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経験者

 ー…ふむ。

 タブレットの画面には、『好物』の形状がずらりとならんでいた。いずれも、『サポーター』達の好みのモノだった。

「…っ、『タイガータイプ』の好物もダメでしたか……」

 少ししてオートスクロールが起動し、ページが流れていく。すると、『ブロック状のミート』の形状をした物体…『テンペフルーツ』である。

 その名の由来は、単に『同名の古代食品』と形状が似ているだけでなく食感も栄養成分も非常に近しいからだ。

 まあ、こっちにとって大事なのは『ミートの食感に近い』って事だ。…うーん、やっぱ『タイガー』と『キャット』は別のアニマルと考える必要があるのか……。

「ー…うーん、キャットも肉食であるはずなんですけどね」

「ですよね。私の実家で飼っていたキャットのエサも動物性タンパク質多めのモノでしたし」

 すると、情報班の2人は口を開いた。

 ーそう。彼女達にサポートを頼んだのは、『これ』が理由だ。

 実は、今この場に居るメンバーは大のキャット好きなのだ。その上、ウェンディ少尉と情報班の2人と支援班長と班長補佐は飼育経験まであるのだ。


「ー……」

「…ウェンディさん。何か気になる事でも?」

「…っ、あ、えと……。

 …やっぱり、キャットの1番の好物って『シーフード』だと思うんですよね」

 そんな時、ふと少尉が何か言いそうにしていたので聞いてみる。すると、少尉は貴重な意見をしてくれた。

「…確か、『妹さん』の出身はブルタウオでしたね。エサも、シーフードがメインだったのですか?」

「…いえ、いつもは市販のモノですがバースデーの時は近所のフィッシャーマンの人が持って来てくれる、新鮮な魚なんですよ。

 だから、バースデー日は朝からソワソワしていて夜になるとヨダレをダラダラたらしてました。

 そして、最後は母の『待て』が解除された瞬間我を忘れて飛び付いてました」

 少尉は、懐かしむように語ってくれた。…きっと、大切な『家族』なのだろう。

「…確かに、ウチのコもフィッシュには興奮してましたね」

「…あー、ウチのは嗅覚が優れていたしマルシェが近かったから、フィッシュが運ばれてきた時は朝から騒がしかったですね」

 すると、支援班長と班長補佐も苦笑いしながらエピソードを口にした。…やはり、『経験者』が居るとスムーズだな。


「…なるほど、シーフードですか……」

「…?…ああ、ご安心を。

 ー私の『船』に今の情報を伝えれば、1時間以内に『モノ』が来ますよ」

「「「…っ!?」」」

「…いやはや、相変わらず準備が宜しいですね」

 当然、職員達は驚きメンバーは感心していた。

「…とりあえず、隣のルームを貸して頂けますか?」

「…え?あ……。

 ーどうぞ、遠慮なくご利用下さい」

 監視責任者に聞くと、一瞬戸惑うが直ぐに理解してくれた。…やはり、『キャット』が『見ている』前ではやりづらいからな。

 そして、俺は隣のルームに向かい通信を始めたー。



 ◯



 ーそして、ちょうど1時間後。『トリ』を引き連れたカノンが合流した。

「お疲れ様、カノン」

「恐縮です、マスター」

「…あの『トリ』達が抱えているボックスの中に『好物』が?」

「まあ、あくまで『試作品』なのでエネルギー含有率は低いですが。

 …あ、それで『エサの挿入口』は何処でしょうか?」

「っと、ご案内します」

「ああ、私達も手伝いましょう」

 質問すると、監視責任者は案内を申し出てくれた。それを見た支援班は、サポートを名乗り出た。

「あ、お願いします」

「助かります」

「では、エージェント・プラトー。お姉さんと妹さん達も一旦失礼します」

『失礼します』

『お願いします』

 互いに敬礼…ではなくお辞儀をした後、職員を先頭にしてカノンと支援班はルームを出た。

「ー…なんか、凄い統率が取れてますね」

「…っ」

「「……」」

 彼らが出た後、左に居る職員が感想を口にした。…当然、ウェンディ少尉はちょっと緊張する。一方、情報班の2人は平静を装った。

「ーそりゃ、『指導』が行き届いていますからね」

 勿論、俺も自然な感じで『本当』の事を口にする。


 ー実際、『プレシャス』では若手メンバー向けの様々な『勉強会』…例えば、イデーヴェスでやった『バトルトレーニング』やマナー講座、はたまたヒストリー学習なんてモノもある。

