何とか気持ちを切り替えて通信に出た。
「ーはい、どちら様ですか?………え?」
『久しぶりね』
直後、彼女は唖然とする。…何故なら、その相手の顔を見るのは随分と久しぶりだったのだから。
そして、『相手』とのやり取りの中で彼女はいつの間にか静かに涙を流したのだったー。