「ーそして、問題は次です」
『……っ』
…けれど、モニターに『現場』のフォトが写し出された瞬間ルーム内はまるでグラビティフィールドのような、重苦しい空間と化した。
「18:02分。現場付近をパトロールしていた第7機動隊がD-25ブロックへ急行する途中…突如、通信が途絶しました。
しかし、モニター上では『ノープロブレム』の判定が出ていました。…ですから、直ぐに他エリアへ応援要請を出そうとしていたら急に通信が復帰したのです」
『……』
「…ありがとう。
ーでは、現場の状況について『当事者』に話を聞こうと思う。…エージェント・プラトー、宜しいか?」
報告が終わると、ミーティングメンバーの視線は自然と俺を向いた。…そして、この基地の責任者が説明を求めて来た。
「了解しました。
ーまず、お手元のタブレット内の『調査データ』をお開き下さい」
『……』
俺は立ち上がり、最初にそう言う。すると、直ぐに全員がタブレットを操作し始めた。…今回の『ヤツ』は、いつも以上に憶測が混じるのでこういう形にした方が説明しやすいからだ。
『……っ』
「データにあるように、機動隊を無力化したのはその『キャット』です。
体長は、115センチ程度。帝国に多く生息するビッグサイズのキャットとほとんど同じくらいですね…。
勿論、その種類…いや、全てのアニマルには額の部分に『クリスタル』なんてありませんがね…。
ー間違いなく、『連中』が生み出した生物兵器でしょう」
『……』
俺の自信に満ちた断言に、メンバーは目に怒りを宿す。…まあ、これに関しては言っておかないと『話』が進まないからな。
「…そして、その『クリスタル』こそが最大の原因でしょう。
…尚、ここから先の説明は憶測が混じりますのでご了承下さい」
『……』
すると、メンバーは静かに頷いたので俺は説明を続ける。
「それでは、ページをスクロールして下さい。
そこには、現段階で判明している『クリスタル』の機能が記載しております」
『……っ』
『それ』を見たメンバーは、言葉を失った。…正直、俺自身今も半信半疑だったりする。けれど、『そう考える』といろいろと考えやすくなるのだ。
「第1に、『認識阻害』。すなわち、自分の姿を他人に認識出来なくなるモノです。
誰にも気付かれず車両に潜り込めたのも、『これ』が原因でしょう。
第2は、『強制催眠』。これによって、隊員達は無力化されたのでしょう。…そして、恐らくはこの機能は『これだけ』でない気がします」
「…というと?」
「…既に、機動隊の隊長殿から報告を聞いていると思いますが『メンバー』が現場で交戦した『レプリカ』は、ここ部隊で管理している個体でした」
『………』
すると、ミーティングメンバーは非常に悔しそうな顔をした。…そう。つまり、『味方』になったハズの『レプリカ』が敵対行動を取っていたのだ。
「(…本当、マジで驚いたよ。…まあ、機動隊に着いてるハズの個体がいなかったから受け入れざるを得ないんだが。)
恐らく、突然の『反逆』には先程の『強制催眠』が関わっているのでしょう」
そして、俺は一番大事な『仮説』を告げる。…いや、本当『厄介なモノ』を生み出してくれなぁー。
「…つまりは、『洗脳』という事か?」
「…でなければ、『レプリカ』達が急に反逆はしないでしょうね。
ああ、既に『サポーター』によって正気になっていますのでご安心を。…ただ、『シールド』の作成は『間に合わない』でしょうね」
『……』
「…本当に、何から何まで済まないな。…しかし、エージェント・プラトーの所有する『かの船』でも難航しているのか……。
そうなると、『どう警戒』するかー」
俺の発言に、案の定ミーティングメンバーは呆気にとられ責任者は申し訳なさそうに感謝を示した。…そして、真剣な様子で悩み始めるー。
ー…っ、待てよ。…いくら強力な催眠といえど果たして直ぐに『レプリカ』を思うようにコントロールできるだろうか?
『キャット』の数は12体。それに対し、『レプリカ』は倍以上の数だ。…まあ、勿論『後ろ』でコントロールしてるヤツが居るだろうから問題はないんだろうが。
けれど、『レプリカ』には『アレ』…『オリジナル』と同様に『ハッキングカウンター』があるハズだ。
…ただ、『連中』が他のパラメーターを上げる為に弄っている可能性があるが、いくらなんでも『1回催眠』しただけでコントロール出来るとは考えられない。
むしろ、『見えない』のを良いことに……まさか?
いろいろと考えている内に、最優先で解決すべき問題の『打開策』が見えた。
「ー部隊長殿」
「…っ、何だね?もしや、対策が思いついたのかね?」
「ええ。…その、前に1つ謝罪を。
ーどうやら、私は重大な勘違いをしていたようです」
『……』
「…というと?」
突然の謝罪に、メンバーはおろか責任者も驚いた。
「『キャット』の潜伏タイミングですよ。
当初、誘導任務の直前に隙を見て乗り込んだと考えていましたが…それよりも数日前からの方が、『確実』なんですよ」
『………っ!?』
「…つまり、『キャット』は偶々現場付に居た警備部隊の車両に乗り込んだ訳ではなく、『最初から』潜伏していたと……?
ーっ!…ま、まさか、『我々』はいつの間にか『キャット』の被害に遭っているのか?」
『………』
すると、部隊長は自ら答えにたどり着いた。当然、メンバーも困惑する。…これはあくまで俺の想像だが、『洗脳』にしなかったのは数が限られているから。つまり、他の部隊や星系軍本部や政府に『気付かれるリスク』があるからだろう。
そして、こうして『気付けた』のは『1つの能力』を使った相手には『もう1つの能力』は完璧には効かない…と思う。
何にせよ、本当『まだ不完全』で良かった。
「……」
「恐らく、今のこの部隊に渦巻く『歪な使命感』も被害の1つでしょうね」
「……あ」
『……っ』
言葉を失っている部隊長に、ダメ押しとばかりにこの基地に着いてから感じていた事を口にした。…それがトドメとなり、ルーム内の空気はガラリと変わる。
「…そんな……」
「どうか、気を落とさずに。…それだけ、『連中』も『歪な進化』を遂げているという事です。
ーそして、そんな『恐ろしい状況』に対処する為に『私達』が居るのですよ」
「…っ」
『……』
俺が語る『脅威』に、メンバーはハッとしたり青ざめたりする。…そして、責任者はどうしようもない『力不足』を感じていた。
けれどー。
「ー勿論、貴方達のような『現地サポーター』の協力がなければ『私達』も最大効率で動く事は出来ません。…ですから、今後もサポートをお願いいたします」
『……』
俺は、誠意を持って深く頭を下げた。…すると、メンバーは唖然としていた。
「…お願いするのは、我々の方だ。
ーエージェント・プラトー。改めて、事件解決のご助力をお願いする」
『…っ!お願いします』
責任者の嘆願に、メンバーは1拍遅れて頭を下げて来た。
「…ありがとうございます。
ーですが、『互いにサポートする』為には真っ先に解決しておく事があります」
『……』
「…そうだったな。
ー済まないが、そちらはエージェント・プラトーに完全に押し付けてしまうな…」
「お心遣い、有り難うございますー」
そして、俺は直ぐにカノンに通信し『レスキューチルドレン・KIND』を派遣した。
そして、数時間後には基地内の全隊員の『催眠』を解除。それから日を跨ぐ頃には、全地上部隊の完全浄化が完了。…同時に、潜伏していたかなりの数の『キャット』を捕獲したのだったー。