「ーお疲れ様です、キャプテン・プラトー」
翌日昼頃。『セカンドステージ』を明後日に控えた俺は、ルリームイール宙域にある『隔離コロニー』に来ていた。
「お疲れ様です。…それで、『キャット』達は『どう』ですか?」
俺は返事をしてから、フェイスゴーグルを装着した監視職員に『進捗』を聞いた。…すると、職員は首を振る。
「…ダメですね。…現在導入されている『更正プログラム』では、効果が現れません」
「…そうですか(…やはり、『対策』をされているか)」
予想していたが、散々『痛い目』を見て来たからか『連中』は相当しっかりした『教育』を施しているようだ。…うーん。
俺は、頭をフル回転させて『プラン』を練る。
ー今やろうとしているのは、例によって『味方』を増やす事。つまり、『キャット』達を『サポーター』にしようとしているのだ。
勿論、既にブラウジス閣下の許可は得ているし『顔役』達にも報告済みだ。
では、何故そこまで『キャット』を味方にしたいのかと言うと、第1に単純に強力な『アビリティ』を持っているから。
使い方を考える、もしくは『アビリティ』そのモノを調整してやれば凄まじい『サポーター』になり…そして、いずれ行う『サーシェス壊滅作戦』に貢献してくれるだろう。
次に、第2の理由は…ちょっとした『杞憂』だ。
ー『連中』の事だ。…『失敗』だと伝われば、最優先かつどれだけの犠牲を払っても『キャット』達を取り戻しに来るだろう。
つまり、こちらにも相当の被害が出る可能性がある。…だから、味方にして彼らの管理者に『偽りの報告』をさせるのだ。
まあ、いずれはバレるだろうが『ミッションコンプリート』の時まで持てば問題ない。…何より、今までのパターンから予想して『連中』は『過信』しているハズだ。だから、かなりの確率で『大丈夫』だと思う。
そして、第3の理由はー。
『ー照合完了。問題アリマセン』
すると、スピーカーから電子アナウンスが流れた。…まあ、『こういう施設』だとチェックは厳重になるからな。
「それでは、『メンバーの方達』がお待ちになっているルームにご案内致します。
その後は、別の職員が『目的のルーム』までご案内致します」
「ありがとうございます」
そして、職員は後ろにある厳重なゲートのロックを解除した後…俺に連絡事項を伝えてくれる。…そう。此処には先に『クルー』が来ていたのだ。
「ーこちらです」
それから数分後。『第5ウェイティングルーム』という表記があるドアの前に着いたので、職員は横に退いた。
「ありがとうございました」
「では、私はここで失礼致します」
そして、職員は一礼し持ち場に戻って行った。それを見送った後、インターフォンを押しー。
「ーっ!あ、エージェントプラトー。お疲れ様ですっ!」
直後、ドアが開きウェンディ少尉が出て来た。そして、ルームの中にはー。
『ーお疲れ様ですっ!』
情報班所属のアーニャ中尉とミスティ少尉。…更には、支援班全員が居た。
「お疲れ様です、皆さん」
俺は中に入り、とりあえず空いているチェアに座る。その後、全員が座わった。
ーさて、何故彼らが居るのかと言うと支援班には『キャット』の輸送サポートをお願いしたから。そして、ウェンディ少尉と情報班の2人は…ちょっと『経験』をお借りしたくて呼んだのだ。
「ーそれにしても、エージェント・プラトーに『任務以外』で頼って頂けるとは光栄ですね」
「ええ…」
「なんとしても、期待にお応えします」
アーニャ中尉が率直な感想を口にすると、ミスティ少尉は頷きウェンディ少尉は張り切っていた。
「…ふむ。此処は、3人に任せた方が良いですかね」
「ですね。…まあ、もしも私達の力が必要ならば遠慮なく仰ってくださいね?」
一方、3人の様子を見たシン大尉は一任の姿勢を見せる。勿論、リエ中尉は同意しつつ協力を申し出てくれた。
「その時はお願いします。
ー…ところで、本当に道中は大丈夫でしたか?」
俺は軽く頭を下げ、気になっている事を聞いてみた。特に、『キャット』を観測していたアリオス『准尉』に視線を向ける。
「…っ。ご心配ありがとうございます。
輸送任務中、『対象』は随分と大人しかったですよ。…それと、終了と共に『トリ』が『ノープロブレム』と診断してくれたので」