 まあ、それらはあくまで『自由参加』だが『団体行動』のルール講座だけは全員強制参加だ。


「ー…若手の『指導』まで、やっているんですか。本当に、しっかりしたグループですね」

「ええ。…まあ、発案は『顔役達』ですし講師に至ってはベテラン勢が自主的にやってくれているのですがね。

 なので、せめて私は『環境』を整える役割をかって出た訳です」

「…いや、それが最も大変ですよ」

 すると、右の職員はちょっと冷汗を流しながら言う。…まあ、『カノープス』があるからそんなに大変じゃないんだがな。

「ーっと。どうやら、班長とクルーの方々は目的地に着いたようですね」

 そうこうしている内に、コンソールの端にあるランプが点滅し単調なメロディが流れた。

 それから少しして、左のサブモニターに映りエサ用ドアがゆっくりとオープンしていった。

「ー…っ」

「…おや?」

 そして、そこから施設の作業ドローンが大型のエサ用皿を運搬しながら出て来たのだが…2人の職員は直ぐに『何か』に気付いたようだ。

「どうかしましたか?」

「…今、僅かですが『キャット』達が見せた事のない反応をしました」

「…え?…うわ、全く見てなかったな」

 左の職員の言葉に、俺達はメインモニターを見る。…けれど、『キャット』達は先程同様に静かにこちらを見るだけだった。

 多分、『プロ』である彼らだから気付けたのだろう。

 そして、運搬が終わったドローン達はルームから出て行きルーム内は静寂に包まれた。


「ー…うーん。…見たのは1度だけで、後はスルーしてますね」

「多分、『含有率』…いや『濃度』が低いからでしょう。でも、今までは知らんぷりだったのに『アレ』には僅か反応を見せたというのは、非常に良い傾向です」

『試作品』を置いて数分が経過しても、『キャット』達はそれらに見向きもしなかった。

「ーどうも。それで?」

「お疲れ様です。…搬入の際、僅かに反応しましたが後はスルーです」

「…ほう」

 そして、『試作品』を運んでくれたメンバーが監視ルームに戻って来たので右の職員は責任者に報告した。すると、責任者は興味深そうにした。

「ーそうですか。…では、次は『30%』のモノを出してみましょう」

 それと同時に、カノンはそんな事を言いながら専用の端末を操作した。

 ー直後、3つの大皿に盛られた『試作品』は瞬時に消え…そして新たな『試作品』がどこからともなく出現した。

「「「ーっ!?」」」

『……』

 当然、初見の職員達は凄くビックリした。…一方、俺やサブクルー達は瞬時に意味を理解すると共に彼女の準備の良さに感心していた。

「…っ、そうか。『サポーター』のシステムですね?」

「その通りでございます。

 あの皿には、『トリ』のシステムがインストールされております」

「…へ?…あ、という事は外に居る『トリ』とコンビネーションをしているのですか?」

「ええ。…それにしても、流石は俺の船の『マネージャー』だ」

「恐縮です」

「「「……」」」

 称賛の言葉を送ると、カノンは恭しくお辞儀をする。…それを見ている職員達は、ただただ驚くばかりだった。


「ーっ!今、右の『キャット』が皿を見ましたっ!」

「あ、左の『キャット』も皿を見ました」

『…っ』

 だが、流石は『プロ』というべきか職員は僅かな反応も見逃さなかった。…どうやら、徐々に『本能』に抗えなくなってきているようだ。

「…ふむ。マスター、此処は一気に『攻め落とす』のが最良と具申致します」

「そうか。

 ーなら、『1番良いのをブチ込め』」

「イエス、マスター。

 ー『50%』、投入します」

「……え?」

 カノンが驚愕の数値を告げた直後、先程と同じく新しい『試作品』が皿に盛られた。…けれども、『それ』は先程までとは『少しだけ』違っていた。

 ー『それ』は、濃いブルーに輝いていたのだ。

「ああ、そういえば『レプリカ用』のはだいたいミルキーカラーでしたね」

「…は、はい。…確か、様々な星系の『オンリーワンマテリアル』をミックスしているからでしたよね?」

「ええ。対して、『オリジナル用』のヤツは基本的に『1種類』のみで作っています。…何故か、ミックスの方が『ウケ』が良いんですよね~」

 俺は、やれやれといった感じでボヤいた。…まあ、『オリジナル用』を作った後に残る『余り』を利用しているから、手間も掛からず『ムダ』も無くせるからこっちとしては嬉しいんだがな。


「…っ!という事は、『アレ』は『1種類』のみで作られたモノなのですか?」

「その通り。

 ー『アレ』に使っている『オンリーワンマテリアル』は、そちらに居るウェンディさんの出身の『ブルタウオ』で採掘されたモノです」

「…っ!」

「ほう、あの『青の銀河』で…。

 ーっ!」

「…お」

『……』

 そんなやり取りをしていると、3体の『キャット』達に明確な変化が起きた。なんと、先程まではチラ見するだけだったが明らかにガン見するようになったのだ。…おまけに、口の端からはヨダレが流れ始めた。

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