すると、准尉は手短に報告をしてくれた。…どうやら、心配し過ぎだったようだ。
「いや、本当大人しかったですよね」
「ええ。正直、『スリープ』が切れてからは相当な時間が掛かると思ってましたが、凄くスムーズに任務を行えましたよ」
それに続いて、ステラ少尉とルネ准尉もコメントする。…少し気になるが、『味方』してから解明するとしよう。
ーそして、軽く報告をして貰っていると職員が来たので俺達その後ろに続いて『隔離ルーム』に向かった。
「ーこのドアの向こうに、『キャット』達が居ます。…では、監視ルームに参ります」
姿勢内を歩く事数分、俺達は複数の承認システムが取り付けられた厳重なドアの前で1度止まる。…当然、メンバーは若干緊張した。
それから、俺達は右に進み監視ルームに向かった。
「ーっ!お疲れ様ですっ!」
「座りで失礼しますっ!」
中に入ると、真っ先に壁に埋まる複数のモニターが見えた。そして、それらを監視する2人の職員が声だけで挨拶をして来た。…うわ、流石プロだな。一切、モニターから目を逸らしていない。
「こちらこそ、お忙しいところ押し掛けてしまい申し訳ありません。
ー…失礼します」
勿論、俺達は気にせずにゾロゾロとモニター手前まで近いていく。…そして、俺は声を掛けてから2人職員の間に入り真ん中のモニターを注視した。
ーそこには、3体の『キャット』達が居た。…どうして、それしかいないのかと言うとコイツらでいろいろ『試す』為だ。
勿論、適当に選んだ訳ではない。実は、あの3体は『リーダータイプ』らしいのだ。…つまり、上からの『オーダー』をグループに伝令する役割を持っているという事だ。
「…っ」
『……え?』
すると、モニターに映る『キャット』達がこちら見た。…まるで、俺達が来た事を察知したかのような反応に俺も後ろに居るメンバーも驚く。
「…恐らく、カメラが『自分達』に向いたからだと思います」
「…先程、市販のキャットフードをオートで出した時も『エサ用ドア』の前で待機していましたし。
いくら、大型種とはいえ『頭が良すぎる』気がします…」
「…私も同感です。…やはり、『連中』の所有する『システム』は常軌を逸しているようだ」
すると、右の職員は予想を口にする。そして、左の職員は驚愕のエピソードを語り怪訝な顔をした。
それを聞いて、改めて俺は『連中』に恐怖を抱いた。
「…我々も聞いてはいますが、現物を見たのは今日が初めてですよ」
「…こんな恐ろしい存在が、まだまだ居るのですか」
職員も、冷汗を流しながらモニターを見る。…さて、この驚愕的な存在をどうやって『味方』にするべきか。
「ー…っ。どうやら、私達の出番みたいですね?」
「「了解」」
俺が振り返ると、ウェンディ少尉と情報班の2人は一歩前に出る。
「…あの、1つ質問を宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
そして、まずアーニャ中尉が案内してくれた…恐らくモニター監視職員の上司に質問する。
「ありがとうございます。
ーまず、『更正プログラム』で使用したモノの『形状』を教えて頂けますか?」
「…分かりました。少々お待ち下さい」
中尉の質問に、彼は少し呆気に取られつつルームの端に向かう。多分、タブレットを取りに行ったのだろう。
ー実のところ、俺も『そこ』が気になっていた。…そもそも、『更正プログラム』の要は例の『好物』だったりする。
つまり、『美味しいエサ』を与える事でまずは俺達が『敵』ではないとラーニングさせるのだ。
そこから、本格的な『更正プログラム』が始まる。…勿論、1つラーニングする度に『好物』を与え『正しい事をすると-エサ-が貰える』という『2重ラーニング』をしていくのだ。
そして、早ければ1日で『レプリカ』は完全に『味方』になるのだ。
…けれど、裏を返せば『連中』の『レプリカ』への扱いが酷いという事だ。だから、もしかすると彼らは『過酷な場所から逃げたかった』のかも知れない。
「ーお待たせしました。…こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
そんな事を考えていると、職員はタブレットを抱えて戻って来た。そして、中尉にそれを渡したので俺もそちらに近いた。